ミイラ取りの恋(ホストパロ)


「金さん、ご指名入りました」

 まただ。また来た。
 男なのにホストクラブに通ってかれこれ半年。名を、土方十四郎という。
 土方さんは俺より年上だ。自分で言ってたから間違いない。そして、俺の客の中でもかなりの太客だ。この人のおかげで俺は売上上位を保てている。
 でも、男だ。

「こんばんは。また来てくれてありがとう」

 土方さんはヘルプを嫌う。だからいつもサシ飲みだ。酒はあんまり強くない。なのに一生懸命高い酒を頼む。飲みきれなくて半分以上残すのに、何本もボトルを入れる。

「好きで来てんだ。礼なんて」

 土方さんは俯き、静かに笑う。ホストは誰が相手でも大抵飲まないといけないけれど、土方さんのテーブルでは食べるほうが多い。まあ、助かる。俺が客に代わって飲まされて悪酔いするってことがないから、サシ飲みでも楽だ。
 会話には正直困ってる。土方さんはゲイだ。初めて会ったときにはっきりそう言われた。店に来るからには恋人気分を味わいたいんじゃないかと思うのだけれど、土方さんの要望はそうじゃない。

「友達のフリでいいんだ。店に行ってもいいか」

 土方さんは初対面のとき、そう言った。だからかえって俺は、どうしていいかわからないでいる。まあ、毎回相当な金を落としていってくれるから、文句はないんだけれども。


 そもそも初めて土方さんに会ったのは、俺が昼間、太客になりそうな女の人を物色してナンパに励んでたときだった。
 ホストの客といえば夜の店の女の子がまず候補に挙がる。でもそういう子はめちゃめちゃ金持ちってわけじゃない。むしろ自分の稼ぎを無理やりこっちに突っ込んで遊ぶ子もいるくらいだ。お金を落として貰おうにも彼女たちには限度がある。
 で、仲のいい先輩がこっそり教えてくれたやり方を真似て、昼間の仕事の人に常連になってもらうことにした。もちろん金持ってそうな女性。手っ取り早いのは高級店に出入りしてる女性をナンパすること。百貨店帰りとか、ブランドショップから出てくる人とか。
 土方さんと会った日も、俺は某デパートの入り口でナンパに励んでいた。間違いなくアヤシイ人物に見えるだろう。自覚はあるけど気にしない。成功率は低く、十人に声掛けて全滅って日もある。けど、その中で一人、二人、興味を持ってくれればいい。お茶してもいいと言ってくれれば、そこからは俺のトークの見せどころなわけで、ホストであることを明かし、店に来てくれるように話を持って行き、メアドかLINEのIDを交換できたらもう逃さない。
 でもその日のナンパは失敗で、その上俺自身の買い物も気に入ったのが売り切れてて最悪だった。不貞腐れて帰ろうとしたとき、唐突に声を掛けてきたのが土方さんだった。

「さっきから……あの、良かったら、少し……」

 土方さんは第一声から極度の口下手だった。

「あ? セールスとか間に合ってマス」
「そうじゃなくて。あの、今見てたら、ずっと、」
「? なに、俺なんかくっつけて歩いてました? やっだー早く言ってよ」
「や、くっつけてない。あの、」
「?」
「この後、もし、もし良かったら」
「は?」
「お、てぃや」

 土方さんは噛んだ。噛んで慌てふためいて何言ってるかますますわからなくなった。けどさっきまで俺が言ってたセリフをなぞろうとしてることだけはわかった。

「さっきから見てたの? 俺のこと」

 土方さんは大きく頷いた。

「で、お茶に誘ってくれてんの。もしかして」

 土方さんはさらに大きく頷いた。

 時間の無駄だと思ったけど、その日は仕事も休みだったし営業メールは送りまくった後だったし、返信に返信するくらいしかあとはすることもないし、興味本位で俺は承諾したのだった。
 そこで聞いた。三時間くらい俺を観察してたことも。ゲイで俺より年上で、仕事はそれなりだけど出会いはまるでなくて、恋なんかする前から諦めちゃっていいコト何にもないって話を。

「でも、土方さんカッコイイのに。カノジョがダメならカレシ作れば?」
「……無理」
「なんで? ソッチの人がいそうなとこに行ったら。土方さんならすぐ」
「男なら誰でもいいわけじゃない」

