いつもの手


 土方は事の最中、シーツを握りしめる。俺はそれが嫌で、せめてその手を解こうと土方を焦らす。
 大丈夫だよと耳に囁き、きつく閉ざされた瞼に唇を落とす。固くなった指の関節ひとつひとつを何度も指でなぞってから手のひらで温める。そうしてやっと土方は力を弛め、俺は所在無げなその手を引いて強引に指を絡める。
 それが常だった。



「土方ってさーモテる割に意外とウブな反応するよねー」
「……っせーな」
「あっ女の子にこーんなカッコ見せられないかぁ、ごめんごめん、うふふ」
「……ッ」



 土方はあからさまな猥談が苦手だった。それは慣れていないせいに違いなかった。
 そうでなければ俺が困る。
 この行為に慣れなくて、恥じらって戸惑うのでなければ困るのだ。俺に無理強いされて仕方なく、なんてまさか。あの土方が抵抗しないはずはない。艶事を口にできないのも不慣れなせいに違いない。そう思って僅かな不安は心の隅に押しやった。
 最初から想いを打ち明けて始まった関係ではない。それどころか未だに言葉で確かめ合ったこともない。それでも俺が土方の想いを朧げに感じ取ったのは、何度目かに色宿へ縺れ込んだ時だった。いつものように頑なな土方を綾し蕩かし尽くそうと心を砕いた。そして丁寧に丁寧に時間を掛けて入口を解き、そこに初めて口付けた。
 土方は小さな悲鳴をあげて体を隠そうとした。震える土方に、怖くないよ大丈夫、と何度も言い聞かせてそこに口付けを繰り返した。土方は一度だけ、小さく消え入るように、ぎんとき、と呼んだ。

 俺の都合のいい解釈だったかもしれない。でもそのとき、確かに俺は土方の好意を受け取ったと思った。
 もしかしたらそれはまるで逆だったのか。
 俺が土方への気持ちを勝手に募らせた挙句、こんなに愛おしんでいるのだから向こうからも多少の好意を持たれて然るべきだと信じ込みたかっただけなのかもしれない。

「今日も、行くの」
「ああ。今日しか都合つかねえって言うし」
「……そう」

 土方はこの頃、ある幕臣の元へ通っている。



 もともと真選組絡みだったと、土方に聞いた。天人の某種族が新しく江戸と交易を始めたが入国審査で引っ掛かり、幕府はその星と一触即発の危機に陥った。天人側の外交トップとの交渉を担った幕閣がいたのだが必然的に双方の恨みを買い、一時は暗殺予告まで出る騒ぎとなった。
 その幕閣の警護役となったのが、土方だった。
 副長自ら危険に身を晒すことはない、と真選組内でも議論はあったが、真選組のNo.2である副長が行くべきだと当の土方が主張したそうだ。そうだ、というのは結局土方自身は決して俺にそれを語ることはなく、沖田が見廻りの最中に俺に愚痴り、俺はようやくそれだけを知ったからだ。
 真選組副長が付いていながら該当幕臣が暗殺されれば明らかな真選組の失態となるから、真選組の失脚を企図する一部の勢力はここぞとばかりに刺客を送り込んだ。その勢力を逆に探り当てて一掃することが土方の真の狙いだろう。謂わば土方は自らを囮にしつつ、かつ幕府内の反真選組分子を炙り出すために敢えて危険な任務を買って出たわけだ。
 そんな訳だからこの数カ月の土方は神経の張り通しだった。常勤の見廻りに出ることまずもなく、姿を見かけるとしたら、幕臣の乗る車に同乗しようとする姿か、その幕臣に従って登城するときの、わずか数秒だった。

 それでも最初土方は、もう警護対象が眠ったから、と俺に電話をくれた。ほんの二言三言、変わりないかとか体は大丈夫かとか、それくらいしか話す時間はなかったけれど。こちらからの連絡手段は一切禁じられた。近藤でさえ無闇に連絡できないと沖田が憤っていた。ましてや部外者の俺が土方に連絡できるわけがない。ただ声が聞きたいだけ、なんて論外だった。
 だから連絡は次第に間遠くなり、遂には途絶えたのも無理はない。
 最後に電話が来たのは今から一カ月ほど前だったと思う。

