嫌い嫌い大キライ(W副長別パロ)


【小姓の所感】

「今日からしばらく万事屋に臨時副長をやってもらう。万事屋じゃねえな、坂田銀時副長だ。みんなよろしくな」


 ある日局長が朝の会議に万事屋の兄貴を連れてきた。兄貴は隊服を早速着崩して、スカーフはせず、幹部の証である上着は腰に巻いておられた。自分はカッコイイと思うけれど、副長――区別するために今後は土方副長とお呼びするべきだが、土方副長はまさに苦虫を噛み潰したような顔をしておられた。
 翌日から、自分の仕事がひとつ増えた。朝、副長室に行き、主に兄貴副長を起こして差し上げるのだ。土方副長も同室のはずなのにどうしてだろう。
 今朝も副長室に行ったら、土方副長が兄貴副長を激しく揺すっているところだった。兄貴副長はもちろん起きなかった。

「んーむにゃむにゃ」
「むにゃむにゃなんてベタな寝言があるかァァア!? 狸寝入りこいてんじゃねえよネタは上がってんだ」
「チッ。空気読めよ、寝てえんだよ俺は」
「もう起床時間だ。ふざけんな起きろ、そんで俺のワイシャツは? 昨日の夜ここに置いたんだが」
「知らねーよ、よく探せよおっちょこちょいだなぁ」
「おっちょこちょいって何!? 久しぶりに聞いたよ! 俺はここに置いた。動かすとしたらテメェしかいねえだろうが」
「もう。知らねえっての……ほら、ここにあんじゃん。やっぱおっちょこ」
「それもういいから! つーかなんで枕元に置いたのが椅子に掛かってんだよそしてなんでテメェは一発で見つけられるんだよ!? 犯人はテメェだろ、テメェ以外いねえだろ!」
「そんでいいよ。ワイシャツあって良かったね、俺はもう少し寝る」
「寝かせるかぁぁあ」

「副長がた……あの、朝の会議であります」

 毎朝のことなのだが、どうもお二人は自分がいることに気づいておられない気がする。そっと声を掛けると、兄貴副長は自分に笑いかけてくれた。ちょっと嬉しい。

「はいよ。ご苦労でありますよー」
「鉄ッテメェ、コイツの肩持つ気か!?」
「いえ、自分は」
「あんまイジメてやるなや。嫉妬? 嫉妬ですかあ? やだやだ、独占欲強い男はあんま好きじゃねえな銀さん」
「まるで俺がテメェのこと好きみてえな言い方すんなァァ!? テメェは鉄を使うなっつってんの!」
「それが嫉妬だっつーのわかんねーヤツだな。もっと自分を見つめろ。自分の真意がわかるまでお布団に籠れ」
「現実逃避ィィイ!」

 自分、ここにいる意味あるのだろうか。何だかいてはいけない気がするのだが気のせいだろうか。
 兄貴副長が布団から手を伸ばす。その辺りをおざなりに探って、また引っ込める。

「俺のワイシャツは?」
「知らん。よく探せ」
「ちょっと予備貸してくれても良くね? じゃあ俺、朝礼出ない! ラッパーくん俺欠席ー。土方副長が俺の隊服隠しました。俺イジメられてる」
「隠してねえよ!? 探せっつっただけだろ!」
「やだ俺もう動きたくねえ、布団と夫婦になる」
「よーし即未亡人にしてやるからテメェはそこへ直れ」

 そんなこと言いながら土方副長が部屋の中をキョロキョロ探しているのは、気のせいだろうか。土方副長はおもむろに兄貴の布団を思い切り捲った。

「ほら布団の中! あったじゃねえか」
「ほんとだ。土方くんこんなとこに隠すって陰険」
「んな面倒くせえことするかァァ!? つうかクシャクシャじゃねえかだらしねえ、鉄ッアイロン!」
「はいッ」

 急いでアイロンを取りに行って温めていたら、土方副長に舌打ちされて取り上げられた。結局土方副長が兄貴のワイシャツにピシッとアイロンをかけてあげて、朝礼はギリギリ間に合った。
 自分、いらなくね? お二人でやれば良くね?


