悪質な暴露


※高土、伊土。拷問あり、銀八サイテー





「今日高杉んとこだろう」

 銀時さんが俺に話しかけてくれる。

「うん。なんか用ある?」

 本当は行きたくない。銀時さんと一緒にいたい。銀時さんと暮らすこの部屋で、身体には何も纏わず、銀時さんの体温だけ纏っていたい。あと、匂いも。肌も。できれば唇も。あと、あと手のひらと、声。
 ……なんて、俺は相変わらず欲張りでダメだ。
 そんなことは、銀時さんにさえ言えないんだけれど。

 俺は部屋着のスエットを脱いで、わざと股間を銀時さんに向けて突き出した。でも、銀時さんは構ってくれなかった。

「なら、しばらくこっち来ねえか。冷蔵庫ン中、適当に減らしとくけどいいよな」

 なんだ、食べ物の心配か。
 俺がいなくても、銀時さんにはなんの支障もない。

「足りる? 足りなくなったらメールくれよ、ケータリング手配するから」
「結構。貧乏舌には合わねえ」
「でも、向こうに長居することになったら、」
「おめーの家はアッチだろ。別宅の心配はしなくていい」
「……俺の家はここだ」
「違う。そこは間違うな」

 銀時さんはあの赤い瞳で俺を見つめる。いつまで経っても子供な俺を諭すように、その眼は穏やかだ。
 もっと嫉妬してほしい。高杉のとこなんて行くなって、俺のところにいろって言ってほしい。

「行ってきます、銀時さん」
「またな。土方くん」

 俺は出かけるだけのつもりなのに、銀時さんは俺を客のように見送る。
 嫌なのに。
 やっと、やっと一緒に暮らせるようになったのに。
 何度も別れて、その度に俺は泣いて泣いて、何にもできずにただ泣くしかなかった。売専してたときもお客の横で泣き、ホストになってからはお客に慰められ、高級男娼になってからは慰められる男だけを選び、心から愛したひとが日一日と俺から離れていく様を見つめなければならない俺の惨めさを語った。その中の一人が、たまたま同級生だったんだ。

「土方よ。テメェ、まるで高校生のまンま、何にも変わっちゃァいねえな」

 高杉は長々しい俺の話を毎回黙って聞いた後、決まってせせら嗤った。

「いい加減銀八を解放してやったらどうだ。テメェの重さに、奴さんもあっぷあっぷだろうぜ」
「あ、会ってねえしッ、迷惑は掛けてねえ」
「さあ。どうだかな」
「銀時さんは、会社でも優秀だから……同僚とかがほっとくはずねえ」
「そうか。めでてえな」
「会社なら年齢層だって豊富だし、年相応の人を選んで添い遂げたり、するかもしんない」
「まず、あり得ねえ。心配すんな」
「だって、相手が妻子持ちだったら!? 銀時さんあれでも優しくて流されやすいから、そんな奴に惚れられて言い寄られて、奥さんに慰謝料請求されたら! 仕事クビになっちまう」
「土方落ち着け。お前さんが思ってる銀八を百で割ってマイナス五十掛けたくらいが、実物大の銀八だから」
「そんなはずないッ、毎年生徒に言い寄られるんだぞ! その中からいちばん気に入った子だけ抱くんだ。今までどれくらい……えっと。勤続二十年として、あれ。数が合わねえ」
「そんなに頭の弱い可哀想な子は滅多にいねえ。テメェと、俺が悪戯して無理やり差し向けた二、三人くらいだ」
「お前も銀時さんのこと好きだったのか!? お、お前も銀時さんに、抱いてもらったのか」
「聞いてたか俺の話を……まあ、いい」
「なあ、ドンペリ飽きた。だいたい美味くないよなドンペリって。なんでホストクラブってドンペリ入れさせないといけねえんだろう……俺、日本酒飲みたい。獺祭頼んでいいか」
「好きにしろ、馬鹿」
「馬鹿って言うな! それは、」
「銀時さんとかいうエセ教師専用用語だったか。わかったわかった。阿呆にしとかァ」


 高杉は割とまともに銀時さんの話を聞いてくれた。高杉ほど銀時さんの話をしてスッキリできる客はいなかった。話の合間に会社の金勘定させられるなんて大した手間じゃなかった。たまにパソコン渡されて数字を埋めとけなんて言われるけど、銀時さんの話をしながらでいいという条件で受けてやった。というか、俺が嫌がることは、そこでは許されない。
 しばらくして俺は、高杉の愛人になった。高杉は奥さんというか、パートナーがいた。だから愛人だし、正妻さん、まあこれも同級生の河上万斉なんだが、奥さんとは会わないようにしなきゃいけなかったし、河上が来たら他人のふりしなければならなかった。たとえ裸で抱き合っていても、だ。ラブドールのふりしろって言われたからそうしたら、河上に腕もがれそうになった。

