女になりました


「俺たちはもともと女だったらしいよ」


 銀時は男臭い顔で俺に覆い被さり、耳元で囁く。

「ここはね、最初は男も女も変わんねえカタチなんだって。母親の腹ん中では」

 やけにドキドキする。見慣れた顔のはずが、獣のように思える。でも、逃れたくはない。

「それがごく小さい頃に、塞がってね。こういう形になるんだってさ」
「ひゃっ!?」
「だから今の土方は、」

 と言って銀時はぎらぎらした目で俺を見下ろした。ドキドキする。いつもの銀時の匂いなのに、くらくらする。

「ここが、引っ込んでこうなってるんだよ」
「あッ、痛……、」
「処女だもんな。優しくしてやんなきゃ」
「ふっ、ふざけんなっ」
「大丈夫。ゆっくり溶かしてあげる」
「あんっ! あぅ、」



 総悟の馬鹿に一服盛られて女になってしまった。しかも万事屋に泊まりに行った翌朝だ。夜は夜で散々鳴かされ、朝起きたら身体が小さくなっていた。またあの馬鹿の仕業か、とうんざりしてもうひと眠りしようと銀時の胸に潜り込んだら、銀時が目を覚まして絶叫したのだ。

「ちょ、土方ァァァ!?」
「なんだよ。寝れば治……」

 自分の声に違和感を覚えて咳払いをしてみた。だが銀時はすぐに立ち直って、俺の胸を鷲掴みにしてきた。

「ギャアァァァ!?」
「おお、いいかんじ。銀さん好みの弾力」

 自分の胸を見下ろすと、銀時の手が膨らんだ乳房を揉んでいるところだった。




 そんな小さい土方に着せる服はないし、服どころか下着もない、と銀時はきっぱり言い切った。

「買いにいったらおかしいだろ? それに沖田くんの仕業ならすぐ戻んだろ」

 だから裸でいいよね。
 銀時は真顔で言った。問い掛けているが反対はさせない気だ。ふざけんな、

「なんとかして来い」
「だから、できません」
「嘗めんなテメーいい加減に、」
「してほしい?」

 銀時の襟を握って揺さぶってやろうとしたのに、簡単に外された。手首を握られて振り払うどころか、力も入らない。

「舐めちゃおうかなァ」

 耳朶に温かい滑りが這う。やめろ、そこはいつも、

「ひゃあ!?」
「感度上がった? 弱い場所は同じかな」

 確かめてみよーっと。
 軽いのは口調だけで目は笑っていない。口の端が吊り上がって、かなり性質の悪い貌だ。その紅い目の奥に情欲を読み取ったら、もうダメだった。身体が動かない。

 銀時は耳をしばらく舐っていたが、やがて首筋に降りてきた。なんだか銀時がいつもより大きい。背中も、胸板も、腕も。
 銀時の唇が乳首に触れたとき、俺は電気ショックを受けたように身体が跳ねるのを止められなかった。

「やっぱり。男ンときもココ好きだしな」

 唇に挟んだり尖らせた舌で突ついたりされるたびに下半身がじん、と疼く。胸全体を手のひらで包み込まれ、やわやわと揉まれ、片方は乳首を舐められたり摘まれたり、

「どうしたの。膝もじもじ摺り合わせて」
「わかんねっ……あつい、」
「どこが」
「あっ……、腹ん中ぁ」


 わかってるくせに。知ってるくせに。睨みつけると銀時はニヤリと笑った。

「今日はわかってやれないよ。俺は男だし」



 愕然とした。
 こいつは……、女の俺を抱くのか。
 あまり面白くなかった。これは俺の身体じゃないような気がする。感覚は俺だし昨夜の名残も残っているけれど、俺じゃない。
 なのにお前は女の身体を抱くのか。
 ささやか過ぎる抵抗をして、とうとう全身を押さえつけられた俺は、あらぬところにあらぬ痛みを感じて思わず声を立てた。
 そうしたら銀時が、俺の手をとって自分の陰嚢に導き、最低な解説をした。

