縄目ノ恥ヲ受ク side H 「トシ……これ、また」 近藤さんが俺の手首を見て顔を顰めた。夏は薄着になるから困る。上着を着れば手首の痕など簡単に隠せるのだが、ワイシャツでは気をつけていないと手首が見えてしまう。 痕をつけたのはもちろん銀時だ。昨日は新しい拘束具を試すと称して思い切り締め上げられた。その前は手錠で、けっこう長時間だったからくっきり残って困った。 「俺から万事屋に注意してやろうか」 「なんで」 「なんで、って……」 「テープとかで隠したほうがいいか」 「……そういう問題じゃなくて」 人目に触れるところに痕をつけるのは、銀時の独占欲みたいなものだと思う。服に隠れるところにしてくれ、と言ってみたこともあったが、銀時は薄ら笑いを浮かべただけだった。 『人に知られたら困るの』 『いろいろ言われるし……恥ずかしい』 『なにが? 土方くんが拘束プレイ好きなこと?』 『好きなのはテメェだろ』 『そうかな。じゃあ普通にシてみる?』 そして俺はイけなかった。まる一日中銀時に責め苛まれて、それでもどうしても放出に至れなくて、ほらね、縛らないとイけないじゃん土方くん、と銀時がせせら嗤うのを朦朧とした意識の中で聞き、何度も頷いた。それから脚を折り曲げられて膝と太ももをひとまとめに縛られ、手は後手に、首輪と手を繋がれ目隠しまでされて、声が嗄れるまで鳴いた。ある時は縛られた姿で放置され、ヘンタイ、と耳元に囁かれて、その声だけで達してしまったこともある。 翌日が非番だったので銀時に連絡すると、電話の向こうで銀時はうっそりと笑った。 『こっちに来る?』 「都合が悪ければ外でも……」 『そうだな。まず外で飯食おうか』 銀時は優しげな声で言う。 『じゃあ、こないだの店。何時に来られる?』 「八時くらいなら」 『九時でいいよ。アレ、嵌めてきて』 「……外で?」 『見えねーから大丈夫。パンツは穿かなくていいから』 「そんな!」 『穿いてきてもいいよ。いいけど、そうしたらどうしようかなぁ』 「……っ、わかっ、た」 アレとは、この前銀時が手渡してきた玩具だ。尻穴を塞ぐボールとコックリングが繋がった、冷たい金属の塊。ボールはかなり大きくて、体内に入れるには時間が掛かるだろうから一時間やる、という『配慮』なのだろう。自分で異物を入れることに、まだ俺は慣れないから。どうやったら入るだろう。入れるときに勃ってしまったら、陰茎を前の輪に通せない。どうしよう。 考えただけで下半身が重くなった。 side G 九時を十五分も過ぎてから、やっと土方はやってきた。カウンターでも良かったのだがそれだと際どい会話ができないので、個室ではない座敷を取っておいた。個室ではないから隣の客とはほとんど背中合わせだ。それでいて極端な大声を出さなければ会話を聞かれることもない……聞こうと思えば聞けるけれど、それくらいでないと土方は喜ばないだろう。 既に頬を紅潮させた土方は、隣の客の近さに目を見張った。 「遅い。早く座って」 促すと、土方は潤んだ目で俺を見つめた。早く、と向かいの土方の席を示すと、意を決したように草履を脱ぎ、俺の前にのろのろと正座した。 「そんな畏まらなくていいって。脚崩せよ」 「……でも、」 「男なら胡座だろ。ね、土方くん」 そろり、そろりと土方は横座りになる。それからそっと尻を床につける。 「ほら、店の人来ちゃったよ。ビールでいい?」 「……ぁ、」 「じゃあ中ジョッキ追加。あとそうだな。なに食う?」 「なん、でも」 「お兄さんもう一回今日のオススメ教えて」 店員は長々と今日のお勧めメニューを語る。俺もさっき聞いたばかりだが、初めて聞く土方は半分も耳に入っていないようだ。 「だって。なにがいい」 「……お前と、同じので」 「パフェ食えんのお前。食えねーだろ」 「ぁ……適当に、頼んでくれ」 「ええー。せっかくオススメ聞いたのに。んじゃ刺身盛り合わせとねー、えーっと、どれにしようかなぁ」 土方は俯いて、顔をあまり見せない。