「あ!」
遺品室に向かったのはいいものの鍵を持っていないことに今、遺品室に到着してからエレンは気づいた。
もしこれで鍵を持っているのがハンジならば良かったが生憎今鍵を持っているのはリヴァイ、そう思い出した時冷や汗が流れ落ちた。
それに色々とあり頭が混乱していて忘れていたが今は仕事中である。エレンはリヴァイに書類を届けに行きそのままハンジとアルミンと話し込んでいた為自分の班の先輩達の所には30分、いや1時間程は戻っていなかった。
流石に書類を届けるだけで1時間は長すぎる。普段は優しいペトラでも凄い剣幕で怒ってきそうだしオルオにはいつも以上に色々と言われるだろう。
多分これを世間的には厄日と呼ぶのだろう。はぁとまた溜息を溢す。仕方ない、今は先輩方の所に戻ろうと思った時だ。
「おい、お前ここで何をやってる」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえエレンは固まる、おそるおそるゆっくりと後ろを振り向くとそこには仁王立ちをしたリヴァイが立っていた。
探そうと思っていたがこんなタイミングで遭遇するとは思いもしなかった。口内に溜まった唾液をゴクリと音を鳴らしながら飲み込む。
「リヴァイ兵長!!遺品室の鍵を貸してもらえないだしょうか!!!!!」
気付いた時にはそう叫んでいた、ヤバイと思い慌てて手で口を押さえたがそれは手遅れだった。
「おいてめぇ俺の質問は無視か?ここで何やってるんだと聞いてるんだ!!」
「す、すいません兵長!遺品室に入りたくてここにいました」
「・・・遺品室に入りたい?今日はここの清掃の日ではないが」
遺品室の掃除は昨日行ったばかりだ、次の清掃日は明日となっている。
ここに用がないの何故来ているのかとリヴァイの目線で訴えられているのが分かる。
「・・・リヴァイ兵長には兄弟とかいますか・・・?」
「何を突然言い出すんだ・・・。お前も知っているだろう、ミカサ。俺の妹だ」
「はは、そうでしたね」
エレンと一緒に働いているミカサはリヴァイの妹だった。血こそは繋がっていないと聞いたが2週間仕事中に見ていたが2人はとても仲が良いように見えた。
「俺には年の離れた兄がいてるんです」
「兄?お前は双子の奴がいただろう」
「んーそうなんですけど、俺とアルミンは実は双子じゃないんです。本当は俺、アルミンの所に拾われた言ってしまえばただの養子なんです。」
「養子?」
「はい、詳しい事は俺も知らないんですけど15年前のシガンシナ陥落の日に本当の両親は死んでしまって運良く俺はアルミンの父さん、俺の父でもあるんですけど、その人に拾って貰えて双子として育てられてきたんです」
ぽつりぽつりと小さな声でエレンはリヴァイに語りかける。この話を他人にするのは初めてだった為話す事に少し抵抗があったがここまで話したのだから最後まで話してしまおうと思った。
「その父さんが言うには俺には15歳年の離れた実の兄が調査兵団にいるらしいのですが、5年前に死んじゃったらしいんです。それをさっき知りました」
実の両親を殺した巨人を駆逐してシガンシナを奪還する、もちろんその思いもあったが本当は兄を探すために調査兵団に入った事をエレンは包み隠さず全てリヴァイに告げた。
「だからせめて遺品が残っているようなら受け取りたいと思って」
そう言いながらエレンは胸ポケットからあの日父から受け取った実の母の遺品であり、兄の手がかりでもある黄色い花のネックレスを取り出した。これを受け取ってから3年間、エレンはずっと肌身離さずこれを持ち続けた、胸に付けていると訓練等で邪魔になる事も多いため胸ポケットに落とさぬようずっと守り続けていた。
それを見つめていると思わずまた涙が溢れそうになったがもう泣かないと決めたのだ、ぐっとそれをこらえる。
「そうか、ならそのお前の兄とやらの遺品をお前に渡すべきだな。だがその前に俺の話も少し聞いてもらおうか」
リヴァイはそう言うと腕を組みエレンを見つめながら話し始めた。
「俺は30年前シガンシナで生まれた、父は腕の良い医者で母は優しく美人で街でも評判だった。そんなまぁ幸せな家庭で育てられたのだが俺は疑問に思ったのだ、この壁の中で一生を終えていいのかと、俺達はこの壁の中でしか生きていけないがこれで本当にいいのか、そう思ったんだ。そして俺は調査兵団に入り巨人を全て駆逐してやると決めた、当時は兵役の義務などなかったから両親には勿論反対された。それでも意志が変わることはなかった。そしていつか巨人がいなくなれば一緒に外を旅しようと誓って両親にこれを贈ったんだ。・・・その両親は15年前に死んだがな」
そう全て話し終えるとリヴァイは小さな袋と1枚の紙を取り出した。その袋を開けてその中身を取り出すとそれをエレンに見せる。それを見た瞬間エレンは驚くしか出来なかった。
「どうして兵長がそれを!?」
リヴァイが持っていたのは確かにエレンの持っているものと同じネックレスだった。
どうしてそれをリヴァイが持っているのだ、エレンはただそれを見つめるしか出来なかった
「・・・お前の言っている15歳離れた兄が、恐らく俺だからだろう」
「へっ?」
今リヴァイは何と言った、エレンの兄だと言ったのか?