「せっかくだから、いつもできないことしようぜ」

 銀時は指を抜き(どこからかなんて恐ろしくて考えられない)、素早く俺の腰を抱いて押さえ込んだ。
 銀色の髪が、脚の間に埋まる。

「ああっ!? やだ、それヤダぁ……!」

 舐められてる。
 神経を直接刺激されているみたいに、びりびりする。嫌だ。気持ちいい。腰が抜けそうだ。やめて欲しい。死にそうだ。

「やだ! そこやだ……ね、ぎんとき」

 女みたいな声だ。いや女の声だ。女の声だから少しくらい出しても気持ち悪くないだろうか。それにしても酷い。この刺激は酷い。

「やっ、やだ……」
「なんで」
「やだから、やだぁ」
「気持ちよくないの」
「きもちいの! びりびりしてっ、すごいの……やめて、」
「キモチいんならいいじゃん。ここもほら、洪水」
「あっ……!」

 さっき指を挿れられたところだ。痛い。挿れる専門のはずなのに、尻より痛い。内臓持っていかれそうだ。

「いたい、やだ、それやだ!」
「ゆっくり解してあげる。初めてだもんね」
「指、いたい……」
「ん。痛かったら泣いていいよ。俺の背中爪立てていいから」
「いたい、いたぁい!」
「大丈夫、優しくするから」
「やだ。やだ……怖い」


 なぜか胸がぎゅうぎゅう締めつけられて苦しくて、涙が止まらない。女とはこんなに感情が制御できない生き物なのだろうか。助けて。死ぬ。

 さっき舐められてびりびりしたところをまた指で捏ねられた。脳天まで痺れる。気持ちいい。きもちイイ。漏らしそう。嫌だ、そんなの。

「脚、伸ばしてみな」
「ん、ん、ぎんっ、」
「腰振っていいよ。見てないから」
「ん、はっ、はぁっ」
「……十四郎、」
「アアアッ!? なに、これ! アッ、やだ怖い! あ、ああっぎん!? ヤアダァァァ止めてぇぇぇ!」

 女のイきかたをしてしまったのだと理解するまで、随分時間が掛かった。銀時の腕の中でヒクヒク痙攣する我が身を持て余し、脚を擦り合わせると中の違和感が酷くなった。
 銀時の指が、まだ入っている。
 見上げると銀時は、目を瞑って何かに集中しているようだった。

「抜け、ばか」

 もぞもぞと身動ぎしてみるが大きな銀時の腕からは逃れられない。それでも無駄な抵抗をしてみる。

「大丈夫なの」
「はっ、何が」
「ナカ。ひくひくしてる」

 目の前が真っ赤に染まった。
 伝わってるんだ。伝わってしまったんだこの、浅ましい脈動が。
 涙が止められない。なんて厄介な生き物なんだ女ってヤツは。抱きすくめられて逃げることもできない。そして、温度だけはじわじわとまた上がっていく。
 
 ごく丁寧に、ゆっくりと指が動かされている。
 きもちよくはないけれど、慣れてきた感触がわかる。それが、嫌だ。


「なあ土方、」


 いやだいやだいやだ、
 はなせはなせはなせ、
 そうごのバカ、ころしてやる、


「俺はおめーが男だろうと女だろうと、おめーの『初めて』を見っけたらカッ攫いに行く。わかんねえ?」


 なんだって。
 なにいってんだ。


「だから、テメーの処女は俺が貰う。当然だろ」


 とうぜん、だと?
 ばか。ばかばかばか

「女の気持ちも、聞きやがれ……」

 銀時にかじりついて泣いた。我ながら細い腕だと思った。
 女の身体だから、俺が女になったから、都合がいいから。
 だから抱くのだと思っていた。
 文句も言わない。女になったと言って信じる者は限られている。そして、