 久々の声に、俺は浮かれていた。その時もいつも通り、互いに体を壊していないかと問いかけた。久しぶりの会話なのに話すことはいつも通り過ぎて物足りなかった。なんかいつもと違うことねえかな、と俺は言葉を探した。

『そっちは変わりないか』

 土方の問いはいつも通りだった。いつも「みんな」の身を案じるのが不満だった。いつもなら、変わりねえから心配するなと答えるのだが、久しぶりなのにあまりにいつも通りなのが癪に障った。それで、少しだけ言い回しを変えてやった。

『変わりないけどね』
『……ッ、どうした』

 いつもと違う答えに、土方の神経が逆立つのが電話越しにもわかった。
 失敗した、と思った。ただでさえ休まらない神経をいたずらに刺激するのは本意ではなかった。慌てて『特に大したことはない』などと言い繕った。当然土方は追求してきた。

『何隠してる』
『べっつに。あ、隠してると言えば銀さんの銀サンが土方くんの……』
『アホか』

 土方は吐き捨てた。逆立った神経に苦手な下の話を吹き込まれたら、苛立つのは当たり前だ。その時もわかってたし、今ならもっとわかる。でも、久しぶりの会話でも少しも打ち解けない土方が不満だったのも確かだ。
 俺はわざと土方の抗議を聞き流した。

『土方クンのやーらかくてあったかーいトコが恋しくてさァ』
『変わりねえんだな』
『帰ったらさァ』

 ささやかな意趣返しと、面白半分の揶揄いだった。

『尻の穴ふやけるまで舐めちゃおーっと』

 いきなりブツッと通話が途切れた。電話の向こうで真っ赤になってるだろう想い人の様子を想像して、俺は心なくも笑ったのだった。
 それっきり、土方から電話が来ることはなくなった。



 幕府は某天人らと特別条約を交わした。危機は一応の収束を見た。同時に土方が護衛していた幕臣に辞令が下った。

「対象の配属が変わった。城ン中に居続けだから、俺ァお役御免だ」

 ある日何事もなかったように見廻りをしている土方を見つけ、思わず声をかけたら小声の早口で土方はそう言った。

「じゃあまた会える?」
「……あー、」

 土方は口籠った。そのまま見廻りの相方に呼ばれ、会話は終了となった。
 良くない予感はしたものの土方には土方の都合があるだろうと無理に自分を納得させた。俺は無策にも、土方から連絡が来るのをぼんやりと待ち続けた。土方がしばらく休めないのは、長らく屯所を空けていたからだろうと思うことにした。
 だから土方とやっと飲みに行けたのは、たまたま街中で見かけたのを捕まえて次の非番を聞き出せたからであり、最後の電話からはもう半年近く経っていた。

 久しぶりに向き合った土方は何処となく余所余所しかった。
 そこで俺は驚くべき話を聞いた。

『……まだ会ってるって。なんで、』
『呼ばれるし。断れる立場じゃねえから』
『何しに行くの』
『体よく城に缶詰めにされて、たまには外の空気も吸いてえんだろ。出られなくても話くらい聞きてえって言うし』
『……近藤は、なんて』
『特に報告はしてない』
『おい、』
『今度こそ真選組には関係ないからな』
『……』
『そういうことだから』

 今後もその男に会うからお前と飲む機会も減る、と土方は事務的に言った。
 それ以上何が言えただろうか。
 色よい返事をしているうちは真選組とは無関係でも、断れば真選組に難癖が向く。それを防ぎたいのは確かめなくてもわかる。
 何も、言えなかった。

 非番の前夜から二人きりという以前のパターンは崩れた。深夜に城へ行く土方につき合い、一緒に軽く夕食を摂る。その足で城に向かうのを見送る。そんな慌ただしい逢瀬が最近の『いつも』になりつつある。

「ちゃんと休めてんの」
「適当に息は抜いてる」
「……そっか」
「……」
「今日じゃねーとダメなの」
「だから今日しか都合つかねえんだって」
「……」

 会わない時間が長すぎたのだろうか。どうも会話が続かない。前はカウンターの隣の席でさりげなく体を寄せ合って、くだらない言い合いを飽きずに楽しんでいたのに。今では卓を挟んで差し向かいに、互いに視線を落としたまま黙り込む。無理に軽口を叩いてまた遠ざけられるのが怖かった。

