愛を食らう(ホストパロ)


 卒業したら金時と一緒に住むんだ、と土方さんは嬉しそうに言った。

 高校二年の文化祭で、土方さんをつけ回す怪しい茶髪のグラサンがいたのは知っている。沖田さんが面白がって、さらにその後をつけた結果、どうやらそれが噂のホストらしいということになって俺たちは大騒ぎしたものだった。
 その後もホストは絶対に俺たちの前に姿を見せなかったから、土方さんとホストがどうなったのか、高校の間は謎のままだった。けれど卒業式の後の打ち上げに、土方さんは金髪のド派手な男にデレデレとしなだれかかりながらやってきて、これが金時だ、と得意そうに俺たちに見せびらかした。

『去年の文化祭のときは茶髪じゃありませんでした?』
『よく見てるねえ。俺は男なんか覚えてねーけど』
『山崎なんか誰も覚えられねえし。金時は俺を見てればいいんだ』
『わかってる。十四郎しか見えない』

 うすら寒い会話を二人きりの世界で始めるので早々に二人には帰ってもらい、変わったホストもいるものだなぁと残ったメンバーで驚き呆れていたのが懐かしい。でも、その時にはもう金時さんはホストを辞めていたとは知らなかった。
 土方さんは高校を卒業した後、すぐに小さな会社に就職した。経理担当だからいろいろ勉強することが多くて大変だと言っていた。必要なら大学にも行こうと思う、なんて言っていて、それなら就職しないで進学すればよかったのに、と不思議だった。土方さんは成績も悪くなかったから、進学するものだとばかり思っていたのに。


「……全部、このためだったってことですか」
「当たり前だろ。金時と早く一緒に暮らすにはこれがいちばん近道だったからな」


 とあるカフェの片隅で、俺は深いため息をついている。隣には注文を取りに来た土方さん。向こうには金髪のカレシ。金時さんはホストを辞めて、カフェを始めた。土方さんが女客にヤキモチを妬かないように、それと、もうほんの少しの時間でも離れ離れにならないように、だって。あんたら人生舐めすぎてる。
 土方さんが早々に就職したのは、金時さんがカフェをやるって早くに決まっていたためだ。

「一緒に仕事もするんだ。金時は料理の勉強してたから、俺は金勘定ができるように勉強した。二人で一つだ」

 土方さんは真顔でそう言った。もっとこの人、硬派なイメージだったんだけど。こんな甘ったるいこと真面目に言っちゃう人じゃなかったような。
 まず近藤さんがお客として行ってみた。次に沖田さんが行った。二人に感想を聞いたら黙り込んだ。せっついたら『お前も行けばわかる』としか言わなかった。だから来てみた訳だけれども、早くも少し後悔している。


 昼時は絶対に外したほうがいいとアドバイスされていたので三時ごろに入店。ちなみに俺は平日休みの仕事だから、今日は休みだ。店の中は女の子しかいない。場違い感ハンパない。

「大丈夫だろ。お前、影薄いから」
「そんな大丈夫イヤです」
「何にするんだよ。なんか食うか?」
「オススメとかあります?」
「全部」

 土方さんは胸を張った。

「金時が作るんだぞ。全部美味いに決まってんだろ」
「……そうですか」

 聞いても無駄なので、ペペロンチーノを頼む。
 この店の珍しいところは、完全なオープンキッチンなところだ。オープンキッチン自体は珍しくないのかもしれないけれど、カウンター席がない。なんでキッチン開放した。よくわからない。でも、調理中のいい匂いが漂ってくるのは嬉しい。
 けどこれ、ガーリックの香りじゃないよね。

「十四郎。パンケーキできたよ。八番テーブル」
「うん……遠い」
「見ててあげるから。ね。行ってきて」
「キスして。そしたら行く」
「しょうがないなぁ。ほら、ほっぺ出して、届かない」
「ほっぺじゃ嫌だ。ここに」
「はいはい。ふふふ」

 キッチンとホールで、土方さんは背伸びして。二人は臆面もなくキスをかましやがった。
 客席から黄色い声が上がる。

「金ちゃーん。もっと深くしてあげてーーっ」
「十四郎くん可愛いッ」
「お待たせしました。パンケーキ、金時の甘いキス風味です」
「きゃあああああッ」

 ぎゃああああああ! なにこれ! なんなのこの茶番は!? いいのコレ、食品衛生法ーーーっ!

「すいませんッ追加で! ポットの紅茶お願いします」
「ミルクとレモンがございますが」
「レモンで」

 なにがいいのか、別の席から女の子が注文をする。土方さんは無表情にそれを受ける。

「五番テーブル、ポットでホットレモンティー」
「はいはーい。十四郎、おかえり」
「ただいま。おかえりのちゅーする」
「十四郎がして?」
「ん」
「ここね。今料理中だから」
「唇がいいのに……」
「また後で。夜にもっとキモチイイとこにしてあげるから」
「うふん」

 また店内がどよめく。こっそり周りを見渡すと、客という客が全員土方さんと金時さんをガン見していて、会話にも耳をそばだてている。えっ、なんなのこの店。普通のカフェじゃないの。お触りカフェ……でもないし、確かにエロいことはしてないけど、えええええ。
 つーか遅くね。ペペロンチーノなんて悪いけどパパッとできないの。まだ俺の席水しか来てないんだけど。その割には金時さんも土方さんも動いてはいるし、サボって……ちゅっちゅしてるのは除いて、サボってるふうでもないけど。

