鬼兵隊が密輸に関わっていた可能性について、俺は最後のひと働きをしようとしたが、確証は得られなかった。武市の働きのせいであろう。流石は高杉の参謀というべきか。
 だからここから先は俺の推測だ。


 春雨を相手とする密取引というのが公式発表であったが、これは違うと断言できる。
 地上で取引される武器は地上戦用と考えてまず間違いない。春雨が地上戦用の武器を入手するなら、現地で取引をするはずである。地球を攻撃する利は春雨にはなく、故にこれはフェイクニュースだ。
 考え得る取引相手はまず攘夷一派のいずれかだが、これほどに真選組が警戒を深める中で事を構えるのは得策ではないし、市中に放っている仲間からも他派のきな臭い動きは報告されていない。
 となると、これは単に幕閣の懐を潤すためにされた裏取引ではないだろうか。
 接収された武器は発表によればなかなかに大量であった。幕閣がこの取引に噛んでいたとすれば、それが明るみに出れば幕府への批判は強まり、上手く世論を煽れば倒幕への契機ともなり得るだろう。
 高杉が目をつけたのは、そこではないだろうか。
 
 おそらく初手の辻斬り犯は、辻斬りのために送り込まれたのではなく、この取引を明るみに出すなんらかの工作を任務としてきた。江戸に潜入した男は潜伏先で、あの白夜叉が一般市民として暮らしていることを知った。そこで白夜叉を取り込むために、高杉の指令に反き辻斬りを繰り返した。
 全く反いた訳ではあるまい。斬られた者はほとんどが密輸団の一味であった。引き込みを担当していた者であろうか。あぶれ者ゆえ、金を掴ませれば鬼兵隊側に寝返っただろうことは想像に難くない。彼らを生かして手中に収め、世論を動かして世を不穏に導き、その上で戦端を開くのが高杉の計画ではなかっただろうか。
 その証言をするはずの者を残らず斬り捨てたのだから、河上万斉も送り込まれようというものだ。河上は仕事を終えた。つまり、男は粛清されたのだ。最後の被害者がその男であろう。


 というようなことを、俺は銀時に話してやった。
 銀時は単独で斬り込み、土方の暗殺を阻止した。中には辻斬りの便乗犯と、本当に一人を斬った便乗犯が混じっていたそうだが、なぜ手を貸したのか。土方一人でなんとかならなかったのかと問うてやったら『密輸団の半分くれえまだ残ってたんだよ』とかなんとか懸命に説明していた。口から先に生まれた男とはいえ、人間後ろ暗いことがあると口数が多くなるものだ。
 真選組が辻斬り犯については解決出来ないだろうと俺にはわかっていた。俺の調査でも武市が証拠をすべて消していったことしかわからなかったのだから当然だ。解決できる気でいるだろうがいい気味だ。後で泣くがいい。


 と思っていたのに、銀時が俺の推測を教えてやれと煩くせっついてきたのは密取引事件が一応の解決を見た直後だった。ちょうど幾松のところに厄介になっていたのを新八くんが教えたらしく、どこからか電話してきた。俺の調査結果を話してやると、それは煩く騒ぎ出した。そもそも貴様どこへ遁走しているのかと聞いたが漁船がどうのとこれまたはっきりしないことばかり繰り返して埒があかなかった。
 とにかく教えてやれとしつこいのでしばらく難儀した。話してやったのだからお前がやれと言うと、『字がバレてんだよ、よく考えたら』とかなんとか、これまた懸命に言い訳して鬱陶しいことこの上ない。言葉に詰まったり上の空だったり、珍しく下手な言い繕いようは笑わせてもらったし興味を持たないではなかったが、結局あまりのしつこさに俺が折れた。
 河上万斉を捕らえて真選組の鼻を明かすくらいしてやりたかったが、よく考えればそこまでしてやる義理もない。俺は調査の結果と推察を記し、屯所の門に捩じ込むに留めた。ついでに屯所を爆破してくれたかったが、今回は銀時に免じて勘弁してやった。

 あとは天に任せておけばよかろう。
 銀時に依頼された仕事は成し遂げた。俺の出る幕は終わった。奴には奴の思惑があるだろうが、案外にも小心なところがあるのは新たな発見だった。リーダーも新八くんも、生温い視線を銀時に送って落ち着かない様子だ。おそらくカスの沖田も、フルーツチ○ポ侍までもが歯痒い思いをしているのが見て取れる。さらには万事屋階下のスナックの女主人も、その従業員もだ。エリザベスも何か言いたげだ。彼らには気の毒だが俺はひと足先に抜けることにした。


 人の恋路の行方など、俺の知ったことではないのだ。

 


 



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