わざわざメニューを少し離してからいちいち指差して、土方に確認をする。土方は顔を上げざるを得ない。少し息が上がってもいるみたいだ。 「取り敢えずそれでお願いしまーす。いいよな?」 「ああ、」 「調子悪い? 土方」 人に聞かせるように名前を呼ぶと、土方は抗議の目を俺に向けた。でも涙の溜まって熱の籠った目で睨んでも、愉快なだけだ。 「どう。上手くできた?」 「……っ」 「上手く嵌められたかって聞いてんの、オモ」 「できたっ、嵌め……てきた」 「パンツは?」 「……! はい、て………ぃ」 「聞こえねーな。パンツ穿いてきた?」 「……きて、な………」 「ノーパン?」 「……ッ」 土方は黙って頷いた。まあ良しとしよう。 「ボールちょっとデカかったかなって、心配してたんだけど。入った?」 「……なんとか」 「どうやって入れたの」 「……ッ」 「なあ。ケツの穴にどうやって入れたんだってば」 可哀想だから少し声を落としてやる。土方はホッとしたようだが事態はあまり良くなっていないことに気づかないのだろうか。 「自分でほぐしたの」 「……ぅ、」 「どうやって」 「指、入れて……」 「どこで」 「厠っ、で」 「へーえ。弄ったんだ。自分で」 「……そう、だ」 「キモチかった?」 「〜〜〜ッ」 「なあ。どうだった?」 店員が陽気な声で、こちら中ジョッキになりまーすと言いながら現れた。土方は声を飲んだ。 「ありがと。中ジョッキもうひとつ追加ね」 「はいよっ」 「で、どうなの土方くん。聞いてんだけど」 「……かっ、た」 「刺身盛り合わせです」 「あ、テーブル空けるね。土方、ジョッキどかして」 「……あ、ああ」 「あと灰皿もお願いします」 「お待ちくださーい」 「どこが良かった? 次の参考にすっからさぁ」 「……ッ、な、なか」 「そう。中が、ねえ」 side H 人がいるときは決定的な単語を外す。銀時は上手く使い分ける。今は銀時が注文した物がまだ揃っていないから、いつ店員が来るかわからない。それでも質問は続行だ。 「中って、なんの」 銀時はにっこり笑って俺に問う。何の、だと。決まってるのに、わかりきっているのに俺が答えるまで問いをやめない。そんなこともわかりきっている。 「しり、の」 「え? なあに聞こえなかった」 「しりの、なか……っ」 誰かに聞かれたらどうしよう。そう思えば思うほど、根元を縛められたものが張り詰めてきて痛い。しかも何も穿いていないから、目の粗い着物の生地に直接触れてますます刺激される。 「何本入れた」 厠でそこを弄った感触が甦る。初めに人差し指で中を柔らかくした。それから中指も入れて広げ、長い指の方で腹の側に触れたら、堪らなくなった。我慢できなくてもう片方の手で陰茎を握り、動かしたけれど達するには至らなかった。 「三本……」 「それでよく入ったね、アレ」 「……っ、苦しかっ、」 「輪っかのほうは?」 「なかなか嵌まらなくてっ、それで、遅くなっ、て」 「そう。大変だったね」 「ボール出して……っ、嵌めてから、もう一回入れようと、したけどっ」 「それ難しくね?」 「やっぱり入んなくてっ……何度も、出し入れ、」 「どうやって出した」 「……!」 「中ジョッキお待たせしましたー」 「はーいありがと。どうやって出したの」 「スイマセーン。後ろ通してもらっていいですか」 「土方、後ろ。こっち寄れよ」 「……っ、あ、」 「あ、すいません。当たりました?」 「いやっ、大丈夫……っ」 大丈夫だからこっちを見るな。見ないでほしいけれど、見られて股間がもっと膨らむ。隣席の客を通すために体を傾けたとき、尻の中の金属球があらぬところに当たって背筋がぞくりとした。 「ぎん、とき……っ」 「なーに。どうした」 「も……ダメだ」 「なにが」 「痛ッ、食い込ん、で……ッ、もう」 「なにがどこに食い込むって?」 「ぁ……っ、聞こえちま、」 「聞かれたら困るの」 「こま……っ」 「ビール残ってんよ。