山崎から緊急連絡が入った一時間後。
 一番隊と四番隊が現場に急行し、容疑者は確保された。同時刻、二番隊と十番隊が大名屋敷に踏み込み、密輸品を確保すると同時に密輸の実行犯を捕らえた。
 家老の偽交代要員となった人物は生捕りになった。一番隊に急襲された集団は死者こそ出なかったが重傷者が数名。一番隊にも負傷者が出た。それなりの手練れが混じっていた、と沖田から口頭で報告があった。
 これで屋敷の警護は内密にする必要がなくなり、改めて大々的に隊士を配置して当分の間事情聴取をしつつ監視下に。それに伴い斉藤終を屯所に戻し、土方と共に容疑者の尋問に当たった。
 その討入から三日後。

「今の情報を全員で共有する。各隊の隊士にはこの会議の後隊長から伝えておけ」

 隊長以上の幹部を招集して現状確認。

 一つ。
 密輸団の首謀者とそれ以下二十八名を確保。

 一つ。
 密輸品の武器はすべて押収。
 大部分は密輸団の下にあり四番隊が回収。一部は大名屋敷内から回収。本来の保管場所は大名屋敷内であったが、発覚を予見し移動している最中だった。

「事前に山崎が探ったリストと照合した。大名屋敷と討入先の両方を合わせて、ほぼ全数。欠品については山崎、」

「副長の報告に補足します。局長の狙撃に使用された小銃と弾薬は、今回押収した武器の中のひとつです。リスト上に狙撃使用と同じ型番の小銃とその弾薬がありますが、リスト上の数と合いません。狙撃犯が今も持っていると思われます」
 
 一つ。
 首謀者は黙秘中。
 現在は勾留のまま放置。
 警察庁に入り込んだ密偵を松平が洗っており、その情報を待って改めて尋問を再開するため。自刃に要注意。二十四時体制で監視役を配置。
 見廻組と各奉行所へ人相書を回し、身元照会中。

「警察庁の中にいた向こうの密偵は、近藤さんと俺が奥方に呼ばれて料亭で密談したことを押さえてる」
「俺とトシはあの日急に呼び出されたが、奥方ととっつぁんは事前打ち合わせしてある。当然場所の調査も警察庁として事前にしたそうだ。当日の俺とトシ、とっつぁんの口頭でのやり取りからは場所の特定は不能。事前調査から情報を抜かれたとわかる。つまり、警察庁内に密偵がいたのは確定だ」

 一つ。
 配下の一部が供述を始めた。
 密輸元不明。武器の納め先不明。
 配下は首謀者の指示で当日受け渡しをしており、相手を知らされていない。
 大名屋敷から討入現場の古倉庫へ、武器を移動した理由は、警察庁内の密偵による情報に基づき、真選組への発覚を予見したため。

「大名屋敷が安全ではないと判断して、その日のうちに商品の退避を始めてる。決断は早かったが、寂れた倉庫に荷物を大量に搬入すりゃ人目につく。露見を恐れて少しずつ運んでいるうちに、俺たちに踏み込まれたという流れだ」


「密輸に関する供述は、今日のところは以上」
「次に、局長襲撃事件に関する状況報告に移る」


 一つ。
 狙撃犯と思われる人物は若い男。
 これは近藤と土方が人相を見ている。
 その男は今回の討入時にアジトに不在だった。

「終の聴取によると、そいつは単なる使いっ走りだ。構成員ではないから誰も居場所を把握してないしする気もない。居れば使う、居なければそれまでという程度の扱いだ」

『尾行や潜伏などの諜報活動は得意だが、剣がどうにも下手だったそうだZ。それから一味にはあまり信用されてなかったZ。胡散臭い奴だったと、複数の容疑者が証言してたZ』

 一つ。
 そもそも狙撃の計画はなかった。
 その男が勝手にやったとしか思えない。

「納品物の確認を担当した男が供述した。すべて納品予定前日、つまり近藤さんが襲撃された日に確認したそうだ。納品を延期して古倉庫に退避させたわけだが、銃を一丁パクるくれえこの男にとっちゃ訳はねえ。小細工は下手じゃなかったらしいからな」