【局長の意図】

 トシはね、仕事を人に振るのが上手くないっていう欠点があるんだよ。人一倍有能だからそれで仕事は回っちゃうんだけど、今までもトシが負傷して入院、なんてことがないではなかった訳で、そういうときウチは普段やり慣れないことをやんなきゃならなくなって、不必要にてんてこ舞いになるんだ。

「だから、二人で仕事を分ける練習しなさい。それができるようになるまで、当分副長は万事屋――坂田と二人体制」
「アンタがストーキングしねえで仕事してくれたら問題ねえんだけど?」
「ストーキングってなに。お妙さんの警備を日々怠りなくしてるだけだもん」
「……ほう。で、仕事は?」
「これ以上できなーい! トシにも負担みてえだし、坂田クンとうまいこと分担して。トシも少し休んで、ゆっくり恋する時間を」
「マジいらねえ! 断れ!」
「もう来ちゃった」

 呼ぶまで来るなって言ったのに。坂田のヤツ、気配を消してこっそり俺の後ろに座ってやがった。

「そんで聞いちゃった。やっぱりチンピラ集団てヒトの税金で恋だの愛だのにうつつを抜かしてんだ」

 ちょっと待ってそれ誤解。外でそんなこと言わないで真選組の沽券に関わっちゃう。それにトシはその辺にすごく神経を使ってるから余計な揉め事に……

「おいテメェ。ここで見聞きしたことは外部には、」
「黙ってて欲しいならどうする。考えてみ」
「!」
「あーあ、最近仕事ねえしさぁ、ゴリラがどうしてもって言うから来てやったのに、土方くんは俺のこと追い払うんだ。そんなヒドい目に遭ったら俺、何言うかわかんねーなぁ。自分を押さえられねーっつうか。ヤバくね?」
「テメェの頭がな! 口外するならここから出さねえから!」
「ハイ採用ありがとう! 言ったよね? 今『ここから出さねえ』って」
「そーいう意味じゃねえよ!? 屯所から出ねえでどうやって仕事する気!?」
「そりゃおめーが仕事どう割り振るかによるんじゃね? 土方副長、腕の見せどころぉ」
「俺の生腕見るなんざ十年早え!」
「足ならいいんですか、へえー!」
「足も見せねえからっ! 生足は五年くらいだ!」
「とりあえずおめーはゴリラに関わんな。俺はゴリラのお守りなんかヤダけど」
「ペット遺棄は犯罪だ!」
「里親探せ!」
「これ野生だから! ケガするからテメェこそ関わるな!」

 ねえ、俺のこと取り合ってるの押しつけ合ってるのどっち。ケガってなに。ゴリラがケガさせるから坂田には俺の面倒見させないってこと? 待って俺ゴリラじゃない。トシはわかってると思ってたのに。ぐすん。


【監察の考察】

 ここんところ張り込みを続けていて、でも動きはないので毎朝屯所に戻って土方副長に報告をしている。聞いてくれてればだけど。
 今朝も報告のために副長室に言ったら、二人が言い合う声が外まで聞こえてきた。やれやれ。

「ちぇー。今頃艶やかなフォルムの甘ーい団子食ってる予定だったのになぁ。フレキシブルな見廻りのやり方採用しろよ腐れ副長」
「フレキシブルにも程があんだよテメェと総悟はァァア!? それ以上糖分摂ったら今度こそ糖尿だぞ、艶やかなフォルムがお好みなら俺の刀を喰らいやがれ」
「やだよそんなナマクラ、甘くないじゃん」
「大丈夫だ、甘ったるい血液抜けるから糖尿遠ざかってちょうどいい」
「そんな治療法あるかァァ!? 斬られると痛いもん、おめーわざと痛く斬りそうだもん」
「ちょっとドロドロの血液抜くだけだから我慢しやがれ! ついでにモサモサの頭も刈ってやるから!」
「ツヤツヤストレートだからっていい気になんなよ。歳取ったらハゲるから。髪の毛の量減ったなーと思ったらすぐだってめ組の親父が言ってたから!」
「その前にテメェがハゲろ。ジジイになってお茶の○博士型にハゲるの見届けてやる! どんどん抜け落ちてバーコードにもできないとこ見て笑い倒してやるから」
「そんじゃ俺はおめーがヨボヨボのジジイになって毎朝ありもしねえ髪をマヨネーズでセットしようとしてんの見届けて笑うわ!」
「そんじゃ俺は!」

「あの……報告いいですか」

「「今忙しい」」

 ああそう。勝手にすれば。でもこういう時は余計な口を挟まないのが賢明だと、俺の長年の経験が告げるから黙ることにする。

「テメェのせいで山崎が黙っちまったじゃねえかクソ天パ」
「何でも人のせいにするのって良くないと思いますぅ。ジミーの報告って武器の裏取引疑いのヤツだろ? まだ泳がせといて大丈夫だって」
「……なんでわかる」
「大丈夫じゃなかったらアイツ朝戻ってこられねーでしょうが。だいたいなんで戻らせたの。張り込みっぱなしで無線とかケータイとか、そういうので報告させりゃいいじゃん。そしたらおめーもゆっくり寝坊できるだろバカ」
「バカじゃない! バカはお前!」
「バカっていうヤツがバカなんですー」
「じゃあお前のほうがバカ!」