「嘘でしょ」
だって兄は死んだとハンジが言っていた。リヴァイ兵長が兄な訳ない、確かに境遇は似ているが兄弟な訳ない、絶対に。
だってありえないじゃないか、人類最強の兵士であり兵士長のリヴァイが兄さんの訳ない。
「どうして嘘だと思う、どこをどう見てもお前が持っているそれは俺が持っている物と同じだ、それに俺が18年前母親に贈った物と全く同じだ」
エレンの手の中にあるネックレスを指差しながらリヴァイは言う。まごうことなくその2つは同じものだと理解出来る。
「にい、さん・・・」
思わずそう口から言葉がこぼれ落ちた。
「本当に兄さん、なんですね」
「・・・信じがたいがな」
そう聞いた途端今までなんとか我慢していたが抑えきれなくなった瞳から大量の涙がこぼれ落ちる。
それは今までとは違う、悲しみからではなく喜びからによるものだ。そして勢いよくリヴァイに飛ぶように抱きついた。そして兄さん、にいさんと何度も呟く。
「エレン」
リヴァイにそう名前を呼ばれて我に返る、潔癖であるリヴァイに泣いてぐしょぐしょの顔で抱きついてただで済むわけがない。
殴り飛ばされる、そう決意した時だ、エレンの背に暖かい何かが触れる、それがリヴァイの腕で今エレンはリヴァイに抱きしめられていると分かると少しは収まっていたがまた涙をこぼした。
やっと会えた、俺のたった1人の兄さん・・・
―――――
暫くしてようやくエレンは泣き止んで落ち着きを取り戻した。
今のエレンの顔は泣きすぎたせいで目は赤く腫れてまともに見れたものじゃないだろう。
「ひどい顔だな、エレンよ」
「仕方ないじゃないですか、ずっと探してた兄さんに会えたんですから、しかもそれが兵長だなんて驚きですよ」
それもそうだろう、ずっと探していた人物に出会えたのだ。
それにリヴァイからしては死んだと思っていた弟は実は生きていて今や自分の部下として働いているなど誰が想像できただろうか。15年振りの再開、いや出会いと言うのだろうか、まさに運命といってもいいかもしれない。
「その花が何かお前は知っているか?」
「いえ、知らないです」
リヴァイはお互いの手の中にあるネックレスを見つめながらエレンに問いかける。
「クリンソウという花だ」
「クリンソウ」
「『幸福を重ねる』という意味がある。18年前にいつまでもこの幸せが続くようにと願って訓練兵になる日に両親に贈ったんだ」
結局その幸せは続かなかったがな、と呟いた。
「それは違います!」
「だって、これがなかったら兵長と、兄さんと出会うことは出来なかった!!」
エレンの言う通りだった、確かに両親は死、故郷も失ってしまったが今こうして2人は出会うことが出来た、それはこの花のおかげとも言えるだろう。
「そうだな、その通りだな」
そう言いながらふっ、とリヴァイは笑った。
初めて見るリヴァイの笑顔に思わずエレンは見惚れてしまうがそれにつられてエレン自身も笑みがこぼれる。
これからはずっと一緒にいられる、それがとても嬉しくてもう1度リヴァイに抱きつこうとしたその時だ。
「リヴァァァァイ!!!!!」
背後からそう叫ぶ声が聞こえてきて振り向くとそこには満面の笑みを浮かべたハンジと少し戸惑っているような顔をしたアルミンがいた。
突然の2人の登場にエレンとリヴァイは驚きが隠せないでいた。
「何の用だクソメガネ」
「ねぇどうだった!!!!!?生き別れた実の弟との再開は、感動した?泣いちゃった!!?」
「てめぇどういう事だ!!説明しろ!!!」
「やだよ〜!」
そう言うとハンジは走ってその場から逃げていく、そのスピードは凄まじい速さだった。
「待ちやがれクソメガネエエエエエエ!!!!!!!!!!!!」
逃がすまいとリヴァイもまたハンジを追いかけるように走り出した、その速さもすごいもので、流石は人類最強だ。
さてそんな人類最強は奇行種を捕まえる事は出来るのだろうか。そうアルミンは1人で考える。数秒後、奇行種は人類最強に捕まってしまうのだが。
そんな様子をエレンとアルミンは呆然と眺めていた。エレンは未だに状況が理解出来ず混乱していたがただ分かるのはハンジとアルミンがさっきの会話を見て聞いていたという事だ。
「ねぇエレン、今君は幸せ?」
アルミンはそんな隣に立っている兄、もといエレンにそう問いかける。
答えは勿論―――
HappyEnd