 土方さんはため息を吐いた。失言だった。俺だって女とつき合うことを考えたら、誰だっていいわけじゃない。対象が同性だとしても同じことだった。謝ろうとして、重大なことに気づく。

「……俺、ノンケなんですケド」

 つまりこれは逆ナンパで、その意図するところはそういうことだ。血の気が引くってのをまさに体感した。反射的に俺は思わず椅子ごと身体を引いた。そうしたら土方さんは言ったんだ。友達のフリでいいって。それも、店の中だけで。
 そうして、土方さんは俺の常連客になった。


 女性客が求めるような疑似恋愛をしたいんじゃないのかと、俺はずっとビクビクしてた。でも、土方さんは『友達』の線からはみ出そうとはしなかった。最初に来店したとき、俺は当然土方さんの横に座ろうとした。お客の横が俺の定位置だったし、ほとんど習性だから何の考えもなかった。すると土方さんは『前に座ってくれ』と言った。ヘルプをつけてみたこともあったけど、そうすると土方さんは黙り込んでしまう。口下手から無言に、退化してしまう。俺と二人だと気が楽らしい。それでヘルプをつけるのはやめた。
 仕事の話はしたくないみたいだ。だから俺は土方さんがなんの仕事をしているのか知らない。土方さんが話すのは、本当に他愛もない、今日の昼飯イマイチだったとか、出勤のとき乗った電車が激混みで疲れたとか、そんな普通のこと。それにいちいち頷くだけで満足する。俺は楽でいい。楽に金を落としてもらえる。他のテーブルで指名が入って席を外しても嫌な顔ひとつしない。ただじっと待っていて、俺が戻ると何事もなかったかのようにまた今日の晩飯の話を始めるのだ。
 ヘンな客。
 俺の感想は、ただそれだけだった。

 一年もそれが続き、俺の客もかなり増えた。売上上位から、一、二を争うくらいまで俺は登ることができた。
 土方さんは喜んでくれた。滅多に見せない笑顔で、それでもやっぱり俯きがちに、良かった、と繰り返し言ってくれた。はにかんだような笑顔が意外にも可愛くて、無口で口下手ないつもの土方さんとのギャップにビビった。

「土方さんのおかげでもあるのに」
「俺なんかほんの一部だ」
「……でもさ、来てくれても待たせちゃうこと、増えたよね。ごめんね」
「それはいい。女の客のほうが優先なのは、当たり前だ」

 土方さんは顔色も変えずにそう言う。そこが少しだけ引っかかる。
 土方さんは相変わらず、俺を指名しては世間話をしていく。飲みもしない高い酒を複数いれてくれるのも変わりない。変わりがあるとすれば、俺が土方さんとのまったりした時間に慣れたことだ。
 最初はなんだかサボって手を抜いてるみたいな気がしてハラハラしたけど、土方さんがホストを複数侍らせることを望まず、シャンパンタワーで盛り上がることも好まないのを、俺はやっと消化して納得したからかもしれない。土方さんのテーブルに着くと、居酒屋でダベってるみたいな緩い空気が流れる。ホストクラブには似つかわしくないのだろうけれど、それが俺と土方さんの心地よい過ごし方だとわかってからは気が楽になった。
 男だし、アフターがあるわけでもない。せいぜいあっても同伴出勤くらいだ。土方さんは俺に夕食を奢ってくれる。やたら食事事情にはうるさい。同伴という言葉から思い浮かぶいかがわしい色合いとは真逆の、完璧な健全さ。こっちがびっくりする。

「ああいう仕事だと身体壊すだろう」
「まあ。そういう同僚は多いかな」
「金時にはそうなって欲しくない」

 そう言うとき土方さんは、俺の顔を見ない。そもそも土方さんはあまり俺の顔を見ない。いつも俯きがちで、チラリと俺に視線を寄越してはすぐに逸らす。少し、残念な気がする。せっかくカッコイイのに。
 たまに昼間にデートして、服を買ってくれたりもする。ウチの店では衣装代は概ね自腹だ。揃えるのもバカにならないから有り難い。最初は、ラッキーくらいにしか思わなかった。でも、この前一緒にスーツを買いに行ったとき、土方さんにすごく似合いそうなのがあったんで『着てみて』って言ったら、土方さんは慌てて俺から目を逸らした。横顔から覗く耳が真っ赤になってた。やっぱり俺に惚れてるんだろうな。初めて会ったときはドン引きしたけど、この頃はなんだか微笑ましい。
 兄弟とは違う。俺には兄貴はいないが、兄貴は弟に惚れたりしないことくらいわかる。スーツ似合うと思うよ、なんて言われただけで顔を赤くしたりしない。もし土方さんみたいな兄貴がいたら俺は自慢するだろう。土方さんには悪いけれど、兄貴ポジションだったらもっと仲良くなれると思う。結局土方さんは俺の勧めたスーツを買った。皺などひとつもつけるものかとばかりに大事に持ち歩き、その日は車を出してくれたんだけど、後部座席のシートベルトをスーツの袋に器用に掛けていたのが強烈に印象に残った。そこまでするか。