「三番テーブルさん、オニオングラタンスープね」
「うん」
「熱いから気をつけろよ。手なんか火傷すんなよ」
「大丈夫だ。金時の料理で火傷するなら嬉しいもん」
「俺は嬉しくない。十四郎に火傷させるために熱々にしてるんじゃない」
「むぅ。わかったよ、気をつけるからキスして」
「絶対だぞ。絶対気をつけろよ、ん」
「行ってくる」
「「「「キャアアアアア」」」」

「こちらのお皿、お済みですか。お下げいたしましょうか」
「あっありがとう、あのねっ、十四郎くんの……アドレスって聞いてもいいのかな」
「ダメです」
「じゃあ! 金ちゃんのは?」
「絶対ダメだ! 金時は俺のだもん」
「「「「キャアアアアアア」」」」
「昨日は仲良く寝られたの?」
「うん。金時ったら俺がシャワー浴びてるときにこっそり後ろから入ってきて。脅かすんだ、びっくりして金時にしがみついちゃった」
「「「「キャーアーアアアアアア」」」」
「金時がいろんなとこにキスしてくれたから大丈夫だった。仲直りして、ぎゅってして寝た」
「「「「キャーアーアーアーァァア」」」」


 なんなの。なんなのこの店。俺がおかしいの。この女どもは金時さんと土方さんのラブラブちゅっちゅを見物に来てんの。それでいいの君たち。
 なんで料理が遅いかわかった。まずオーダー通すのにちゅっちゅして、できたのを運ぶ前にちゅっちゅして、その間にお客が土方さんにヤキモチ妬かせるためにさっきみたいなこと言うからホールがいちいち止まって、戻ったら土方さんは金時さんに言いつけるんだ。

「金時のメアドだって! 教えるわけないのに!」
「それより十四郎のも聞かれてただろ。絶対教えちゃダメだからね」
「当たり前だろ。俺は金時のものだもん」
「「「「キャアアアアアア!」」」」
「ふふふ。俺も十四郎だけのものだよ」
「「「「キャアアアアアアアア!」」」」
「キス、忘れてる! 酷いっ」
「ごめんごめん。パスタ茹でる準備してた」
「山崎のだろ。後でいいよ」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」

 ちゅうっ

「「「「キャアアアアアア」」」」

 わかった。よーくわかりました。
 オープンキッチンにしたのは、お互いの姿が常に見えるから。調理する金時さんを土方さんはうっとり眺めてるし、料理を運んでいく土方さんを金時さんは愛おしそうに見守っている。お互いに、片時も目を離さないで済むからこの設計。アホですか。それにちょっとお互いに背伸びしたらすぐちゅっちゅできるもんね! はいはい、幸せそうでようございました。

「七番テーブル、ペペロンチーノでーす」
「うう……また遠い」
「アルデンテだから。火が通っちゃうから先に出してきて?」
「金時、見ててくれる?」
「当然」

 ヤケに不貞腐れた土方さんがやっと料理を運んできたのは、注文してから実に二時間経っていた。俺は全席の客の注目を浴びながら、土方さんがテーブルに皿を置くのを見守った。

「ペペロンチーノ、遠距離恋愛風でございます」
「すいません、水もらえます」
「やだっ金時から離れる時間長すぎるもん! 後でなっ」

 土方さんは駆け戻って行って、金時さんの首に抱きついた。危ないよ十四郎、と金時さんが甘ったるく諌めている。だって遠かったもん、キスだけじゃ足りないもん、と土方さんが甘えてる。俺の水。忘れられてるよね、もういいよ。


 帰ってから○べログを見たら、載ってたよ。星四つ半。

『急いでお食事をしたい人には向きません。むしろ金ちゃんとトシくんにゆっくりイチャイチャしてもらいたいと思う人にしか、行ってもらいたくありません』
『リピーターです。この前間違って入ってきたらしきリーマンが、料理出てくるのが遅いと文句を言っていました。わかってない人は来ないでほしいです』
『この前行ったら金ちゃんと十四郎くんがケンカしていたらしく、十四郎くんが目に涙を溜めていました。いつもと違う十四郎くんが見られてヨカッタ!でも早く仲直りしてね』


「……」
「で、どうだったィ。土方さんと、土方さんの旦那の店」
「え、ザキ行ったの。わかった?」
「……死ぬほどわかりました」

 鉄之介が、自分も行きたいでありますッとか言ってたけど、この子は土方さんに夢を持ちすぎているから後でとめよう。俺だって結構ショックだったし。鬼の副委員長と呼ばれ、剣道部では鬼みたいにおっかなかった副将が、あんなに甘々のデレデレになってるなんて。でも。

「『土方さんはずっと金時さんのことを信じてたし、俺たちはホストの囁く愛なんて嘘っぱちに決まってると思い込んでたけど、あれを見るからには愛は本物だったんだな、土方さんが幸せならそれでいいんじゃないかなと僕は思いました』、と。送信……できたよな」


 願わくば、間違って普通のカフェだと思った人に二人の仲が邪魔されませんように。そんな願いを込めて、俺も食べ○グにコメントを残したのだった。




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志眞様リクエスト
「以前のリクエストの続編のカフェネタ
/カフェ店長金さんとスタッフ土方さんの
イチャイチャぶりをお客の山崎目線」

一応これでも飲食店なので(笑)
店内でのお触り禁止です、ご了承ください。
金時店長より。

リクエストありがとうございました!
やり直し請求承りますm(_ _)m





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