美人の条件


 ちょっと面倒な仕事入ったからしばらく電話してくんなって土方に言われた。
 俺からは滅多に電話しないのにわざわざ念を押すということは、何となく仕事内容がわからんでもないけどわかったらマズイので追求しない。だが心配にはなる。無茶してくれるなよ、無事に帰ってこい、と。
 一週間くらい気を揉んでたけど、いくら心配したってしょうがないので俺は俺で土方の負担にならないように、できるだけ普通に過ごすようにした。それがいちばんだろうと思ったから。
 それなのに。

「……なにこれ」
「話しかけんなバカ。あっち行け」
「万事屋。悪ィが知らん顔してくれ」

 真選組のハゲが私服で、やけに背の高い女を連れて歩いているので女の顔を見たら土方だった。
 二度見して、さらにもう一回見たから間違いない。
 なにこれ。なに仲良く寄り添ってんの。夫婦かよ。面倒な仕事ってこれのこと。面倒の種類が違うだろ。
 二人は俺と接触したことを隠すように、そそくさと離れていった。ハゲが土方を庇うように背中に腕を伸ばしてやり、土方は大人しくその腕に収まる。よく見るとハゲの腰に大刀が二本差さっていて、片方は土方のだから確かに任務中なんだろうけれども。

「なにあれ。どこをどうするとああなるの」

 団子屋を警護してた沖田を見つけて、憤懣やる方ないのを一気にぶつけてみる。

「あれですかィ。こんなとこで大声じゃァ言えやせんがね。要人警護でさァ」
「充分デケェんですけど!?」
「一週間ですぜ? あんなモン見せられる俺たちの身にもなってくだせェ。いい加減にしてくんねえかなァ」
「……そこそこ見られたけど」
「それがまたキモイんじゃありやせんか。フツーに女に見えるから笑えねえ。ソッチのヒトにさえ見えねえんですぜ」
「どうせジミーくん作だろ」
「ザキもうんざりしてまさァ。自分がああいうカッコするときゃかなり苦労するのに、するっとハマってくれちまって気分は複雑みてェでさ」
「ああそう」

 確かに化粧乗りも悪くなかった。ジミーの女装は目立たないことを目的としてるんだから仕方ない。土方のは……普通に目が行く。俺だってずい分と綺麗な女なもんで驚いて振り返ったらってかんじだったもの。
 沖田が一応言葉を選んで教えてくれたところによると、某要人の警護を担当することになって、十番隊を専属につけたはいいがそいつが出る宴席に紛れないといけないらしい。出席者が奥方同伴なので、いかにも真選組、というのは隠して、どうにか夫婦の程を装ってくれと言われ、然りとて本物の女に頼むわけにもいかず、ジミーは別件で手が離せず、やむなく土方が奥方役についた、ということらしい。

「元がいいとあんなになるモンかねえ」

 俺も激しく不本意ながら、何度か女装したことがある。百発百中バレた。かまっ娘では隠す必要がないし、吉原に無理やり潜入したときは月詠の舌先頼みだったが見られた瞬間にバレた。
 土方のは、俺が土方をよく知ってるからこそ見破れたようなものだ。いつもの市中見廻りですれ違う程度では、正体どころか男であることもわかるまい。ちょっとガタイのいい女だな、とは思うかもしれないが足や腕の形を隠した和装なら、背の高さは隠せないが体型は誤魔化せる。髪は……さすがに鬘だろう。高島田が重そうで、俯いたときに見えるうなじが艶めいていた。前を向くと喉が見えてバレるから、敢えて俯き気味だったのかもしれない。
 とにかく何から何まで完璧だった。ジミーの化粧技術もいいのだろうが、やっぱり元がいいんだろうな、と結論はそこに落ち着く。普通に綺麗な奥さまだ。
 そんなのが他の男の横にいるのが気に入らない。仕事だから気合の入りようが違うのだろうが、またハゲが土方より背が高いから並ぶとよく映える。ああ、土方より小さい奴が隣合ったらさすがに土方のガタイの良さが目立つからあの人選か。なるほど。