 その月、俺の売上は悪くなかった。あと一回、太客がパーッと遊んでくれたら俺は首位になれる。だがあいにく常連客さんたちはもうあらかた来てしまって、当てはない。営業をかけても反応が悪い。どうしようかと思案していたら、土方さんから返信があった。

『明日、人を連れて行ってもいいか』

 珍しいこともあるものだ。土方さんは大勢で飲むのを嫌うのに。男ばっかり連れてきたらどうしよう、とふと不安になって、誰と来るのと聞いてみたら女だという。

『職場で、ホストを見てみたいって言われたから』

 それならいい。女客ならいい。
 待ってる、と返信して考える。
 どんな女連れて来る気だ。というか、土方さんは職場で俺の話をしたってことか。カミングアウトしてるかどうか、俺は聞いてなかった。まさかこれだけのために無茶してないよな。ていうか、土方さんにくっついて来る女って何。どういう関係。土方さんにその気はないとしても、女のほうはどうなんだ。大丈夫なのか。
 迎えた翌日、土方さんが連れてきた女の子はびっくりするほど普通の子たちだった。そう、『たち』だったのだ。二人もくっついて来た。店内をキョロキョロ見回し、他のテーブルのシャンパンタワーに目をキラキラ輝かせている。
 それより驚いたのは、彼女らはごく自然に土方さんの隣に座るんだ。俺は一度も座らせてもらったことのない、土方さんの真横に。膝がたまに当たってるけど、わざとじゃないの。
 よく飲み、よく食べる子たちだ。それはいい。有り難い。でも、

「せんぱぁい、ドンペリ飲んでみたーい」
「いいぞ」
「えーどれがいいかわかんなぁい。先輩選んでくださーい」
「プラチナ」

 土方さんは即座に言い切った。
 ちょっと待って。プラチナって、正気か。

「飲んでいいぞ。俺が出すから」
「ほんとですかぁ? 嬉しい」
「シャンパンタワー私もしたーい」
「やれよ」

 土方さんのシャンパンタワー。そんなの一度だってしたことないのに。それに、そこの女子ども。プラチナっていくらするか知ってて言ってんのか。思わず口を挟んでしまった。

「えっと、一本、だよね?」
「一人一本でいいんじゃねえか」
「……ほんとに? コールとかシャンパンタワーとか、ド派手にやることになるよ?」
「ああ。構わねーぞ」
「……」

 なんか、面白くない。
 土方さんはもっと静かに飲むもんだと思ってたのに。それに土方さんはシャンパン派じゃない。どっちかっていうとブランデーだ。
 最初来たときいきなりリシャールヘネシー入れようとしてたけど、香りを楽しむだけで量を飲む人じゃないってわかってからはせめてコルトンブルーにしときなって俺が止めたくらいだ。でも土方さんはそれじゃ悪いと言って、二本も三本も入れてくれる。だいたい土方さんてどんだけ金持ちなんだ。この子たちは土方さんの正体を知ってるのか。
 土方さんは、何者なんだ。

 俺の心配をよそに、彼女たちは嬉々としてドンペリプラチナを二本入れる。もちろんコールは起きる。土方さんは居心地悪そうに小さくなる。

「ちょっと」

 ホストとして、文句を言う場面じゃない。でも、見てられない。女の子たちは初めて俺を見たみたいな顔で驚いて振り返った。しまった、言い方がきつすぎた。

「えっと、土方さんて何の先輩なの」
「仕事っていうかぁ」
「アタシたちの会社の、オーナー? みたいな」
「えっ」

 土方さんが舌打ちする。口止めしてたのかな。女の子たちは首を竦めた。ごっめーん、みたいな。よく見たら彼女たちは土方さんの顔を平気で正面から見てる。俺は、ほとんど見たことない、土方さんの顔を。