 えーっと、旦那の言う通りでもあるけど。寝坊は二人で話し合ってクダサイ。俺知らね。

「山崎はほっとくとあんパンしか食わねえから定期的に帰ってこさせねえともっとバカになるんだよ! 入って日の浅いテメェにゃわかんねえだろうがな!」
「他の男の生態なんて知りたくもねえよーだ、土方副長は大層な部下思いですねー! ジミーの潜伏先に手作り弁当でも持ってってやれよ! 愛情弁当作ってやれば!?」
「なんで俺が山崎なんかに料理しなきゃなんねえんだアホかァァア!? するならテメェにするわ、そんで砂糖てんこ盛りにしてやるから糖尿で死にさらせ!」
「そんなら俺はテメーの飯という飯に黄色いドロドロぶっ掛けて悪玉コレステロール塗れにしてやるわ!」
「死ね!」
「お前がな!」

 うん、それ両方ともいつものご飯だから。もうどうでもいいよ。二人で愛憎入り混じったお弁当の作りっこしてればいいんじゃないかな。仕事してこよっと。


【一番隊隊長の見解】
 
「見廻りだけど。定期的過ぎると思いまーす、もっとフレキシブルに、市民から見たらあれっいつの間に真選組いたの、みたいな意外性があったほうがいいと思います」

 旦那はたまに会議で意見を言う。土方さんの気に入らなそうなことを厳選してくるのがいい。

「一理あるけど具体的にどうするよ」

 近藤さん、真面目に検討する気ですかィ。それよりアンタの隣の土方さんがプルプル震えてんのに気づかないってのが凄すぎる。

「あ? 今まで培った勘とかねーのかよ。自主的にそれぞれが好きなとこ廻ればいいじゃん」
「勘かぁ……それで網羅できるんならいいけど」
「坂田副長に賛成でさァ。俺ァ常々駅前の団子屋がアヤシイと睨んでたんで、重点的にそこに張り込みまさァ」

 俺も応援してみる。土方のこめかみに血管が浮き出る。俺を睨んでるけど面白えだけだ。さて、そろそろキレるかな。

「させるかァァア! サボりの口実になるだけだろうがァァア!?」
「隊士を疑うのって良くねえと思いまーす。銀さん傷ついた。今日休むわ」
「どんなガラスのハート!? そんなら俺はテメェが邪魔ばっかすんのがストレスだから一か月寝込むわ。決めた」
「打たれ弱いなドSでもねえ癖に」
「ドSのほうが弱いの!? おかしくね!? 重症度は俺のほうが上だから。テメェに与えられたストレスハンパないから。いっそ入院するわその間テメェは俺の看病も追加な!」
「じゃあ通常業務減らすんだよな!? 当然だよな!」
「テメェ副長だろ! 俺の代わりはテメェしかいねえだろ働けェェ!」
「うわぁ今ので銀さんの最後のハートが砕けた! 王女様にキスして貰わねえと治らねえから休むわ」
「キスすんのは王子様! だいたいテメェは王子が百回キスしたってグータラ寝てるだろ!」
「あれっなんでわかんの? ちょっとヤダ土方くん、同じ部屋だからって俺が寝てる間になんかイタズラしてなーい? 百回キスしてみたの? 俺が起きなかったからって拗ねてんの」
「アホかァァァア!? テメェにキスするくれえならマヨネーズの空き蓋に千回キスするわ! テメェは小豆缶の空き蓋にしろ、そんで唇切って血ィダラダラ垂らせ」
「そんでその血を土方くんが啜るの? ぎゃあぁパンパ嫌ー!」
「啜って欲しけりゃ糖分控えろ糖尿野郎ーーッ!」
「おめーの血は油浮いてるから! 分離して上澄みドロドロしてるから!」
「見たことあんのかよ!」
「おめーのことなら見なくてもわかるわ!」
「じゃあ俺もテメェの血の味くれえわかるわ!」



「朝礼おわりー。見廻りは通常通りってことで、みんなよろしくなー」
「へーい……」

 副長二人は近藤さんの声も耳に入らない。隊士たちの白い目も、鉄の狼狽えぶりも、山崎の呆れ顔も、何一つ目に入らないだろう。一生やってろ、俺は予定通り団子屋警備に行きまーす。



「テメェ俺が寝てる間に何やってんだ! ヘンなことしたら布団離すからな!」
「おめーこそ俺の寝込み襲ったらアレだ、一晩中手錠で手ェ繋ぐかんな! テメーが動いたらすぐわかるようにピッタリくっついて寝てやるからーーッ」




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M様リクエスト
「W副長設定で
自分達は犬猿の仲のつもりだけど廻りには
完全に付き合っているとしか思えない位
バカップル過ぎて廻りドン引きな銀と土」

リクエストありがとうございました!




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