マンネリって何ですか


 マンネリってなんだ。

 と、土方が突然言い出した。
 その日は非番で、土方は前の夜からウチに泊まりに来てた。夜はもちろん土方とイチャイチャして、そんで今朝は土方にとってはせっかくの休みだから寝坊させてあげて、遅い朝飯兼昼飯を食べていたところだ。
 ちなみに神楽には何とか理由をつけて恒道館に行ってもらった。俺と土方のつき合いはあまり公表していない。真選組副長が男とつき合ってるって積極的に広めるのもどうかと思うから、これまで注意を払ってきたつもりだ。
 昨日から今日にかけて一緒に居られるのも、土方が見廻りのときにそっと俺に非番を耳打ちして行ったから実現している。断じて万事屋に電話とかしてきたわけじゃない。

 そして今、土方は箸を止めて、じっと俺の答えを待っている。一体なんだ。何が起きた。

「なんでそんなこと聞くの」

 これは何か不満があるのではないか。俺はビクビクしながら質問返ししてみた。

「総悟が言ってたから。つき合い長いと『まんねりか』して飽きられるって」
「……」
「で、『まんねり』ってなんだ」


マンネリズム【mannerism】
手法が型にはまり、独創性や新鮮味がないこと。マンネリ。マナリズム。
(goo辞典より)


「……わかってて言ってんじゃないの」
「わかんねーから聞いてんだろうが」
「あの、土方くん」
「なんだ」
「俺に不満があったりする? なんでもいいんだけど。ちっさなことでもいいんだけど、不満とかない?」
「小豆を飯に乗せるのをやめて欲しい」
「マヨネーズ丼やめてから出直してこい――そうじゃなくて」

 土方は眉を寄せて、首を傾げた。バカじゃねえのって顔してるけど可愛い。なんなのこの子。いやわかってる、自分の可愛さを理解してないしする気もないんだ。悪質だ。

「おめーが俺に不満とか募らせてるわけじゃないなら、マンネリは関係ないんじゃないかな」

 要らんこと教えやがってあのクソガキ。土方のこと好きなんじゃねーの。いや違うな、あいつは土方が困れば大喜びなんだ、知ってる。俺は知ってるけど土方はどういうわけかそこんとこを理解しない。してるつもりらしいけど甘い。
 けどなんで沖田が、などと考えを巡らせていると土方は大層不満そうに抗議してきた。

「そんなこと聞いてんじゃねえ。『まんねり』ってなんだって聞いてんだ」

 仕方なく意味を教えてやると、土方は黙ってしまった。何か考え込んでる。やめて。深く考えないでそこ。わざわざ不満を見つけ出さないで。宇治銀時丼はやめねえけど。

「お前が俺に飽きるってことか」
「え、なんて? いや聞こえたんだけれども。聞き間違いだと思うからもう一度言って」
「飽きないように俺が工夫すればいいってことだな」
「おい! 俺は飽きたなんて思ったこと」
「飽きたと思ってからじゃ遅いだろ。わかった。なんか考える」

 土方は勝手に納得して、いたく満足顔で飯の続きを食い始めた。絶対お前わかってないよ。考えるってロクでもないことだろ。いつも通りがいいの俺は。下手に非日常とか演出しないで。アブないから。お前の思考が。
 散々言って聞かせたけど、土方はこうと決めたら曲げない男だ。なんか考えながら押し黙ってる。ああ、夕方には帰っちゃうのにそんな難しい顔して黙らないで。俺とイチャイチャしてればいいのに。
 言ってもわかんないなら実行だ。飯の後片付けをして、そそくさと土方の横に座って腰を抱き寄せた。次いつ会えるかわかんないんだから、スキンシップ大事。
 土方は大人しく俺に凭れながらまだ何か考えていたが、突然パッと目を輝かせた。

「外行くか」
「……なんで」
「いつも昼間は出かけねえだろ。いつもしねえことすれば『まんねり』になんねえから」
「俺はいつもと同じでいいんだってば」
「俺は嫌だ」