 高杉のドSっぷりは、銀時さんよりある意味極めてて、大丈夫なのかこいつはって心配になってしまうくらいだった。河上との関係では高杉はネコらしいのだが、俺には徹底的にタチだった。俺の部屋は高層マンションの最上階で、フロアには他に部屋がないのをいいことに、公共スペースに首輪とアナルプラグ二つで放り出されて締め出されたり、その格好で一階の自販機で飲み物買って来させられたり、窓に向けて脚どころかクスコで拡げきったアナルを晒させられて、世間の皆様とおしろうの恥ずかしいお尻の中をご覧くださいって何度も叫けばされたり、そんなことしたら腹に力が入るから漏れちゃうに決まってて、その横で高杉は笑って、世間の皆様土方とおしろうはド変態でトイレの躾もできてません誰か俺にトイレを教えてくださいって叫べとか、酷いことをたくさんされた。アナルを拡張するために人の頭ほどある大きさの風船を俺の尻の中で膨らませてみたり、かと思うと締まりが足りないとか言ってでけえアナルプラグ突っ込んだり、やることがイマイチよくわからなかった。特注で拷問器具を作らせて、いちいち俺で試すのも高杉の趣味だ。梨とか試されそうになって俺は死んだと確信した。ああ、銀時さん。もう一度会いたかったのに俺は高杉の変態趣味に殺されます。俺が死んだらちょっとだけでいいから泣いてください。いろんな意味で。

 武市が、それを実行したら俺が死ぬと指摘してくれたので俺は死なずに済んだ。内側が針だらけの箱に閉じ込められそうになったときは、来島が止めてくれた。女の人なのに、裸でパイパンの俺を見ても可哀想にと言いこそすれ、避けたりしないでいてくれるいい人だった。晋助様は言い出したら聞かないッスからね。何時でも呼んでいいッスよ。それはそうとカワイイチンコッスね。リボン結んでいいッスか。

 武市も俺のパイパンだけは気に入ってくれた。高杉が怒るからあんまり大っぴらにはできないけど、たまに目を盗んで触らせてやった。つるつるだろ、つるつる、銀時さんがしてくれたんだ、って自慢すると、なんだかため息を吐いてそうですか、幼女でもないのに銀八さんも物好きな……とかなんとか言って、聞き返しても答えてくれなかった。そのわりにはたまに触りに来て、でも撫でてはため息をつくだけだった。へんな奴。肝心なとこにはさわってくんねえの。

 高杉と抱き合うときは、薬を嗅がされるのか……俺は、なんだかよくわからなくなって、気持ちよくて、何されても感じて感じて酷く気持ちよくて、この時だけはあの人の名前を叫んだ。高杉がいいって言ってくれたから。シンスケって言わなきゃダメかって最初にきいたら、呼ばなくていいって言ってくれたから。好きに呼べって。

「ぎんぱち、ぎんぱちーーーッ、ああ、ああ気持ちいい、気持ちいいよぉおお……ぎんぱち、ぎんぱち、ぎんぱちーーー! ね、おれの、ここにッ、ぎんぱちのおっきな、お、おちんちんをッくださいーーー! あああ! もっと、もっとください、くださいーーー」



 銀時さんの会社が傾いた。
 俺にはどうしようもない。株を買い支えようにも銀時さんの会社は非公開株式で、俺が買い占める訳にはいかない。むしろ売って経営者に集中させるべきかもしれないが、俺はあの男を信じていない。というよりなんで俺がこっそり買ってることに気づかないんだ。おかしいだろあそこの経理。
 取引先に梃入れしてみたが、銀時さんとこが足を引っ張るから業績が上がっては下がる。材料費は高騰。ああ、銀時さんが路頭に迷ってしまう。

 銀時さんが、遠くに行ってしまう。


 俺は高杉に頭を下げた。這い蹲ってお願いをした。頭を踏まれて、蹴られて、お前は俺の持ち物だ飼い主を誰だと思ってやがる身の程を知れと怒鳴られた。拷問も酷くされ、武市も来島も助けに来なくなった。熱湯に近い湯船を跨がされ、腕は後手に天井から吊るされ、パイパンちんぽを茹で上がらされたくなければ銀時さんを諦めろと怒鳴られて、吊るした鎖をガシャガシャ揺らされ、尻を鞭で叩かれた。ケツ穴に鞭の柄も突っ込まれた。ああ、ここで小便か糞漏らしたら熱湯の温度も少しは下がるかなぁ、なんてぼんやり思った。
 フィストファックに耐えたら望みを聞いてやるって言われて頑張ったけど、一度や二度じゃ許してくれなくて、もう俺は人工肛門にされて一生ケツ穴なんて使い物にならないかもしれない、そうしたら銀時さんとセックスできないけどあの人はそれでもいいだろうか、って薄っすら考えたりもした。

 そしてようやく、ようやく俺は、高杉の許しをもらったんだ。日常的に3Pしたいから相手を探せっていうオプションもクリアした。俺を強姦した伊東と佐々木兄貴に声を掛けたら、伊東のほうは嫌々みたいなふうを装ってすぐ飛びついた。さすがに佐々木先輩は怪しんで、様子を見ると言った。俺も内心はそれがいいと思う。