で、どうやって出したんだって?」 「力、入れて」 「どこに」 「腹にっ、あと、輪っかのほう、引っ張って」 「つるん、てか」 恥ずかしさで頭に血が上り、くらり、と目の前が揺れた。 side G なるべくゆっくりジョッキを傾けた。土方のジョッキは減らない。これ以上腹に何か入るわけがない。そんなことはわかっている。 「銀時、」 土方は声を潜めて懇願する。 「もう、ダメだ……っ」 「出しちゃえば?」 俺も声を潜めた。そしてにっこり笑ってやった。 「それとも自分でする?」 「な、にを」 「オナニー。ここで」 土方の耳に息を吹き込むように口を近づけて囁いた。 「見られちゃうかもね。これからパフェくるし」 「〜〜〜っ、」 「縛ってないからなかなかイけないもんね、土方くんは」 「〜〜ッ、早く、」 「早く縛ってほしい?」 必死で頷く土方をわざと待たせて、店員を呼ぶ。また土方は顔を伏せたが、そろそろそんなものでは隠せなくなっていることに気づかない。そんな余裕はもうないだろう。 「すいませーん、パフェもらっていいかな」 「かしこまりましたー」 「土方くん。パフェ食べる間我慢してね」 「ふ……、ぁ」 「それとも厠行ってくる? 一緒に行こうか」 土方は抗うことなく、よろよろと立ち上がった。途中でいったん動作を止めたのは、中の金属がイイところに当たったせいだろう。息が荒くなっている。 俺は浮き浮きと立ち上がった。土方の腕を引いて厠に連れて行く。足が縺れてうまく歩けないけれど、酔っ払いに見えなくもない。 個室に土方を押し込み、俺も入って扉を閉める。 「今はこれだけね。帰ったらキッチキチにしてやるから」 ひく、と身じろぎするけれど気にしない。土方の袷を遠慮なく押し広げて、 「あ……っ」 「しー。乳首だけ縛ってやるからよ。輪ゴム、痛え?」 「いた、ああっ」 「静かにしろってば。そんなに見られてえの? あとでな」 「ぁ、んぅ、」 「先戻ってるから。一回だけならオナニーしてもいいぜ。一回だけな」 俺が個室の外に出るのも待てず、土方が陰茎を握るのが見えた。扉の開け閉めの瞬間、土方の姿は外に晒されることになる。きっといい興奮材料にしてくれたと思う。俺はこっそり笑いを浮かべて、席に戻った。 side H だるい身体を引きずって席に戻ると、銀時はニッコリ笑った。胸が騒ぐ。一回では足りずに二回放出してきたことは、ばれてはいないだろうか。ばれたらどんな仕置きをされるだろう。想像したら収まったはずの熱がまた戻ってくる。 「じゃ、会計頼むね」 「え、」 「レジあっちだよ。行くよ」 下半身は裸、乳首には縛め。そんな姿で他人と会話しろと言うのか。酷いと思うのに、もし気づかれたらと想像して俺の身体はもっと熱を持つ。これ以上ここにいたらこの場で漏らしてしまう。それは、避けたい……ような、そうでないような。 立ち上がると中に食い込む淫具が歩くたびに当たりどころを微妙に変える。うまく取り繕えているだろうか。それさえよくわからなくなってきた。 銀時は楽しげに何か話しかけてくるが、手伝ってはくれない。俺はレジで何度か金額を聞き直さなければならなかった。思考に霞がかかったようになって、人の声が聞き取れない。震える息を押し殺し、なんとか札を数えた。釣りを受け取るときに店員と俺の手がぶつかり、ぶる、と身体が震えてしまった。 「頑張ったじゃん。さて、どうしようか」 店を出ると白々しく銀時は問いかけてくる。もう限界なのに。立っているだけでおかしくなりそうだ。銀時が容赦なく腕を引き、その振動で俺は達してしまった。こんなところで、人目も憚らずに。 「乳首縛られただけでイっちゃったの。こんな街中で」 「……ぁ、はっ」 「変態だな。どうするよ、もう我慢の限界じゃねーの」 「ね、はやく……っも、だめだ」 「ウチまで保たねーなこの淫乱。しょうがねえな」 銀時はそれでも加減などしてくれず、腕を取って早足に進む。もう声も堪えられない。