 決断したら即実行の男、土方。もう俺の腕の中から抜け出して立ち上がってる。俺はウチん中で自堕落にイチャイチャしたいのに。

「行くぞ。なっ」
「なっ、じゃねえよどこ行くんだよ面倒くせえよ」
「面倒くせえって……やっぱり『まんねり』なんだろ。俺に飽き」
「ちがーう! 飽きてないからいつも通りがいいって言ってんの!」
「外出てみりゃ別の楽しみがあるかもしんねえだろ。やりもしねえで嫌だって言うのはどうかと思う」
「でも、誰かに会ったりとか……」
「グダグダ言ってねえで行くぞ。ホラ早く」

 オイむしろお前が俺に飽きてんじゃねえの、と言いたくなるくらい強引に、目をキラキラ輝かせて土方は俺の手を引っ張る。クソッこれで可愛くなければ言うことなんか聞かねえのに、なんでこんなに眩しいんだよチクショー。

 というわけで渋々、仕方なく俺は土方に引っ張り出されたわけです。


 とはいえ完全にノープラン。そぞろ歩きするにはお日様はカンカン照りつけるし蒸し暑いし、真昼間の外じゃ手も繋げない。あんまり快適じゃない。
 それは土方も同感だったようだ。

「暑い」
「そうだな」
「お前、着流しの下にまだ着てんだろ。おかしいんじゃねえの」
「うん、まあ……まだこれでいいかな」
「真夏になったら甚平か」
「そうだな。外には着てかねえけどな」

「よし。お前の服買うぞ」

「え、」

 有言実行の男、土方。呉服屋目指して暑苦しいほどの早歩きを始める。自分のファッションすらどうでも良いくせに俺のファッションにケチつける気か。ていうかこいついつもどこで着物買ってんだ。
 などと思っていたら、

「お前いつもどこで服買ってんだ」
「……まあ、決まったとこはある」
「そこ行くか」
「そこ、この着物しかねえけど?」
「それはダメだ。『まんねり』を解消すんのにいつもと同じじゃダメだ」
「じゃあどこよ」

 土方はちょっと考えて、またパッと顔を輝かせた。

「俺がいつも行くとこにしよう。お前連れてったことないし。そうしよう」
「ちょっ……」

 さすがに私服は真選組御用達の店じゃないよね。大丈夫だよね。店で誰かに鉢合わせたりしないよね。大丈夫なのお前。
 俺の非常警報がめちゃめちゃ鳴りまくっている。慌てて土方を止めようとしたけど、あいつズンズン先に行っちゃって俺の言うことも半分聞いてない。まあいつものことだから驚かないけど。けど今日は多分マズい。
 案の定、沖田が見廻りという名のサボリ行為を続行中のところへ行き当たってしまった。

「あれ? 土方さん。旦那と一緒なんて珍しいですね」
「お前が『まんねり』って言うからいつもと違うことしてるだけだ」
「えっ」

 そうだよな、そうなるよな! 余計なこと言うなよ土方、なっ!?

「マンネリの話したのァ、こないだ隊士がカノジョ作ったって話のついででしたよねィ」
「そうだったか。忘れた」
「俺ァ一般論として、長くつき合ったカップルはだんだんマンネリ化してくるって言っただけですぜ」
「『まんねり』って、相手に飽きられるってことだろ」
「ええ、その通り。なんだか土方さんわかってねえみてえだなァと思ってたんですが、我が身に置き換えたらばっちり理解したってことですね」
「そうだ」
「おい、土方……」

「そっかー土方さんは旦那とつき合ってて、しかもマンネリ化にビビるほど長いつき合いな訳だ。こいつァ大ニュースだ大変だー、早くみんなに知らせねえと」

「な、なななな」


 今更焦っても遅いよ! 沖田くん何その棒読みの言い方。絶対わざとだ。ドS王子は炙り出しのためにおめーを嵌めたんだよ気づけ、気づいてほんとお願い。

「沖田くんこれはね。土方が俺のファッションにケチつけるから、そんならおめーはいつもどうやって着物買ってんだってぇ話になって、俺は土方が服買うとこを見物に来ただけだから。いつもの喧嘩の流れだから」
「へえ? お二人がファッションで喧嘩ねえ。まあ、食いモンで喧嘩になるくらいですから……」