「また連絡する」
「……」
「どうした」
「いや」
「はっきり言え」
「……そいつと、さ」
「なんだ」
「……や、」
「寝たかって聞きてえんじゃねえのか」

 カタ、と猪口を置く音がした。土方をまともに見られない。否定できない。

「違うか」
「……ちが」
「違うのか。ならもうテメェは俺に興味も何にもねえってことか」
「ッ、それもちが」
「向こうサンはエラく興味津々だったぜ。かなり最初の段階で、決まった相手がいるって言ったのに」
「!」
「根掘り葉掘り、上手くいってんのかとかどんな奴だとか。毎日顔合わせてりゃ話も尽きてくるし嘘で取り繕うのも面倒だし、特定の男と体の関係もあるって、そう言やドン引いて黙るだろうと思ったら」
「……」
「もっと聞かれた。突っ込まれるのァ辛くねえのかとか、ちゃんとイけんのかとか酷ェ抱き方されてねえかとか」

 土方の口からその話が出るとは思わなかった。呆然と聞いていると、土方はその男に語ったことを事細かに説明し始めた。
 初めてだったこと。どうすればいいかわからず戸惑い、されるがままに任せるしかなかったこと。慣れないと揶揄われても、ひとつも言い返せなかったこと。
 男はただ静かに頷いて土方の話を聞き、いつも最後には体を労われ、と諭されて、

「手は出してこなかった。今でも」
「……ひじか」
「なあ。お前、なんで俺と、」

 土方は突然口を噤んで俯いた。自然、その先を促したくなる。興醒めていたのは間違いない。なんだ、恥じらっていたわけじゃなかったのか。嫌うのは閨の話ではなく、俺そのものだったのか。震えていたのは慣れないせいではなくて、

「なんで、何」
「……俺、と」

 俺への嫌悪にそそけ立っていたのか。
 そうならそう言えばいいのに。これほど深い関係になってからいきなりお前が嫌いだったと言い出すくらいなら、初めから斬るなりなんなり拒絶すればいい。それをさせなかった自分には目を瞑り、土方を詰る方へと気持ちが傾く。無意識に土方を傷つける言葉を選んでいた。

「なんで俺がおめーとヤッたかって?」
「!」
「女みてえにヨガッてさぁ。ケツで感じてたんじゃねえの?」
「……ッ、」
「ケツマンコたァ良く言ったモンだ、指ィ突っ込んでちゃあんと解せばやーらかくなって吸い付いてくるしよ。てっきりヤられて喜んでんだと思ってたぜ」

 土方の項が、見る間に真っ赤に染まった。ざまあみろ、と溜飲を下げつつ、ふと思い当たる。
  なぜ今になって恥らうのか。
 今まで下の話を饒舌にしていたのは、土方のほうだったのになぜ今頃。
 引っかかったが俺の舌は止まらない。

「モテ男っつーからどんだけ慣れてんだと思ったらさぁ、灯りもイヤ、声出すのもイヤ、やーっと俺のブツに触ったかと思ったらすぐ手ェ引っ込めちゃうし。まさかびっくりしたとか言わねえよな。どこのオボコだ」
「……な、」
「なんでお前だったかって? あたりめーだろ。好きだから。惚れてたから……おめーも俺に惚れてると思ってたから」

 そう思い込んでた。思い込まなければ、俺は一方的に土方を想い、それを理由に土方を弄んだことになるから。

「嫌なのかもって考えたことはあったよ。あんまり初心な反応すっから浮かれてたけど、もしかしてあんま好きじゃねーんじゃねえのかなって。思ったけど、見なかったことにした」
「……」
「恥ずかしいのが嫌なんじゃなくて、俺が嫌なのか。ま、フツーに考えたら好かれてるわけねえよな」
「……ッ、」
「悪かったよ。もう俺に気ィ遣わなくていいから、その男と」

 ぐっと込み上げる熱い塊を、俺は無理に飲み下す。何でもねえ、気にしてねえって顔を作っろうとした。
 でも無理だった。
 急かすように鳴る土方のケータイを見たらダメだった。

「……早く行けば」
「万事屋、」
「行けよ。待てねえってよ」
「……ぎんとき」
「ッ、今さら嘘臭えんだよッ」

 卑怯だ。こんなときにその呼び方は。知らないうちに俺は、手を握りしめていた。自分の爪が手のひらに食い込んで痛むほど握り、それでも手の震えが止まらなくて、無様に隠そうとすると、


