見方を変えたら


 源外のジジイが作ったアホカラクリのせいで俺と土方以外がうんこになった事件は、約一か月してようやく解決し、全員めでたく人間に戻った。ちなみに俺と土方の魂が入れ替わったなんてことは、俺の中ではナカッタコトになってる。腹立つからな。ウチの子供に贅沢教えやがって、余計なことすんな腐れ副長。



 万事屋で、いつものように三人で朝飯を食っていたら突然俺の持っていたご飯茶碗が汁椀に変わった。
 本当に突然で、何のことだか自分でもわからない。左手に持ってたご飯の茶碗がいきなり味噌汁に変わったんだ、嘘じゃない。
 まず初めに疑ったのは納豆女だった。すり替えなんざお手の物だろう。だが納豆の匂いがしなかった。次に神楽がかっぱらったのかと思った。でも神楽なら代わりに味噌汁寄越したりしない。全部食う。
 じゃあなんだ。よく見たら箸も変わってるし、そういえば隣で新八が味噌汁食ってたような……

「ぎゃあああああ!?」
「うるせーなどこの銀さんだ、俺の声パクるんじゃね……?」

 俺は新八の左隣に座っていたハズ。
 なのに絶叫は左から聞こえた。そして俺が発した言葉なのに、その声ときたら。

「まるで新八ィィイ!?」
「銀さんそれ僕の身体ァァア!」

 俺の声で、俺の顔が俺に『銀さん』と叫ぶ。改めてそっちを見ると、頭動かした拍子に視界が揺れた。

「……メガネか。使えねーな」
「メガネは本体じゃねえっつってんだろがァァァア!」


『おう銀の字か、今電話しようと思ってたとこだ。聞いて驚け、俺の発明した「全自動卵かけご飯製造機」な。遠隔操作ができるようになった』
「……」
『卵とご飯と醤油が別々のところにあってもな。卵かけご飯ができる』
「どうやって食うんだァァア!? いらねーよそんなオプションんんん!」

 新八に電話させたら、犯人はやっぱりジジイだった。逮捕されろクソジジイ。真選組仕事しろ。
 つまり、ご飯が手元にあるとする。醤油は台所、卵は……買い物中? ともあれ食べたいと思った時にご飯さえ手元にあれば、卵かけご飯が完成する、らしい。

「万○きし放題だよ! 卵未会計だったらどうすんの!? 吸い寄せられちゃったら○引きになるんですけどォォオ!?」
『……それは考えてなかった』
「嘘だ、わざとそうしたんだ! あわよくば江戸中の卵で断りもなく卵かけご飯作る気でしたよね!?」
『ごほんごほごほ、すまん銀の字。最近咳が』
「咳がどうしたってんです!? 自分の喉から出るでしょう、良かったですね! で? 試運転とかしましたよね」
『よくわかったな。今した。だから卵かけ御飯ができるのを待ってる』
「どうしてくれるんだよォォオ!? 銀さんと僕が入れ替わっちゃったじゃないですかァァア!?」


 また誤作動。あのジジイどんだけ卵かけご飯好きなの。おかしいと思わないの、自分で作ったカラクリなんだから卵かけ御飯待たされ過ぎって思わねーの。あれ、卵かけ御飯好きなのそうでもねえの。どっちなの。

「卵と醤油の代わりに僕と銀さんが合体しちゃったんですかね」
「やだ合体だって。やらしい言い方すんな、メガネ掛けられ器と合体する趣味はねえ」
「アンタは頭ん中ドロドロだよ!? やらしいって何、変なこと考えないでくださいよ! うわ、サブイボ立った」
「それ俺の身体。勝手にサブイボ立てんな」
「それより僕の口に妙なこと言わせんなァァァア!」

 とにかくカラクリ堂に行かないと話は始まらないだろうという結論に達し、神楽も加えて俺たちはしぶしぶ外出することにした。もちろんややこしいことになるから、お互いにお互いのフリをする。これがなかなか難しい。

「銀さんよぉ、どうせ行ったってロクな目に遭わねえからのんびり行こうぜ。ちょっとファミレス寄らね? パフェ食いてえ」
「なに言ってんです新八くん、そんな金どこにあるんです。さっさと元の身体に戻って仕事してくださいよ」
「お前がな、銀さん」
「雇い主オメーだろ新八」
「お前らややこしいネ。酢昆布頼んでいい銀ちゃんはどっちアル」
「「そっち」」