「ゴールドはそんなに出ないんだよ。無理しなくていいからね」
「ええー。せっかく来たし。記念に、みたいな」
「思い出に、やっときたいもん。ねっ、土方先輩」
「ああ」

 まるで自分の財布出す気ないだろそこの二人。いいよ。いいんだけど。そう言えば土方さんは女の子たちの勢いに飲まれて、自分の注文もしてない。当然、俺もいつもみたいに食えない。のんびりゆっくり、土方さんのテーブルだけはただの居酒屋並みにまったり過ごせたのに。土方さんが俺を見ないのはいつものことだけど、でも、これは違う。いつもはこんなんじゃない。俺と土方さんの、緩やかな時間が女どもに掻き乱される。
 嫌だ、とはっきり思った。

 俺はヘルプを呼んだ。土方さんが嫌がったって知ったこっちゃない。女どもはいわゆる『ホスト遊び』をしたいんだろうから、それなら通常通りヘルプをつけるまでだ。土方さんが身動ぎしたのが見えたけど、俺は意地悪く無視した。ウチのテーブルには終いには店のホストの半分が集まり、騒々しいほど盛り上がってお開きになった。
 その晩、俺の首位は確定した。



 あれから土方さんに営業メールが出てこない。
 いくら考えても一文字も思い浮かばない。正確に言うと何回か打ち込んだけれど消した。

『こないだの子、もう連れてこないで。土方さんだけで来て』

 そう書けたらいいのに。いや、そう書いた。そして何度も消した。
 悔しかった。俺の知らない土方さんを知っていて、遠慮なく土方さんの隣に座れて、土方さんの顔を正面から見られるあの子たちが憎い。二度と会いたくない。俺と土方さんの時間を掻き乱す他人は、二度と連れてこないでほしい。
 そんなこと書けない。でも、書きたいのはそれだ。それだけだ。悔しくて腹立たしくて、もうあんなことしないでほしい。わかってる。俺のためにしてくれたことなんだ。わかってるから言えない。あんなことになるなら、いかに営業といえど『首位になれそうだけど微妙』なんてメールするんじゃなかった。

『次、いつ来てくれる』

 新人ホストだってこんなダメな文面書かないってメールを打って、俺は目を瞑って思い切り送信ボタンを押す。
 なんだよこれ。嫉妬してるみたいじゃないか。土方さんはカッコいい。女にモテて当然だ。ゲイだからって油断してたけど、女のほうはそれを知らなそうだった。きっとグイグイ押すだろう。あの後どうしただろう。まさかどっちかにお持ち帰りされたりしてないだろうな。あの女どもならやりかねない。ゲイだろうとなんだろうと、押し倒して既成事実作ってモノにして……

 そうしたら俺は、もう土方さんに会えないじゃないか。

 ケータイを握りしめる。頻繁にメールは入るけど、別のお客さんからだ。電話も入る。話してる間に土方さんからメールが来たらどうしよう。滅多にないけどたまに電話もしてくれるのに、俺が話し中だったら。
 結婚することになったから、もう店には行かないって電話だったら。

 やっとケータイがひと段落して、俺は部屋の中をうろうろ歩く。土方さんが来なくなったら売上が落ちるとか、そんなことはどうでもいい。土方さんが来ない、その事実が許せない。できることならこっちから会いに行きたいけど、俺は土方さんの家も、会社も、何にも知らない。名刺一枚もらったこともない。ホスト失格? 知るか。
 土方さんが何者でも、俺は何でも良かったんだ。土方さんはいつもきっと店に来てくれた。名刺なんか貰わなくても、俺は待ってれば良かった。待ってれば必ず土方さんに会えた。俯きがちな顔も、綺麗な横顔も、たまに見せる笑顔の可愛らしさも、普段とのギャップも。俺は待っていさえすれば手に入ったのだ。それがどんなに脆い絆であることか、少しも考えようともせずに。

 ケータイが鳴る。着信だ。表示名を見る。

『土方十四郎』

「もしもしッ」
『悪い。遅くなって』

 土方さんの声はいつもと変わらない。そのことに少しホッとするけど、腹も立つ。俺がどんだけ気を揉んだと思ってんだ。土方さんにとってはただのホストで、俺の気なんて関係ないんだ。