「……って、納得するかァァア!」
「銀さんうるさいです」

 外で発散できなかった分、万事屋に帰ってから大発散だ。王様の耳はロバの耳だ。穴掘って叫んでやる。その美女、鬼の副長です。あと俺のカレシです。

「だってぱっつぁん、お似合いなんだもの。そりゃ俺が隣にいりゃもっとお似合いだよ。でも俺が立てないから次点でお似合いっつーか」
「見苦しい……立てないなら次点もへったくれもないでしょうが」
「仕方ないアル。ヤクザな商売のオンナに騙されたと思って諦めるアルよ銀ちゃん」
「いやいやいやいや! 騙されてない! あっちのが仮の姿だから」
「どうアルか。今ごろマヨラーの気が変わってしっぽり……」
「しっぽりって何。どこで覚えたそんな言葉。お前昼ドラ見すぎ」
「いつも一緒にいられない銀さんより、寝食を共にする仲間に心変わりとか」
「何言ってんの。おめーら少しは俺を安心させろよ! 『大丈夫、土方さんは銀さんひと筋です』くらい言えよ! 言ってくれよォォオ!」
「現実見たほうが傷は浅くて済みますよ」
「上司と部下の禁断の愛アル」
「うがぁぁあぁあああ!」

 ない。あり得ない。土方に限って。そんな浮気者じゃない。大丈夫、信じてる。

「だってそういうことなら会場だけでいいと思いませんか。なんで街中で夫婦のフリするんですか」
「知るかボケ」
「クセになっちゃったアルよ。仕事にかこつけてイチャイチャし放題ネ」
「そんなんじゃねーもん!」
「でも銀さん追い払われたんでしょう。理由も聞かされずに」
「変装バレたら困るから! そんだけ!」
「バレたら困るとこで変装しなきゃいいヨ」
「周りに敵がいたんだきっと、うんそうだ」
「そんなエラい人が街中ウロウロしますかね」
「うわああああああ! 黙れお前ら! ああああああああ!」

 他人から言われるまでもなく、俺だって何度も考えた。余所行きの格好をしたら普通は車使う。ましてやかぶき町なんぞ歩かない。いい身分の夫婦という設定らしいから、せめて散歩するなら江戸城周辺にしてほしい。なんだって下々の街なんか歩くのか。
 だいたい大刀二本差しなんて、某海賊王んとこの剣士じゃあるまいし不自然だ。見る奴が見れば土方の差料だとすぐわかるし、正体がバレやすい。ということは、あの周辺に敵はいなかったということだ。バレて困る相手はいなかった。だからこそ多少変装の綻びがあっても気にしなかったわけだ。
 それならなんだ。なぜこれ見よがしに二人で寄り添っているのだ。長年連れ添った夫婦かお前ら。ハゲって独身じゃなかったっけ。独身というか、フリー? ちょっと待て、本格的にヤバイんじゃねーの。
 土方からは何の音沙汰もない。言い訳くらい欲しい。何でもないと、ひと言そう言ってくれれば今まで通り大人しく待てるのに。

「銀さん、熊じゃないんだから……家ん中ウロウロしないでください」
「ほっとけよ!」
「大目に見るネ新八。フラれて傷心なんだから熊の真似くらい広い心で許してやるネ」
「フラれてない!」
「言われてないだけじゃなくて?」
「違ーーーう!」

 本当に違うのだろうか。新しい男に夢中で、前の男に断りを入れることも忘れてるんじゃないだろうか。いや、まさか。いやいやいや、俺フラれてないから。フラれたって別れないから。みっともなくしがみついてやるから。物分かりよく別れてやると思うなよ。
 え、フラれるの俺。マジでか。土方ともう、飲みに行ったり喧嘩したり、くっついたりじゃれ合ったりできないのか。そうなのか。
 嫌だ。それくらいなら今から土方を攫いに行こうか。誰も知らない土地で二人で暮らそう。そうしたら土方の目も覚めて、もう一度俺だけを見てくれるはず。土方が他の男を見ることは許さない。大切に、部屋に閉じ込める。土方の世界には俺しかいない。だから他に心を移しようもない。