必死で口を押さえるが、本当に人に聞かれていないだろうか。 そんな俺を見て銀時は楽しそうに笑う。 「着物の裾、広がっちゃってるよ」 「ぁ、」 「すげえ勃ってんの。見えちまうかもな」 「や……っ、たすけ、」 「青姦すんのとラブホまで我慢すんのとどっちがいい。選ばしてやる」 「やだ……そと、やだ」 「股に染みできてんぞ。ラブホ入るまでにいろんな奴に見られちまうけど、いいの」 「ひっ……やだぁ」 「じゃあ青姦しかねえじゃん」 外で犯される。 いけないことだと思えば思うほど、身体が高ぶる。ガンガンと頭が鳴り響くし、下半身の熱ははっきりと形を持って、着物の内側に擦り付けられる。いつもと違う感触が生々しくて、俺はまた放出することなく達した。銀時はじっとそれを見守っていた。 side G 元から部屋に連れ込む気はない。まあ、外でひと晩中というのもゆっくり抱けないから、そのうち連れて行ってやってもいいかもしれない。綺麗な肌が蚊に食われるのも腹立たしいし、少しの間で勘弁してやろう。 公園に連れて行き、帯を取ると土方の裸体が夜目にも鮮やかに浮き出した。本当に綺麗な身体だと思う。陰茎の根元に嵌ったリングが街灯を反射してキラキラと光った。乳首は鬱血して真っ赤になり、白い裸身によく映える。 「ね、もう……っ、縛っ、て」 土方は身悶えしながら懇願した。着流しを取り去り、外気に全裸を晒しながら今日はどんなふうに縛ろうかと思案する。通行人がいないわけではない。通り掛かったら通報されるかな、などと呑気に考えながら、土方の首に縄を通す。ふる、と土方は身を震わせ、俺に縋る。ところどころに結び目を作り、胸から腹を通って股を潜らせると、土方の身体はヒクヒクと痙攣した。 「イっちゃったの」 「ぁ……ん、ふぅ」 「コックリング意味ねえじゃん。あーあちんこの先から糸引いて。いやらしい」 「ひっ……あ、」 「もうちょっと我慢できねえかなぁ。ここ」 リングを引っ張ると土方は俺の肩に顔を押しつけて声を殺した。また痙攣が始まる。陰茎の先から半濁色の体液が止めどなく流れ続ける。 構わず亀甲縛りをしてしまって着流しを着せかけると、土方はへなへなとその場に座り込んだ。放出したことで少し緩んだ陰茎を掴んでリングを外す。座っているのをいいことに、尻を捲らせてボールを出すように命じた。 「手ェ使うんじゃねえぞ」 「ここ、で?」 「そうだよ。通行人に見てもらえ」 「あ……っ」 「土方くんがおっきな卵産むとこ、早く見せてみな」 土方は素直に手足をついて俺に尻を向けた。しばらく苦しそうに息んでいたが、やがてキラキラ光る卵を産み落とした。後にはぽっかりと拡がった、土方の赤い入り口。 後ろから俺のものをぶち込んでやると土方は嬉しそうに鳴いた。あまり鳴くので叱って尻を叩いてやったら、鳴きながら頭を下げて腕の中に隠し、尻を高く突き上げた。縛られた上に性器への縛めから解放されたせいで土方は止めどなく精液を垂れ流した。 これで少しはスッキリしただろう。土方の中に精を放ち、中から垂れることのないようにもう一度淫具を喰ましてやる。土方はうっとりと目を閉じた。手を取って立ち上がらせ、我が家へと誘う。覚束ない足取りで、それでも必死で俺についてくる土方。かわいい土方。こんな形でしか愛してやれないことに悩んだこともあったけれど、土方は喜んで俺を受け入れてくれる。さあ、次は何をしよう。しっかり縛ったから土方の身体はどこもかしこも敏感になって、何をしてもいい声で鳴いてくれるだろう。楽しみでならない。土方もまた、仄暗い期待に胸を焦がしていることを、俺は知っている。 なんと幸せなことか。 「帰ったらいっぱい可愛がってあげるね」 その耳に囁くと、土方は焦点の合わない目で俺を探しながら、綺麗に笑った。 この後またギッチギチでギッタギタ。 あさ様リクエスト 「鬼畜な銀さん」 土方さんも、もちろん変態。 リクエストありがとうございました! 目次TOPへ TOPへ |