「銀時さん、言い忘れたけどプリン買ってある。いっぺんに食うなよ」

 メールしたけど、銀時さんから返信はなかった。もう眠ってしまったのかもしれない。できれば俺が添い寝してあげたいのに。

 今日の相手は、伊東。あんまり得意じゃない。正直言えば、怖い。

「久しぶりだね土方くん」

 トークとかやめろよ、下手なんだよお前。あの時だって黙っていきなり突っ込んできただろ、佐々木先輩は一応注意したんだ。男だから濡れませんよって。ほんと痛くて、なんとか耐えられたのは伊東が短小だったからだ。あれっ勃ってるのかな?って今でも時々思う。後ろからされる時、挿れてるのかどうかわかんなかったりもする。気持ちいいかい、なんていやらしく言われて、あっキモチイです、なんて慌てて言ったりして。可哀想だから言わないけど。高杉なんかもう半笑いだけど。

「……土方くん。銀八のところから直行かい? シャワーくらい浴びておいて欲しいね。今日は……眠るだけにしよう」

 ん? 回想してたらもう始まってたのか。ほんとお前、わかりにくい。自信持てよって俺が言いたくなる。
 なんだか様子がおかしい。やたら風呂に入れたがるからちょっとサービスして、一緒に入ろ、と言ってみたら真っ赤になって怒った。

「君という人は……! 僕に恥を掻かせるのが、それほど楽しいかい。卑怯者。僕は君が、嫌いだ」
「俺もだけど。じゃあ断ればいいのに」
「君の無様な姿を見て溜飲を下げるのが僕の目的だった! さすが鬼の副委員長と言うべきか、しかしこれは人としてどうかと思うッ、僕は、君を許さない!」

 叫ぶと同時に俺の背中を写メる。

「オイ。話がちげえぞ、画像は反則だろうが、あ?」
「こんなものすぐ消すに決まってる! 君に見せるためだ、見ろ!」


 俺の背中に書かれた、銀時さんの筆跡の、メッセージ。


『土方へ 短小は捨てろ。早く帰ってこい。銀八より』


「銀時さん……」
「馬鹿か君は」
「馬鹿って言うな! それは、銀時さんの」
「銀時さんとは誰かね。馬鹿でなければ阿呆だ、君は」
「阿呆は、高杉が」
「帰れと言われているよ。帰るかい」
「……え、」
「銀八が、君を待っている」
「……」
「僕は短小じゃないと伝えてくれ」
「……小せえよ。かなり」
「まだ、本気出してないだけだ。さようなら」


 ぎん、


 だれ?


 ぎん、とき、って呼べって、


「ん? 早かったな。いらっしゃい」


 この人は、だれ?


「ただいま、」
「いらっしゃい。お邪魔します、だろ。土方くん」
「土方、くんて……だれ」
「おいおい高杉の野郎、変な薬使ってんじゃねえだろうな。大丈夫か?」
「土方くんて、どうして」
「そう呼ぶ約束だろ」
「あなたは、だれ?」

 その人は、苦笑した。

「参ったな。効きすぎたか」
「だれ、」
「銀時だよ、土方くん。銀時。銀時さんって言ってごらん」
「ぎん、と……」
「そう。銀時だよ」
「ぎん、」
「今日は誰に会ったの。高杉?」
「ううん、伊東――それより、あなたは」
「伊東のほうだったか。ありゃ、もしかして図星ついちゃってたりして」
「うん。伊東は小さいけど、それより」
「あー、シャレになんなかったのな。悪ィことした。おいで」


 ぎんぱち。


 どうして呼ばせてくれねえの。


「そういう約束だろ?」
「ぎん、ぱち」
「違うよ、土方くん」
「ぎんぱち、」
「銀時。ぎんとき、だよ」
「銀八」

 自ら腕を伸ばした。銀八の首に腕を絡めた。唇を押し付けて、離して、もう一度『銀八』と呼んだ。

 銀八は目を伏せた。
 迷ってるのか。それとも忘れてしまった?

「銀八。俺のあそこに、ぎんぱちのおちんちんをください」


 思い出して。お願い。

「あなたの、おっきなおちんちんを、俺のあそこにください」
「十四郎、」
「ごめん。汚れてるかもしれないけど、俺の穴――でも、あなたのが欲しい。あなたに触って欲しい。フィストとか拷問とか、なんでもいいけど全部全部、全部……あなたとシたいの。ぎんぱちと、ぎんぱちに、シて欲しいの……他の男はキモチくない訳じゃないけど、ぎんぱちがいいの。ぎんぱち、ぎんぱちとヤるのが一番しあわせで、安心で、気持ちよくて、大好きなの……」




「土方くん、起きろ。高杉んとこ帰る時間だぞ」
「ぎんぱち」
「……今のは聞かなかったことにする」

 銀時さんは顔をそむけた。
 ゆめ、か。
 現実は痛すぎて、耐えられなくて、俺はもう一度目を閉じる。


 ああ、ぎんぱち。


 そう呼べる日は、もう来ないのか。これほど近くにいるというのに。
 他の男に抱かれて訳が分からなくなったときにしか現れない、幻のひと。




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