 明らかに不満顔で、でも仕方なく沖田が引き下がろうとしたとき、

「銀時!」
「えっ」
「俺はケチつけてないぞ」

「銀時!? 銀時って言いました今土方さん、いっつも万事屋って吐き棄ててるくせにアンタ、やっぱりお二人ァそういう関係で」
「沖田くん! 違うから!!」
「銀時ッ、そんな力一杯否定すんな! やっぱり俺のこと」
「ちょっと土方くん黙ってて」

「うわあホンモノだ。怪しい怪しいたァ思ってたが、こうも綺麗に引っかかるとかえって気色悪いっつーかつまんねーっつーか、とにかく屯所帰りますんでごゆっくり」

 止める間もあったもんじゃない。沖田くんは軽く身を翻して大喜びで駆け出してった。


「……どうする」
「お前は、俺とつき合ってんの知られるのさえ嫌だったのか……」
「そうじゃねえよ! そっちじゃなくて! おめー大丈夫なのかってこと!」
「ほんとに俺に飽きてないか」
「飽きてない!」

 飽きる暇あると思ってんの。なんでこの子こんなにチョロいの。バカなの。バカワイイの。許されるのこれで、真選組大丈夫なの。

 服屋はなんとなく気を削がれたので、次を考えることにした。土方はまた眉間に皺を寄せてしばらく黙った。が、すぐに何か思いついたらしい。いつものカッ開いた瞳孔もどこへやら、眩しいくらい輝く目で俺を見る。

「電車で一個先に、新しい甘味屋ができたらしい。行くか」
「それ、誰情報」
「山崎。探ってこさせた」
「……」

 どうしてお前はそういうとこ抜けてんの。お前が甘味処情報集めてたらおかしいと思われるってわかんないの。真っ先に結びつくのは俺だと思うんだけどそうでもないの。そうでもないならそれはそれでムカつく。
 でもジミーは気が利かなそうだから俺に結びつけたりしないのかも。どうなの、もう土方の真選組内での扱いがわかんなくなってきた、大丈夫かな、大丈夫だよな。

「あー俺だ。あ? まだ休みだけど。お前がこないだ言ってた甘味屋ってどこだ。電車ってどれに乗るんだ」
「ちょ、土方くん!?」
「ぎん……万事屋と一緒だから。連れてくとこだ」
「……!」

 何でわざわざ電話してんの。なんで自ら広めちゃうの。何やってんの? 何やっちゃってんの!?

「ぞうもつ? 何言ってんだ甘味屋だ、臓物食いに行くんじゃねえ。アホか」

 アホはお前。
 なんで俺にケータイ差し出すの。変われってか。変われってか!?

「あーもしもしジミーくんお久しぶり別に俺が頼んだんじゃねえんだけどなんか土方が俺に自慢してくるからしょうがなくみたいな」
『旦那、よく口が回りますね。人間疚しいことがあると口数多くなりますよね。半臓門線その辺にあります? 一個先っつったって今どこです?屯所から一個先ですからね、お二人が今どこでデートしてるか知りませんけどね』
「デートじゃねえし! 喧嘩中だし!」
『副長がいそいそ甘味処探してるから、怪しいとは思ってたんですが……ま、どうぞごゆっくり』

 ジミーは一方的に場所を言いまくってさっさと電話を切った。呆然としていると、土方がケータイを引ったくった。


「行きたくないか……?」
「え」
「俺と甘味屋行くのは嫌か? 気に入らねえ?」
「……ッ」

 しょぼん、と俯きつつ目は俺に向いてて、つまり背の高さは変わらねえのに上目遣い。クソッ可愛い! 可愛くなきゃただのバカなのに可愛いよ! なんなのこの子!

