痛い


 助けてなんぞとは言えなかった。
 自分が助けられなかった多くの人に対して、それはフェアでないと思った。
 ただ、あと数分だけ。
 その時間だけ許してほしい。
 いつもなら数秒で済む作業が、上手くいかない。指先の感覚がなくなってきたし、目も霞む。手が震えて小さなカラクリがしっかり支えられない。さっきから落としてばかりなのは、わざとじゃないんだ。

「土方、」

 ああ、耳もイかれてきたらしい。あいつの声が聞こえるなんて、どうかしてる。
 あいつにはちゃんと、言っとかないと。
 今日の約束、またキャンセルさせてくれって。じゃないとあいつはやたら心配して、酷い顔で走り回って、

「土方。目ェ開けろ」

 開けてるだろうが何言ってんだ。またテメー走ってきたんだろう。頭に酸素が回ってねえんだよ。

「とにかく、帰ろ。な?」

 あったけえ。
 あったけえな、お前の手は。でも今はそれも痛い。痛いなんて泣き事言えた立ち場じゃないから、絶対言わねえけど。

「もっと早く気づけばよかった」

 テメーのせいじゃねえって、何回言えばわかるんだ。ほんとにパアだなお前は。

「ごめんな。ちょっと触るぞ」

 嫌だ。それは嫌だ。さわるな、


 見るな。


 強姦された上に斬られた身体なんて見られたくない。
 ヤられたのは俺なのに、お前がそんな顔するな。薬が切れて動けるようになったら、知らん顔して次の約束取り付ければいいと思ってたのに。ああ、メールさえ送れてれば。

「ひじかた、」

 そんな顔してほしい訳じゃないんだ。知らないでいてほしかった。触るな、天地の感覚がおかしくなってるんだ。ここは、どこだ。

「誰にやられた」

 おまえは知らなくていい。来てくれて、嬉しかった。それに自分がどうなっているのか、よくわかんねえんだ。

「救急車呼ぶぞ? いいか」

 やめろ。こんなん、なんでもねえ。おまえには……少し、悪いと思うけど。失敗じった。俺が全面的に悪い。油断にもほどがあった。

「近藤にも、知らせねえと」

 なに言ってんだ、やめてくれ。こんなとこあの人が見たら、正気じゃなくなっちまう。

「沖田くん、やっぱり二人にしてくんね」

 総悟?
 どうして呼んだんだアノヤローまで。
テメーいくらドSだからってやっていいことと悪いことくらいあんだろうが。
 また身体の向きが変わったらしい。ぐるぐるする。気持ち悪い。吐きそうだ。

「ひじかた」

 クルクル天パが俺の顔に触ったみたいだ。おかしいな、感覚がものすごく遠い。こいつの体温がわからなくなってしまった。すごく、寒い。

「どうなったっていい。俺のこと忘れたっていい」

 なに馬鹿なこと言ってんだ。今さら左胸がヤケに痺れて重い。喉が上手く動かない。吐く、

「死ぬな、」
「げほっ」

 あ、血ィ吐いた。
 斬られたんだった、俺。
 銀時の白い着物が真っ赤になっちまった。
 ああ、道理で感覚が鈍いわけだ。死にかけてんだ、俺は。

「ぎんとき」

 声を出したつもりが、息しか出なかった。代わりにまた血がせり上がってきた。
 せめて目が見えたらいいのに。指の感触が戻ればいいのに。
 ああヤバイ、意識がなくなる、

「ひじかた……っ!!」

 ごめんな。
 痛いとか苦しいとか、俺はもう思わないけどおまえはこの先ずっと痛いんだろうな。
 いつも言われてたのに、俺の怪我は自分のより痛いんだって。今やっとわかったけど遅いよな。

 ぎんとき。
 はやく、しあわせになれよ。





「死なせるか。見てろ、十四郎」



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半端におわり。たぶん、死なない







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