 その握り拳を土方の手のひらが覆った。


 いつも俺がするのをたどたどしく真似て、指でなぞり、そっと撫で、手のひらで温めて、


「しなかった。嘘じゃない」


 掠れて震える声で、土方はもう一度語り始めた。


「あんとき……一日中尾け回されて俺もそいつも神経ささくれ立ってて」
「……」
「やっと電話できたのにお前、いつもと様子が違えし、」
「!」

 最後の電話の日。
 そんな言い方、まるでお前が俺に電話したかったみたいじゃないか。

「電話切っても目ェ冴えまくって、心臓の音が、すげえ煩くて」
「……」
「あいつに聞こえるはずねえのに。聞こえちまったんだと思い込むくらいに、バカみてえに煩くて、」
「……」
「あいつはわざわざ起きてきて、恋人と話してたのかって言った。そうだって、すぐ答えられなかった」
「……」
「体を労われって諭されたってさっき言ったけどな。『カラダだけの辛い関係なら止めろ』って意味だ。あいつはずっとそう言ってた」
「……」
「電話切った後、やっぱりお前は俺のカラダだけなんじゃねえかって思った。長いこと……その、会っ……てねえから、耐えらんなくなったんだろう、と」
「……」
「あいつは、自分ならカラダだけじゃない、心もやるって言った。そこまで踏み込んだ話すんのは初めてだった。多分、その気だったんだろう」
「なんで、断っちゃったの」

 土方は俺の拳に手のひらを重ねたまま、ぐっと力を込めた。土方の指が、俺の手の甲に食い込む。気がつけば俺は反対の手で、その手を撫でていた。握りしめていた手を開き、両手で土方の手を温めた。俺の手の中で土方は、ぎこちなく力んで震えていた。


「……お前にしか」
「?」
「見せられねえ……」


 何を、と聞こうとして俺の舌は止まった。真っ赤に染まった首筋や耳たぶ、震える肩。土方は全身で恥じ入っていた。

「体が、動かなかっ……お前にされたこと、他の男にされると思ったら」
「俺がした、どれ」
「ど、れ……って……その、」
「どれだよ」
「……」
「嫌なことたくさんしただろうな。そもそも俺と寝るのが何よりイヤなんだろ」
「違……嫌、じゃねえ、けど」
「けどなんだよ。この際だから全部言えよ」
「……な」
「あ?」
「あ、あんな……見ら、れて……」
「どんな? いろんなカッコ見たよ。つっても暗いからあんま見てねえけどよ」
「そう、なのか……?」
「灯り点けさせねえ癖によく言うぜ。暗えから見えねえよ」
「そうなのか……? いや! でもあれは、」
「あれ?」
「……舐め、たし」
「?」
「あ、あの、」
「?」
「その……」
「……ああ。ケツの穴」
「!……ッ、」
「なに。そいつも舐めたの、おめーの……」
「させるかンなことッテメェだけだ!」
「もしかして。そいつに尻の穴舐めさせること考えたら、動けなくなっちゃったの」
「〜〜〜ッ、……!」

 俺の頭も混乱している。つまり、どういうことだ。俺にしか見せられなかったってことか。いや、俺に見せるのが嫌だったはずだ。

「ほ、他のヤツにッ……あんなこと、さ、させると思った、だけで……ッ、バカみてえ、に、体竦んで……ッ、もうダメだって、何、されてもっ、どう、にも……ッできねえと思ったらお前の名前しか思い浮かばなくて!」
「で、どうなったの」
「……そんだけだ。今日はやめようって言われて。何にもなかった」
「今日『は』?」
「今まで。何にもない」
「……」
「あっても……できねえ。俺は、」
「……」

 土方は、震える息を吐いた。手の力が抜ける。それでも離したらいけないのはわかった。俺は土方の手を握り直す。ぴく、と手の中で手が動いた。

「きっと、まだ俺に気があんだろうとは思ってる。それはわかってる」
「そんでも行くんだろ」
「……会い続けてりゃ、いつか慣れるかと思った」
「何に」
「何度会っても慣れねえ……! やっぱり、その、そ、そういう、こと、する、かと、思うと……頭真っ白になっ、」
「……」
「でも、いい。お前は気にすんな。いつか慣れる、だろう……すぐ、は、無理だけど」