「嫌じゃねえよもちろん。でもお前はいいの?」
「何がだ」
「俺とつき合ってるって、今日帰ったらバレバレだろ。沖田はともかくジミーまでバレちゃったらさすがに隠し通せねえよ?」
「俺とつき合ってんのは、恥ずかしいか」
「そうじゃねえよ。お前が恥ずかしくないか? 俺はアレ、無職ではないけれども自由業だし、その、昔はアレだし」
「知ってる。だからなんだ」
「なんだじゃなくて! 真選組の副長が、マズいんじゃねえの、怪しい男とそんな関係だなんて」
「近藤さんはいいって言ってたぞ」

「えっ」

「銀時とつき合うことになったんだって言ったら、そうか良かったなって言ってくれたぞ。それにダメだって言われても困る」
「……」
「お前は? 俺とつき合うのは嫌か」
「嫌なわけない」


 真昼間、表通り。
 俺は土方の手を握った。誰が見てても構うもんか。


「土方が大好きだよ。だからマンネリなんてない。いつ見ても好き。何度会っても好き」
「銀時……」
「ほんとはね、ずっと前からこうして昼日中手ェ繋いで歩きたかった。陰でコソコソつき合うんじゃなくて、堂々と俺の恋人ですって言いたかった」
「……」
「良くないかなって。勝手に考えてた。ごめん。今日何回もお前のこと好きじゃないフリしたよな、ごめん」
「……」
「好きだ。今までも、これからも」


 土方は顔を上げて、まじまじと俺を見た。綺麗な目だな、って見惚れてると、

「お前、恥ずかしい奴だな」
「え、」
「真昼間にこんな大通りで。場所を考えろよな」
「……」
「大の男が手とか繋いでたらみっともねえだろ。ホラ離せ。場所わかったか? 山崎なんて?」
「……」
「早く行くぞ、食ったらそろそろ帰んねえと」
「……」

 わざとじゃないんだ、アホの子なんだ。自分のやってることと言ってることが全然違うことに気づいてないんだ。しょうがない、可愛いんだもの。バカだけど可愛くてしょうがない。

 ジミーに聞いた通りに地下鉄に乗って、電車に乗り慣れない土方は車内でやたら他人に刀ぶつけて、舌打ちされると睨むんで俺は冷や汗を掻きながらあっちにこっちに頭を下げまくり、これなら歩いた方が気が楽だったんじゃね?と思うほどドッと疲れつつ目的地に着いた。甘味は美味かった。でもジミーの奴何を考えてここを土方に教えたのか、カップルさんばっかりでしかも対面に座る形式じゃなくて並んで座る形式で、土方は一瞬も躊躇わずに俺の横にぽてっと座った。そんで自分はコーヒー飲みながら、俺のパフェを興味津々で観察するのでめっちゃ体が密着して、店の人をドン引かせてたけどやっぱり気づいてなかったな。うん。

 気づかなくてもいいんだ。他人の好奇の目からは俺が護る。それに俺だってこんなカッコイくて可愛い恋人を横に、他人の目なんて気にしない。
 そんなことより、俺を楽しませようとして多少的外れだけど一生懸命になってくれる可愛い恋人に、俺もこの一瞬一瞬が新鮮で、大切で、胸が苦しくなるくらい愛おしいのだということを一生懸命伝えたい。
 デートの時間は終わってしまった。でも次回からは土方が万事屋に電話して来られるように、帰ったら新八と神楽にもちゃんと言おう。俺が土方のことを隠していたせいで、きっと今までも土方を傷つけていただろう。それも今日で終いだ。

「銀時」
「なーに。十四郎」

 屯所の前まで送って行けるのも、こうして外で名前を呼び合えるのも、憎たらしいが沖田や山崎、それに早々に認めてくれた近藤のおかげだ。今までは目につかないように、万事屋で別れてたけどこれからは堂々と屯所まで来よう。少しでも長く二人で居られることに、感謝しながら。

「次も『まんねり』しないように、なんか考えとく」
「イヤ考えなくていいから」
「なんか着て欲しいモンとかあるか」
「え!? コスプレしてくれんの!? マジで、そんならナース服ブフッ」
「そっちかよ!? でも『まんねり』にならないためなら、き、着てやっても……」



「ハイお二人さん。証拠映像ばっちり撮ったんで近藤さんに見せときまさァ、土方さんの下手な冗談だと思って笑ってたみたいですがこれでどうなるかなー」

「「何言ってんの!? 何やっちゃってんのォォオ!!」」




-------------------

こいけさまリクエスト
「無意識に小悪魔でうかつな土方さんを、
何故だか守りまくるハメになる
保護者坂田さん」

リクエストありがとうございました!
あれ? 守りまくれてない??




目次TOPへ
TOPへ

「ハッピーエンド」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -