売り物につき、


※もう、なにがあっても驚かない人へ。



 血液検査の結果が出た。
 俺たちは寄り添ってそれを見た。

 HIV、陰性。梅毒、陰性。
 肝炎の検査もついでに両方してもらったが、いずれも陰性。

 よかった。本当に良かった。

「これからは定期的に検査しような」

 というと、土方ははにかんだ笑顔を見せてくれて、甘えて俺に身体を摺り寄せ、うん、一緒に行こうな、と言ってくれた。本当に愛しい。これからは大切にしよう。この子一筋で、よそには手を出さない。指一本さえ触れるものか。
 土方といえば、辛い病気も治り、検査の結果保菌の心配もなく、トイレで涙を流して呻くこともなくなった。こんなに綺麗で可愛らしいんだから、もう性病に罹ったりしないよう、しっかり見張っていなきゃ。

「だからって、これ」
「大丈夫。このまま小便できるし。細身だから痛くない」
「今は痛くないけど……勃ったら、どうかな」

 俺は約束通り、土方の尿道に器具を入れてあげた。旗はついてないけど。可愛い房飾り付き。
 それから新しく貞操帯も買い直し、土方の陰部をしっかりと護った。もう別の男の物など絶対に受け入れさせない。
 けれど一介の高校教師は、一時期とはいえその道に身を置いた子に、知識の面で追いつかないことが増えた。

「もっと柔らかい素材のがあるんだ。買いに行くのはまずいだろ? ネットで一緒に買お」
「あー、」
「あとさ、ゴムも買い過ぎると賞味期限切れちゃうし。こまめに買い足そう」
「ふうん……そう」
「ジェルもさ、俺の使いやすいやつにしていいかな。ごめんな、銀八が持ってるのってちょっと乾きやすいし、途中で痛くなっちゃうの嫌だから」

 スレた。この子は確かに土方だが、何かが違う。もっとこう、

「十四郎」
「なあに」
「脱げ」
「これ以上脱げねえよ」
「違う。脱げ」
「え、」

「なあ。痛くしていいか」


 土方の顔色が変わった。でも、それは気のせいで、すぐに土方は笑って、よくわかんないけどいいよ、と言った。

 今の土方にはピアスホールはない。纏わせる金の鎖も、余計な衣装もない。ないが、土方は何かを纏っている。それを剥ぎ取ってやりたい。

「あ……ッ、乳首やだ」
「黙れ」
「痛ッ! か、噛まないで」
「……」
「な、ぎんぱち……や、怖い」
「……うるさい」
「やめて……やっぱりやだ、怖いよ、ああッ!」

 陰嚢を握った。土方は悲鳴をあげた。当たり前だ、男ならここは。緩く立ち上がっていた陰茎は縮こまり、土方はその場に凍りついた。

「やめ、……って、言っ……」
「っせえよ。ケツ出せ」
「あ、や……まっ、て」
「待つか馬鹿」

 尻を叩いた。素手で、スパンキングとは言えない強さで叩いた。泣いて逃げようとする土方を押さえ込み、尻の肉を割った。いやらしい穴。そこに唾を吐きかけ、ローションなしにいきなり突っ込んでやった。土方は今度こそ泣いた。痛い。やだぎんぱち。やめて。痛い。痛いの嫌だ。

「土方」
「痛ッ、痛い! やだぁぁあやめてェェエ! 切れちゃう、裂けちゃうぅぅう!」
「二人に犯されたときココ解してもらったのかよ」
「あっ、ああ……貰わなかっ、た」
「ローションはっ」
「なかった! 使ってくれなかっ……!」
「そうだよな、知らねえもんな。そいつら男のヤり方知らねえもんな! そんでお前は我慢したんだろ、我慢して、痛い痛い言いながらヤったんだろうが!」
「ヤッた……ぐすっ、いだがっだぁぁあ! やめでっでいっでも! やめでぐれながっ、あああ! ぎんぱちぃぃい! いやっ、いやアアァァ」
「で? イけたのか? 痛くて泣いて、やめてって言ったのにやめてもらえなくて、糞漏らしたんだろ? イったのかテメーはよ」
「イッだ! イッだァァアアァァ! ギモヂイぐで、ぜーえぎもうんぢもいっばいでだぁぁあ!」



 土方は、俺を避けるようになった。


 目の前にいる。


 大事にしたいと思った。


 やっぱり、できない。


「せんせい、今日、俺、遅くなるから……寝てていいよ」
「そう」
「うん……ごめんな、」
「なにが」
「いや、なんか」

 土方は無理に笑った。

「銀八。別れても、いいよ?」
「馬鹿――ッ、」
「……そう? バカは、せんせいだ」


 土方はますます笑った。


「気づいてないだろ。俺、売り専また始めたんだ。ずっと前に」
「……!」
「気づいてないよな。大丈夫、今度はゴムもちゃんと使ってるし、ビョーキも検査した。銀八と別に」
「……」
「だから銀八は大丈夫。ていうか、そんなにシてないよな? ははっ、久しぶりにさわってもらえるって勝手に喜んで、痛くてもいいやなんて軽く考えたら、ダメだった」
「……」
「銀八だけなんだ。痛いのがダメなの」
「えっ」
「他の男なら痛くされてもちゃんとイける。それこそ穴開けようが、血が出ようがぶっ叩かれて縛られようがキモチイイんだ。尿道に指突っ込まれてもケツマンコごと犯されても。すげえキモチイイ。天国見ちゃった。ちんぽの穴があんなキモチイイなんて、知らなかったよ。せんせい教えてくれなかったし」
「……」
「ケツ穴貫通してもらったのがせんせいでよかった。やっぱり記念にしとけばよかった。俺、欲張って。次も、もっともっとって思った俺が悪かったんだ」
「……」
「ごめんね。気持ちは嬉しかったけど、銀八がくれたスティック全然緩くて、キモチくもなんともない、つうか入ってても入ってなくても変わんねっつうか」
「……」
「一緒に買おうって言ったら固まってたよな。ああ、俺が主導権取ったらつまんないんだこの人はって、それはわかった。だから仕掛けてくるまで待ってた」
「……」
「でも、ダメなんだ。銀八だけが、痛くて。痛いのが辛くて、キモチイイって思えない……だから」
「……」
「だから、別れてもいいよ?」
「ひじかた」



「あ、俺いいこと考えたよ。とおしろうな俺と付き合ってみる? それなら俺、痛くても……」



 何を、間違った。
 どこで俺は。

 
 


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