「銀さん。土方さんが」

 これはまた厄介な野郎に出くわしたモンだ。でも、考えてみればこいつは誰よりもこの事態に理解があるはずだ。バレても大丈夫だろう。
 土方は俺たちを認めて、いつにも増して嫌そうな顔をした。愚かにも新八の身体と神楽限定で口を利くことにしたらしい。バカめ、新八は俺だ。

「その……迷惑掛けたな。身体の調子はどうだ」
「私は絶好調ネ」
「俺は最悪なんで。話しかけないでくれる」
「どうした。どっか元に戻り切らねえとこでもあんのか、二番隊隊長」
「ウチの従業員で真選組ゴッコすんのやめろ。あと給料払うのも」
「……」
「「給料は払えよォォォオ!?」」

 子供が大人と戦闘種族に袋叩きに遭ってんのに、止めないって職務怠慢じゃねえの。助けろ腐れ副長。だが事態を一気に理解したことは褒めてやろう。

「おい。誰が誰だ」
「私は私ネ」
「僕、新八です」
「……なるほどな。テメェがクソ天パか」
「は!? 今は天パじゃねえだろメガネだけど! でもメガネな身体がついてくんなら天パでいいわ。むしろ天パ返せ」
「またあのジイさんか」

 驚いたことに、真選組は源外のジジイを直ちに捕らえるつもりがないらしい。『下手に手ェ出すとウンコにされる』と恐れるあまり、局長以下副長を覗く全員が、積極的に逮捕するのを躊躇ってる。

「あのカラクリさえなきゃタダのジジイだと思うんだが」
「どうやってジジイからカラクリ排除すんだ。ありゃぁカラクリ要塞に護られてる難攻不落の城だぞ」
「大筒……」
「甘いです。大筒を撃ち込む前にこっちがカラクリに排除されます」
「……なんか」
「「?」」
「会話すんのややこしい」
「「ええー」」
「もっと外見に話し方を似せる努力してほしい。話しててどっちがどっちだかわかんなくなる」
「仲間はずれ良くないヨ! 私グラさんやる」
「神楽ちゃん、もっとややこしくなるから。やめて」
「いーやーネー」
「……とにかくカラクリ堂行くんだろ。逮捕状もねえし、今日は見逃してやるから俺も行く」

 俺たちは万事屋一同で顔を見合わせた。アレでも一応指名手配犯だ。真選組なんか連れてっていいのか。

「でも。こないだは土方銀さんと銀さん土方さんで行ったわけでしょう」
「俺あんとき隊服着てたしなぁ。真選組関係者って周りにはバレてんだろうな」
「大丈夫アル。ジイさんに攘夷仲間いないネ、ボッチだから誰にも迷惑かかんないヨ」
「けどよ。なんのためにコイツ連れてくの。すげー嫌な予感しかしねえんだけど。スッキリ話が済むところ、コイツが引っ掻き回すような気しかしねーんだけど」
「そうですよね……なんでまた行きたがるんですかね」
「じゃあお前聞いてみろ。俺っぽく」

「えーと。おい土方クン」
「……」
「なんでまた僕たちと一緒に行きたいですか、酔狂な」
「……」

「固まっちゃいましたけど」
「そりゃおめ、『酔狂な』とか俺言わねえもん。どっちかっつーと高杉っぽいだろ、疑われたんじゃねーの」
「そうでもないネ、銀ちゃんも酔狂って言ってたヨ。太郎河童」
「あいつ知らねーじゃん」
「じゃあ今度銀さん言ってくださいよ、僕っぽく」

「腐れ土方さん、なんで僕たちに首突っ込んできやがるんですか」
「……」
「無言てなんだ! ツッコミ待ちか、無言にツッコむって高等技術だろーがァァァア」
「ああ、クソ天パか」
「なんでだァァア!?」

 土方は何かを勝手に納得したらしく、珍しく笑顔を見せて、自然に俺たちの中に入ってきた。図々しい。

「ジイさんはともかくあのカラクリは取り締まったほうがいいかと思ってな」
「テメーらで勝手にやれ。ついてくんな」
「万事屋一番隊隊長、二番隊隊長。俺も行くが問題ないな?」
「「もちろんです」」
「なんでウチの従業員飼い慣らしてんだよ!? 社長は俺だから!」
「うるさい。行くぞ」