 女のほうが抱き心地がいい。


 そう思ったのに。
 そういえば今日こいつはキスしようとしない。理由はわからない。それは俺が女だから、理由なんてわかりたくないからだろうか。
 それとは別に、こいつが一部の女にやたらモテる訳がわかった。やたら強引でクサイ台詞を吐くからだ。きゅんとしちまったじゃねえか。意味わかんねえのに。

「痛くすんなよ」
「わかってる」
「優しくしろよ」
「うん」
「……怖いことすんなよ?」
「絶対」
「……きもちくなってもいいか?」
「する。嫌がってもな」


 だから言っただろ、と銀時が囁く。

「ここは、さ。いつも俺が舐めてやるアレと、元は一緒なんだって。このびりびりするお豆も」
「あッ!? そこもう、やだ……」
「銀さんが擦ったり舐めたりする土方のちんことおんなじなの。感じ方は女の子なんだろうけど、土方を気持ちよくしてえの」
「あん、あっ、ああ! やだやだぁ」
「泣いていいよ。ぐっちゃぐちゃに乱れていいから、この身体でめいっぱい気持ちヨくなれよ?」
「はっ、はあ、んあ! そこダメ、そこやだぁ!!」
「そこってどこ。言ってみな」
「やっ!? ねっ、おねがい、」
「知ってるだろ? 言わないと、」
「あーーッ!? 言う、いうーーっ!! クリ、」
「誰の」
「とおしろ、の、クリトリスぅ、も、触んないでーーーッ!」
「真っ赤。綺麗なのに」
「あ、あっ、言った! 言ったから、やめてーーっ、取れちゃうぅぅ!」
「何が?」
「とおしろのッ、クリ、取れちゃうからーーーッ!!」
「イかなくていい?」
「もういい! もうやだ、」



「貰うぞ。十四郎」



 充分蕩けさせてくれて、
 無痛ではなかったけれど、
 俺は銀時を受け入れられた。


 大きな背中に夢中でしがみつき、逞しい腰に脚を絡めて、俺は銀時をすべて味わった。流れる汗も、男らしい匂いも、厚い胸板も、柔らかい髪も獣のような目も、全部。

「中に出すぞ」

 それは俺の望みでもあった。もしもこの身体のまま孕んだら、産みたいと思った。頷いてみせると、銀時は苦しそうに片頬だけで笑って、声を殺して俺の肩を抱きしめた。
 身体の奥に、熱いものが注ぎ込まれている。
 女とはこんな幸せを享受する幸運を得た生き物なのかと、ぼんやり思った。





「このまんま、さ」

 まだ銀時の分身は俺の胎内にある。ときどき蠢くのが、嬉しい。

「お前が男に戻ったら……俺たち繋がったまんまで居られんのかな」
「?」
「言っただろってば。今のお前のココは、元のお前のアレだって」
「……」
「このまんまお前が男に戻ったら、抱き合ったまんまで居られんのかなって」
「……、」
「悪ィ。冗談」

 止める間もなく銀時は身体を離した。シーツには少し血の痕がついていた。

「風呂入る?」
「ううん。元に戻るまで、一緒にいる」
「ははっ、じゃ一緒に入ろ」
「流したくない」
「大丈夫かなあ」

 本気で心配し始めた銀時の首に腕を巻き付けると、簡単に布団に倒れた。そのまま銀時の胸に収まる。

「いつ戻るの」
「さあ」
「戻れんだよな?」
「さあ」
「オイオイ……、ほんと大丈夫か」


 にわかに慌て始めた男の胸に耳を押し当てると、速くなった脈がトクトクと聞こえた。
 戻らなかったら、この男の嫁になってもいい。たぶん喜んで娶るだろう。戻るのに不具合があったって、この男は受け入れてくれるだろう。


 
 男は後悔するけれど、女は意外と前向きな生き物なんだな、と少し見直した。





‥‥‥‥‥
夕方くらいに元に戻って、銀さんはホッとするけど土方はちょっと残念。




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