 いっそ実行しようかと思い始めたころ、新八がテレビをつけて、あーあと言った。そっちに目をやると、新八は俺を見ていて、テレビを顎で指した。

『真選組が突入しました。中から何か聞こえます、行ってみます』

 リポーターが深刻な声を作って移動する。ホテルの宴会場らしき場所で、ドアの向こうでガタガタ、と激しく物がぶつかる音がした。そして。

『確保ォォォオ! 十番隊、突入ーーーッ』

 聞き慣れた声が威勢良く怒鳴っているのがドア越しにはっきり聞こえた。

『御用改めである! 手間ァ取らせんなッ神妙にお縄につきやがれェェェ!』

『このように、天人・閣僚間の懇親会に潜入したテロリストは、事前情報を察知した真選組によってたった今、逮捕……』


 俺はテレビを黙って消した。新八がやけにニヤニヤしているのは目に入ったが、文句を言う気力もなかった。
 これからだ。今晩、いや明日、や、明後日いっぱいは掛かるかな。この捕り物の後始末が終われば、普段通りなら土方は連絡をくれるはずだ。もし、それがなかったら――俺は、本当に土方を失ったことになる。
 新八が、神楽を連れて恒道館に行こうかと問いかけるのに、頷くしかできなかった。声が出ない。あのハゲに土方が本当に心を移したのなら、ここ数日で俺に最後通牒が届く。冷静にそれを受け止められる気がしない。
 だがそれほど待たされず、その日の夜に万事屋の電話は鳴った。早すぎてかえって心の準備ができていない。鳴り続ける電話をしばらく放置して、それでもしつこい鳴りように、仕方なく受話器を上げる。

『遅せーぞ、何やってんだアホ』

 土方だ。いつもの罵声に聞こえる。が、

「なに」
『終わったから。あー、化粧落とす奴あるか』
「あるけど」
『俺の着替えもあるよな。今からそっち行っていいか』
「……いいけど」
『なんだ。どうした』
「おめーこそ。なんかあんじゃねえの」
『仕事終わった。もう電話していいぞ』
「そう」
『おいどうした。なんかあったのか』
「いや、俺はなんもない」
『あ? なんだよ……都合悪いか』
「悪くねえよ。来れば?」

 土方は不安そうな声で、本当にいいのか、と念を押した。不安そうな、というのは俺の希望的観測かもしれない。待ってる、というと電話はすぐに切れた。それから三十分もしないうちに、我が家の玄関がカタ、と音を立てた。

 土方はかなり着崩れてはいたがいつぞや見た女装のままで、髪だけは元の短髪に戻っていた。それでも綺麗なことに変わりはなく、それどころか着崩れた襟元や裾が、かえって目に痛いほど艶っぽかった。

「化粧。落とさせろ。つーか落としてくれ」
「……屯所戻ればいいのに」
「仕事だと思うからこんなカッコできんだ。終わったら一刻も早く落としてえ」
「……」
「なんだよ。どうかしたのか」
「……ハゲは」
「今頃報告書書いてんだろ。ったくよぉ! 俺はいるだけだっつったのに! 結局取り押さえたの俺じゃねーか、こんなカッコで何させんだふざけんな」
「何もなかった?」
「あ? 犯人が刃物出すのが見えちまったからよ。しょうがねえから俺が取り押さえたけど、おかげでこんなナリで殴る蹴る投げるさせられるわ、男だってバレるわ、堪ったもんじゃねえ」
「……そっか。はは、」
「何だよ? さっきから変だぞお前」
「ははは、そっか。よかった。お疲れさん、土方。おかえり」