 なんでおめーが仕切るんだよ。銀さんココ! ナリはダメガネだけど俺はココなんですけど!
 地団駄踏んでも効果はなく、むしろ大人二人と神楽で和やかに楽しそうだ。仲間はずれ良くない。
 しょうがないから俺もついていく。非常に面白くない。

「そもそもどうしてこうなった」
「こないだのカラクリに源外さんが余計な改良したみたいです。それで、また」
「どんだけ卵かけご飯好きなんだあのジイさん」
「だろだろ! 俺もさっきそう思った!」
「……」
「オイなんで俺は無視だよ!?」

 あれ。なんかさみしいんだけど。なんでそっちの三人仲良くなってんの。俺みそっかすみたいなんだけど、なんで。なんつーか……なんでおめー、俺と寄り添ってんの。心なしか嬉しそうな……まさかな。

「おい銀さん。銀さんは俺と並ぶ! 反対側神楽ッ! ダメ副長は一人さみしく後ろからトボトボついてこい」
「わがままネ。なんで私が新八の横ヨ、私は銀ちゃんの横がいい」
「俺! 今! 新八!」
「新八が真ん中じゃ万事屋っぽくないでしょ。真ん中は僕ですよ、それにお客さんなんだから土方さんと並んだっておかしくないでしょう」
「……お客さん」
「お客でももったいねーよテメーは! まだ万事屋の社長気取りですか、あ!? あれは俺の中ではナカッタコトになってんだよ、万事屋の社長は俺!」

 土方の背中に向かって怒鳴っていたら突然土方が隣になった。
 本当に突然で、何のことだか今度もわからない。俺は土方の背中を見て土方に怒鳴っていたのに、怒鳴り終わった時には土方と並んでいた。

「おいどーいうことネェェエ! レディをハブにするなんて礼儀知らずには神楽サマが成敗……あれ?」

 新八の声が後ろからしてるけど、どういうことネ。土方の並びってことは元の体に戻ったのか? あれ、土方挟んだ向こう側に俺が見えるどうしよう。

「……神楽になっちゃったよオイ」
「ええっ!? 僕の身体は? 責任持って最後までキープしてくださいよ!」
「待て。テメェはメガネのままなのか」
「そうですね。僕は今回は何も」
「チャイナこっちに来い。どうした」
「飛び蹴りしようとしたら身体重くて思うように動かないアル。新八の身体使いにくい」
「そういや神楽の身体ってことは今は俺が怪力なのか。ふっふっふ、土方くーん日頃の恨みを晴らさせてもら」
「全員ごっちゃになったんだな? ジイさんに確認してみろ」
「無視かよ!?」
「でも土方さんのケータイでカラクリ堂に電話したら、源外さんに怒られます。発信履歴から源外さん逮捕したりするでしょう」
「じゃあ小銭。公衆電話使え、ほら。十円玉でいいか」
「ウチの子を買収すんな!」
「ありがとうございます」

 俺の身体で土方にお礼なんか言うな。頭下げるなふざけんな。つーかホント、お前はなんで俺の身体と会話してんだよ。それリーダーじゃないからね、ダメガネだって言ってんの。わかんないヤツだな。

「チャイナ。地球人はお前ほど身体強くないからな。あんま無茶すんな」
「じゃあ私も並ぶネ! 銀ちゃん邪魔」

 神楽てめー自分の身体だろそんなに邪険に押すな! だが今の俺は夜兎族のカラダ。新八の軟弱な身体に押されたってビクともしない。神楽は俺を押しやるのは諦めて、土方の右腕にぶら下がることにしたらしい。俺の身体が電話しに行ってる間に、右側を取ることに難なく成功した。

「やっぱりもう一回カラクリ動かしたそうです……僕たちが行くまで触らないように言っときました」
「最初からそうするべきだったな。俺が現場にいれば指示できたのに」
「ほんと。土方さんがいたらもっと簡単に解決したような気がしてきました」

 土方は無意識なのか、神楽をぶら下げて俺の身体と並ぼうとする。右手に神楽をぶら下げてるから俺の身体の右側に立つことになるんだが、一分もしないうちにそわそわしてきた。

「ちょっと、チャイナ……っつーかメガネ?」
「私ダメガネじゃないヨ! ひどいヨ、神楽ネ」
「ああ、まあ……チャイナ。反対側来い」
「?」
「その、あれだ。右手塞がってると落ち着かねえ」
「ふーん。いいヨ」
「万事屋は、こっち」
「僕は新八ですけど」
「いいから! こっち」
「?」
「いや。なんとなく落ち着かなかった」