「ほんと、遅い。待ちくたびれた」

 営業トークなんか出てきやしない。鏡を見たら仏頂面の金髪天パ男がもの凄い目つきでこっちを睨んでた。その顔に相応しい声で、俺は土方さんに答える。

「こないだ来てから何週間経ったか。数えてみ」
『行ってもいいのか』

 土方さんは本当に口下手だ。もしかしてわざとか。もう少し言いようはあるのに、わざと素っ気なくしてるんじゃないの。

「待ってんだけど、俺」

 土方さんのバカ。会いたい。二人で、いつもみたいにくだらない世間話がしたい。今日なに食ったかな。電車は少しは空いてたかな。今晩はなに食うんだろう。会って、話したい。

『この前、機嫌悪そうだったから。もう行かねえほうがいいのかと思って』
「それ、本気で言ってんの!?」
『嘘吐く必要もないだろ』
「なんで――なんで機嫌悪かったか! 考えてみたのかよ! 俺はッ」

 俺は土方さんに会いたい。他の奴なんか挟まないでほしい。店が開くまで会えないなんて嫌だ。今すぐ会いたい。
 気づけば本心をぶち撒いていた。トークも何もあったもんじゃない。半分泣いてたと思う。今どこにいるんだよ、と詰め寄ったところで、土方さんが珍しくも俺の喋りを遮った。

『やめろ。友達のフリでいいって言っただろうが』
「なん……ッ」
『勘違いする。やめてくれ』
「やめるって! どういうこと、」
『すまねえ。頭冷やすから、切るわ』

 いきなり電話が切れた。一方的に。すかさず折り返しても、出ない。留守番電話サービスの機械的な音声が冷ややかに、俺と土方さんを遮る。


「土方さんのバカ! 会いたいッ会いてえよおぉぉ! 女なんか連れてくんなバカぁぁあ! 俺とっ、俺と二人で飲めよおぉぉお! 待ってるからな! これから最初に茶ぁ飲んだ店で! 土方さん来るまでずーーっとまってるからッ、うわあああああん」


 留守番電話サービスは時間通りに、キッチリと俺の泣き言をぶった切った。どこまで入ってるか、もうよくわからない。俺は家を飛び出した。もちろん、あの喫茶店へ。土方さんが来るまで絶対に動かない。閉店時間なんか知るか。シャッターの前で待っててやる。
 俺はノンケで土方さんはゲイだけど、だからなんだ。ノンケはゲイに惚れちゃいけないのか。ホストは男を好きになったらいけないのか。
 そういうことだ。俺は、土方さんの友達のフリなんかもう嫌だ。
 泣きながら入ってきた男に、喫茶店のウェイトレスはビビって近寄らない。メニューを開いて一番上を指差し、あとはほっとく。『てぃや』飲みに来たんじゃない。俺が欲しいのは土方さんだ。年上がなんだ、ゲイがなんだ。キスしたらさすがに俺を見てくれるだろうか。赤い顔を、全部見せてくれなきゃ許せない。

 俺の前の椅子が引かれ、俺がカッコイイと思うと言ったスーツが目に入る。

「なんてェツラだよ。仕事になんねえだろうが」
「今日仕事休むッ」
「だから。勘違いさせんな、金時は俺のホス」
「アンタのホストなんかやめる。やっぱりもう店には来んな」

 土方さんが息を飲むのがわかる。勘違い? それは土方さんのほうだ。

「俺とだけ会って。外で、こうやって待ち合わせして」
「……何、言っ」
「とりあえず今から俺の部屋来て。二人っきりで、酒なんか飲まなくていい。土方さんの好きなモン飲んで食って、それから」

 顔をあげたら土方さんは口をぽかんと開けて、俺を真っ直ぐ見つめていた。少しだけ、気分が良くなる。
 だから、俺は未だかつて客には言ったことのない言葉を土方さんに宣言する。みるみる土方さんの顔が綺麗な赤に染まるところを正面からたっぷり堪能し、無防備な手を掴んで俺は急いで店を飛び出した。


「そのあと俺が土方さんを食う。おとなしく俺だけのモンになっとけ」



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金ちゃん、喰い逃げ疑惑。

M様リクエスト
「金土設定/最初は金払いが良いから
適当に相手してただけだったのに
気付いたら本気で惚れてたホスト金と
本気で好きだけど客として利用されている
だけだと承知して諦めていた土が
最終的に金の告白でくっつくまで」

リクエストありがとうございました!




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