 一つ。
 今もこの男は逃走中。
 見つけ次第直ちに拘束せよ。

「抵抗したら斬っていいんですよねィ」
「斬れ。構わねえ」
「拘束って言ったじゃねえですかィ」
「建前だ。言わせんな」

「順序が前後したが、次はそもそもの発端、辻斬り事件の報告だ。トシ、さっきも言っただろう。俺は無事なんだから襲撃犯の優先順位は下。密輸と辻斬りを優先してくれ」

 一つ。
 辻斬り事件に関して、拘束中の数人からいくつか供述が得られている。

 一つ。
 被害者が帯刀者でなかった犯行について。
 現在拘束中の中に犯人がいる可能性がある。

 一つ。
 密輸事件に関連して、中継地点となった屋敷の当主の証言があった。

「過日真選組が屋敷の警護に入った。その後のことだ」

 なぜ真選組を呼んだのかと首謀者に問われ、当主は『昨今の辻斬りを警戒して』と答えた。
 すると首謀者(当時は家老代理)は笑って、『あなたも、場合によっては屋敷の中でも斬られる覚悟をしたほうがよろしい』と返したという。

「当主は脅しと感じたそうだ。その前に出入りの商人が殺られてる。怪しい荷物は大量に運ばれてくるわ、身近な人間が殺されるわ、真選組に密告しようとしたら妨害されるわ、挙げ句の果てにその言葉だからな。脅迫と取るのは不自然ではない」
「脅迫と仮定して、脅しを掛け得るということはつまり、殺れるということだ。人斬りの出来る人物を、屋敷に引き入れられるということだ。このことから、密輸犯たちは辻斬り犯と無関係ではないと考えられる」
「ただし、現時点では推定だ。これについては詳細報告は後日。聴取が進んでから改めて報告する」


「総悟。実際に剣を交えたのはテメェらだが、あの中で誰か、あの斬り方が出来る奴はいたか」
「あー、それについちゃ一番隊は『今日の中にはいねえ』っつー見解でさァ。ったく、この前話してやったでしょうが」
「報告書が出てねえんだよ!? とりあえず今言え。もう一回!」

 沖田総悟の報告。
 一つ。
 比較的腕の立つ者は数名いた。

 一つ。
 しかし、一連の辻斬りを全部やり切れる技量はないと見る。
 特に初期の事件は出会い頭に一撃必殺。だがそれを何度も成功させるには、今回の容疑者たちでは力不足である。

「一回や二回なら成功するかもしれやせん。そこそこデキるのはいてウチの隊士も多少やられやした。だが万事屋の旦那クラスならともかく、アイツらじゃあ回数重ねるうちに失敗が出るはずだ」
「ところが事実はひとつも失敗がねえ。一撃で仕留めて、返り血浴びた姿を人に見られず、ウチの隊士が急行しても姿もねえ。完璧でさ」

 一つ。
 よって、あの中に犯人がいるという仮定が正しければ、犯人は複数であるならある程度説明がつく。一人一件なら一回ずつ成功させれば、複数回の事件を起こすのは可能ではある。

「とはいえあんまり上手い説明じゃねえ。ガイシャの傷は初期に見やしたが、やり口ァ同じでしたぜ。初期のはね」
「商人のガイシャは別の下手人でしょう。その直後のも解せねえ節はある。最後のは初期に近いやり口でさ」

「ホント早く報告書出せ。一番隊の負傷者はどいつにどうやられたのか、詳細を見せろ」
「だから口で報告したでしょって、何度も言わせんなよ使えねーなァ」
「お前がな! 切腹させっぞ!?」
「トシ、小言は個別にやんなさい」


「優先順位だが、近藤さんはああ言ったが俺は局長襲撃を優先する。ウチの大将狙う奴は相応の報いを受けてもらう。したがって俺は今夜から単独の見廻りを再開する」
「それと、マスコミ対応は全部俺に回せ。外で記者に捕まっても、局長は依然重体、詳しくは副長に聞けと言え。それ以外のことを喋ったら切腹。以上だ。山崎はこの後俺の部屋に来い」






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