 俺の立ち位置は変わらなかった。端から見れば真ん中に土方、右隣に俺、土方の左手には新八がぶら下がる。神楽の俺は後ろからトボトボついて歩くことになる。
 新八のナリで甘ったれるな。『酢昆布買ってヨ社長』とか言うな。何がなんだかわかんなくなるだろ。社長は俺だから。この場合せめて俺に見える新八だから。土方ではあり得ないから。断じてないから。

「おーい。女の子ハブにするとか、人道外れてなーい?」
「……」
「おい。腐れ副長いい加減にしろ、今の俺は夜兎なんだぞすげーんだぞ、テメーなんざひと捻りだから。普段も強いけど今はもっと強いから」
「銀ちゃん、私より弱いアルか」
「そうだなチャイナ、今の話で行くと万事屋はお前より弱いってことになるよな、バカだから墓穴掘ったことに気づかねえんだ」
「バカですね。黙ってついて来ればいいのに」
「まあ、あんまり虐めてやるな」

 なんだよなんだよ、なんで和気藹々としてんだよ。俺はいらない子か。えっそうなの。ガキどもも給料くれる社長のほうがいいの。ずりーよ俺もワイワイキャッキャしてえ、じゃなくて俺が真ん中!
 もういいよ、俺なんかいらねーんだろテメーらでよろしくやってろよ。俺もおめーらなんかいらねーや。ひとりで楽しくやるわ。


 俺は後ろをついて歩くのをやめた。人について歩くなんて俺じゃねえ。俺は俺のやりたいようにやる。とりあえずパチンコ……って神楽ろくに金持ってねえわ。でも少ない元手のときのほうが出たりするんだよな。むふ。

「お嬢ちゃん、子供はパチンコできないんだよ。大人になったらまたおいで」
「……」

 行きつけのパチンコ屋に門前払いされた。なんでだ。
 賭博場もダメ。あれ、神楽はそよ姫連れて出入りしたっつってたのになんで。世間が俺を疎外するんだけど。
 団子屋に行ってみた。ここは子供に優しいはず。親父は、珍しいね神楽ちゃんとかなんとか言ってたけど気にしない。小遣いが少ないから今日は二本だけど、二本食えたら充分幸せだもの。俺をハブる連中のことなんか忘れられる。

「……なんでだ」

 全然足りねえ。腹の足しにもならねえ。もっと、もっと食い物を寄越せ。チャラついたおかずはいらねえ、白飯と沢庵があれば。

「なんでだ!?」

 キレイなネエチャンと遊ぶ気にもならない。おっぱい見てムフ、って思えない。羨ましい、俺もボインになりた……

「なんでだぁぁぁあああ!?」

 とっぷり日が暮れるまであちこち歩き回ったけど、楽しいことなんかひとつもない。だからと言って万事屋に帰る気にもなれない。土方があいつらと楽しく飯なんか食ってるところに帰ってみろ、惨めになるだけだ。なんだよ。もういいよ、卵かけ御飯食って死のう。共食いだから死ねそうな気がする。

「おい……っ、」

 突然肩を掴まれた。声で土方だってわかったけど、振り返ってなんかやんねーから。

「探したぞ、どこほっつき歩いてんだ」
「探すなよ。あいつらと楽しくやってろ」
「……悪かった。なんか頭ん中ごちゃごちゃして誰が誰だかよくわかんなくなっちまった」
「フンだ。嘘つけ、テメーはガキと戯れてればいいだろ。俺が嫌いだから無視したことくれえわかってんだからな! いっときとはいえガキどもの面倒見たから情でも移ったか、そんならずーーっとあいつらと遊んでろ。俺は出てくから。もう帰んねーから」
「……万事屋、そうじゃねえ」


 土方はいきなり俺の手を取った。そしてグイグイ引っ張って歩き出す。振りほどくのは簡単だけど、やっと人に見てもらえた安心感で意地を張り通せない。なんて軟弱になっちまったんだ俺、最近たるんでたわ。心を入れ替えよう、また鬼の子になってやる。

「とにかく今は元に戻ることを考えろ」
「元に戻ったって帰らねえからな!」
「……テメェがそう決めたなら、俺は何にも言えねえよ。ただ、その身体はチャイナに返してやれ」

 そうだよな。テメーは神楽のために俺を連れ戻しに来たんだろ、やっぱり帰んねーから。俺の身体にいたときは、こいつに嫌われることなんか毛の一筋分も気にしてなかったのに。こいつが俺を探しに来たことでホッとしたらダメだ俺。気を確かに持て。