 土方を抱きしめた。いつもと違う、香の匂いがした。ここまで作り込んでんのか。そりゃあ俺も騙されるわけだ。

「どうした。銀時」
「でもよ。何でハゲと歩いてたの。あれ関係ねえだろ、護衛に」
「あー……あんときな」

 潜入捜査は専ら監察任せだった土方は、変装だけは綺麗に仕上げたものの、

「俺も原田も、立ち居振る舞いがなってねえって先方にダメ出しされてよ。二、三日その辺歩いて練習してこいって言われたんだ。それに」

 女装した土方が万が一刀を使うことになったとき、女物の衣装を着たまま刀を振るえるか、試す必要があった。

「そんで近藤さんに頼んで、恒道館借りたんだが聞いてねえのか」
「はあ!?」
「人に見られねえで稽古できるとこっつったら屯所の道場か、口の堅いとこで恒道館くらいしか思いつかなくてな。屯所は見世物になるからやめたんだが……メガネの小僧、何にも言ってねえのか」
「聞いてねえよ! それどころか」
「他言無用とは言ったけど。へえ、テメェにも言わなかったのか。口の堅さは確かだな」
「なん……! おま、それ」
「まあ、今回は万事屋に依頼したわけじゃねえから、当然っちゃ当然だが、ふーん。やるなあの小僧」

 口が堅いどころじゃないよあのダメガネ。知っててあんなこと言いやがったのかクソったれ。

「新八に言うなら俺にもひと言あってもよかっただろう」
「だから、メガネがお前にも言わねえとは思わなかったから……」
「お前な。ちょっと、こっちこい」


 ほっとしたのと、腹立たしいのと。
 ごちゃ混ぜになって処理し切れないいろんなものが、腹の中でぐつぐつと煮え繰り返る。

「せっかく綺麗なカッコしてんだからよ。今しかできないコトしようぜ」
「おい……疲れてんだけど」
「どうせなら気絶するまで疲れさせてやんよ」

 強めに手を引いて寝室に押し込め、布団に土方を転がす。何だかイケナイことしてるみたいで、ゾクゾクする。

「奥さん。舐めて」
「ちょ、待っ……」
「すげえ待ってた。もう会えねえかと思った」
「……」
「ハゲに持ってかれるくれえなら監禁して死ぬまで俺しか見ないようにしようかと思った」
「……あほ」

 土方はクスリ、と笑った。そして俺のベルトに手を掛ける。

「今回だけだからな」
「早くしろよ」
「紅、落とさねえと」
「いいから。そのまんまで」

 紅く色づいた唇に俺の物を押し込んだ。大人しく銜えて舌を使う土方が、いつにも増して綺麗だと思うのは捨てられないとわかった安心感からか。

「土方。綺麗だ」

 思わず言葉にすると、土方は上目遣いに俺を見て、そっと笑った。それから目を伏せ、一心に舌を使ってくれる。何だか胸がいっぱいになって苦しい。髪に指を差し込んで、指通りの感触を確かめた。
 前に見たときのようにきっちり一部の隙もない奥方の土方よりも、襟裾も乱し、紅が崩れて唇の輪郭がぼやけている今のほうが艶かしい。そしてこれが全部俺のものだと思うと胸が痛くなるほど嬉しくて、素直にそんなことの言えない俺は、土方の喉奥に陰茎を擦り付ける。こほっ、と噎せる様がまたいい。

「もう、どうにでもしろよ……あとで化粧落せよ」
「黙れ。化粧なんかほっといても落ちるよ」

 布団に倒して覆いかぶさると、土方は苦笑したが嫌がりはしなかった。背中に土方の腕が回ってくる。

「俺だって……会いたかった」

 土方の声がして、信じられなくて顔を見ようとしたのに土方はすごい力で俺にしがみついて顔を隠す。たったひと言で胸の疼きが晴れていくのを感じながら、俺は美しい若奥様の衣を割り開いて、その中の土方を存分に味わうことにした。



「で、旦那に着付けてもらったんですか、これ」
「……」
「旦那ったら女の人に縁のなさ丸出しですね。ヘッタクソな着付け」
「……」
「オカマバーの着付けですよこれ。よく恥ずかしげもなく歩いて帰ってきましたね副長、信じらんない」
「うるせぇぇァァア! これ畳んどけ! 畳み方わかんねーから着て帰ってくるしかなったんだよォォオ! ああああああ」




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あきママ様リクエスト
「要人警護の為女装して
原田あたりとペアを組む土方さん、
その姿を見て嫉妬し盛っちゃう銀さん
/土方さんの女装、すさまじく綺麗な姿」

着付けで変わる美人度!
山崎は上手いよきっと。
リクエストありがとうございました!




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