 ぶるっ、と体ごと土方の手が震えた。それを優しく押しとどめながら、もう一度聴き直す。

「慣れて、そいつと寝るつもりなの」
「……ッ! お前は気に、すんな。わかってる、お前は俺とは違う」
「何が」
「お前は……俺が、思うような……俺は、重い」
「あ?」
「……お前は何カ月も会わなくたって平気で、電話で何言ったとか、と、特に気にもしねえだろうが、」
「……は?」
「俺は! 余計なこと言わせねえように、みんな変わりねえかくらいしか言えねえ。俺のいない間に、お前が誰と何してるか……そんな話聞きたくねえから、聞かなくて済むような話の振り方して、声だけ聞いてすぐ切ってた」
「は、」
「余計なこと言わせねえように、いつも通りのやり取りしかしねえようにしてた。お前は違った。そんだけだ」
「ちょ、」
「カラダだけだって割り切れたらよかったんだが……お前がそう、望んでるんなら……そうしたかっ」
「割り切ってねえよ。なに言ってんだ」

 どういうことだ。なにを言ってるんだこいつは。
 わかったのは、やっぱり土方は艶事の話になると詰まるということだ。いや、そうじゃない。

「エロい話、嫌いなんだと思ってたんだけど。違う?」
「いや別に」
「でも俺に尻の穴舐められちゃうのはダメなんだろ」

 たちまち熱を宿す土方の手。俯いた顔を下から覗き込むと、目に涙さえ溜めている。火照った頬に手を移しても嫌がる素振りは見せないどころか、ますます赤く染まっていく。

「俺だからか」
「……」
「俺とそーいう話すんの、嫌なんだ」
「嫌……ってわけじゃ、ねえけど」
「けど何よ。わかるように言えよ」「……」
「オッサンと寝るのは? 平気?」
「嫌だ。触りたくねえ」
「セックス嫌い?」
「……お前と、す、すんのは……すき……っつうか! や、違うッ、そんな、嫌じゃ……その、」
「土方。俺だと恥ずかしいの?」

 俺に預けた手を引こうともせず、土方はとうとう押し黙って、俯いた。
 やっと俺の脳みそが働き出す。

「俺はね。お前が好き。好きだから抱く。尻の穴だって見てえし、舐めてえ。身体中舐め回してえ」
「〜〜〜ッ!」
「仕事中はおめーの嫌いな下ネタは言わないようにしようって、一応気ィつけてたんだけどよ。あんま長えこと会ってなかったし、久しぶりに声聞いて舞い上っちまって」
「……ッ、」
「重いって何。俺も重いぞ。好きだ。惚れてる。声聞けねえと理性がどっか吹っ飛んじまうくらい」
「!」
「好きでもねえのにケツの穴にキスなんかできるかよ。お前がそいつと寝ること考えただけで体動かなくなったのと同じ。他の奴に、あんなことするか」
「……!」
「おめーにしてみりゃ迷惑なハナシかもしんねっけど。ハズカシーことしかできねえけど、そんくらい俺は好きだ。おめーのこと」
「……ぎん、とき」
「だから重くねえし、むしろお前が仕事で駆けずり回ってる間でも俺はおめーのことばっかり考えて悶々としてっから。重いどこの騒ぎじゃねえから」
「……」
「邪魔になンないように大人しくしてんだよ、これでも。でも、そんな遠慮してる間に他のヤツに持ってかれるくれえなら我慢しねえ。淋しい、会いたいって喚く」


 朧げなまま確かめるのを躊躇っていたこと。もっと早くに伝えなければいけなかったこと。
 今度こそ伝わったらしい。土方が初めて自分から俺の指に指を絡めて握ってくれたのがその証拠だ。俺の手を遠慮がちに握り、そっと目を上げて不恰好に微笑む、その顔をやっと正面から見つめられた。
 土方の指に唇を押し付け、その傍らで振動し続ける携帯を取る。

「俺が出ていい? 土方をきっと大事にしますって……ちゃんと、言っとく」

 土方は小さく笑って、また俺の手を強く握りしめた。


 ――ああ。いつもの手だ





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あきママさまリクエスト

「銀さんにちょっとイジメられからかわれた
土方さん、でも本当に傷付いてしまって
今までにも優しくしてくれていた幕臣さんに
縋り付きそうになる。
それをしってあわてる銀さん」

リクエストありがとうございました!





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