「メガネ小僧とあのジジイから詳しく聞いた。今回のはおそらく近場でクソ装置を発動させれば解決だ」
「なんでわかる」
「本来そうでなきゃ江戸中の卵が○引きされ放題になんだろが。あのジジイそこまで阿漕じゃねえよ」
「……じゃあなんで」
「装置ん中に卵と飯と醤油入れねーで、よりお手軽に卵かけ御飯作りてえんだと。想定より遠くの物まで混ぜられちまうのがタマにキズなんだとよ。卵だけに」
「なんじゃそらァァァア!?」

 遠隔操作過ぎるから上手くいかないんだと土方は言う。近場にいて目的物を限定できれば上手くいくと。

「お前そんなたわ言に言いくるめられてきたの? バカ?」

 もう一回操作したらまた遠くの誰かが入れ替わる可能性のほうが高いだろ。バカなの。よく考えろ。
 それでも土方は俺の手を離さず、前に引っ張りながら言うのだ。

「それがいちばん元に戻る可能性高けーんだ。やるしかねえだろう」

 土方の手は思いがけず骨ばってて、指が長くて細かった。ってなに観察してんだろう。まあ、こんな姿にならなければ土方と手を繋ぐこともないわけだ。今なら可憐な少女に見えなくても、万事屋サンとこの神楽ちゃんを親切に連れて帰るお巡りサンに見えるし。
 と思った途端に、急に恥ずかしくなった。

「おい……手」
「なんだ」
「離せよ。連行されてるみてえだろ」
「ダメだ。お前また逃げるかもしんねえ」

 そういえば土方は俺の右側にいる。右手を塞ぐのを嫌って左手で俺の手を握っているからだろうが、思い返せば今までも、心ならずも土方と並んで歩かなければならなくなった時、俺はいつも土方の右側にいた。
 さっきも新八が左側を歩いたら、気持ち悪そうにしてたっけ。

「なあ。左に人がいんの、気持ち悪くねえの」

 と聞いたら、土方は目を瞠った。

「……そうでもねえ。つうかだいたい俺は人の右側取るぞ」
「さっきは、」
「近藤さんくれえかな。右側邪魔しちゃ悪ィと思うのは」
「邪魔?」
「刀抜くときに邪魔になったら悪いだろ」
「……俺は?」
「テメェは隣歩かせることなんぞ……っ!」

 土方もさっきのを思い出したらしい。急に黙り込んで、なぜかぎゅっと手を握ってきた。なんだか笑いたくなる。

「……そのカッコの間はいいだろ。大人しく護られとけ」
「無視したくせに」
「見てくれが変わったら、テメェといつもどうやって喋ってたかわかんなくなっちまったんだよ! どんなツラすりゃいいか訳わかんねえ」

 土方の顔がほんのり赤い。俺もつられて顔が熱い。でも不快じゃない、ってどうしちまったんだ俺。


 それから俺たちはもう、言葉を交わすことはなかったけれど、カラクリ堂が近づくにつれて手を離さなきゃならないのが惜しいな、と思うくらいには俺のもう不貞腐れた気持ちも霧散しちまってて、いっそおんぶでもねだろうかと思った。
 でも、土方のまんざらでもない顔を見るに、元の姿に戻ってもおんぶくれえできるんじゃないかと思えてくる。おんぶは無理でも、別のなにか。もっと、今までの俺たちよりもっと近づけるなにか。
 カラクリ堂に着いたら源外ジイさんが外まで出迎えてた。土方は俺を見下ろして、さみしそうな顔になった。それから優しげな手つきで俺のオレンジの髪を撫でて、じゃあ俺はこれで、と言った。
 だから俺もその長身の後ろ姿を見送ったけど、さっさと自分の身体を取り戻そうと思う。

「こりゃ銀の字をいちばんに戻してやんねえといけなくなったな」

 ジジイが笑った。俺も笑って、早く元の身体で土方に会いたいと思った。あんなさみしい顔、させっぱなしではいられない。
 土方が俺たちの中に入り込んできたときの綺麗な笑顔を思い出して、次に会いに行ったらもう一度あの顔が見られるといいな、と思った。



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銀さんと土方さんが並んで歩くときは、
銀さんが車道側正義!

やま様リクエスト
「銀サイドで入れ替わり→土を意識しだす
→両思い」

リクエストありがとうございました!




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