9 | ナノ
「うわ!こんな所で何やってるのエレン」

本部の廊下を歩いていて角を曲がった時、兄であるエレンがそこにいわゆる体育座りで座っていてアルミンは驚いた。
かろうじて手の中にある資料を落とさずに済んだが下手すれば落としていただろう、まぁ落としてもそれほど大変な資料ではないのだが。

「アルミン〜!!」

そう言いながらエレンが下を向いていた顔をあげた。
エレンの顔は目元が赤く腫れており一目で泣いていたことが分かった。それもかなり泣いたのかその顔は酷い有様だった。
 
「どうしたのエレン、ひどい顔してるよ」

そう言いながらアルミンはエレンの隣に座り目線を合わせる。
エレンはそう簡単に泣くような性格はしていない、こんなになるまで泣いたという事は余程のことがあったのだろうとアルミンは思った。

「僕に言える事だったら話してよ、相談に乗るよ」

そう言いながらエレンの膝に上に置いてある手に自分の手を重ね合わせた。
するとエレンは金色に輝く瞳からまた一筋の涙を流した。そんなエレンにアルミンはジャケットからハンカチを取り出しエレンに渡す。
ありがとう、とエレンは言うとそのハンカチを受け取り涙を拭き、鼻水をかんだ。うん、エレンそのハンカチもう返さないでいいよ。

「あのさ、アルミン」

エレンは涙を拭いて落ち着いたのか言葉をはっした。

「うん、何?」
「俺の兄さん、死んだんだって」
「えっ!?」

エレンのその発言はアルミンにとって驚くものだった。エレンの実の兄は先程のハンジとの話で知ったが兵長であるリヴァイだ。
もちろんリヴァイは死んでいないし今はエレンの直属の上司でもある。だがその事はエレンは知らない。
この様子だと恐らく別の人物を兄だと勘違い死んだと思い込んでいるのだろう。

「エレン、それはどこで知ったの?」

きっとエレンは誰かの話を聞いて勝手に1人で死んだと判断したのだろう。
そうでなければこんな勘違いをするはずがない。君の探している兄はもうすぐそこにいるんだ、あと少しで再開できるのだから、何としてもこの誤解を解いてエレンに兄が生きている事を知らせてあげなくてはいけない。

「さっき分隊長が言ってた。イェーガーっていう昔いた兵士が俺そっくりだったらしい、そしてその兵士は5年前に壁外調査で命を落とした。」

そう言うエレンの顔は何とも言えない悲しいものだった。
だがアルミンはエレンの言葉に引っかかったところがあった。

「ハンジ分隊長がそう言ってたの?」
「あぁ、さっきここでその話を聞いた」

おかしい、ハンジはエレンの兄がリヴァイである事を知っている。
それなのにどうして死んだなど嘘を言ったのだろうか、生き急ぎと言われているハンジなら逆に正直に君達兄弟だよ!とでも言いそうである。
だが今はこの現状を何とかするのが先である。エレンは泣きすぎてすごい顔になっているし、兄が死んだと信じきっている。
とにかく今はその誤解を解かなくてはいけない。

「僕は、エレンの兄さんは生きていると思うよ」
「…どうしてだよ」
「なんとなく、かな」
「なんだよそれ」
「ハンジ分隊長はこの話をなんとなくで君に話した、だからこれは100%エレンの兄さんの事は限らない。もし本当なら戦死者リストに記載されているはずだ。あと遺品だって残されている」

調査兵団では壁外調査で死亡した兵士の遺品は家族に返されることになっているが身寄りのない場合は各支部の倉庫に保存される。
もし5年前に死んだのがエレンの兄ならばエレンが持っているネックレスと同じ物が遺品として保管されているはずだ。
その倉庫は数日おきに兵士達で清掃を行う事になっている。現にエレンとアルミンも何度か掃除をしたことがあった。

「そうか、遺品か!!」
「えっ?」

エレンは大声でそう言いながら勢いよく立ち上がった。

「死んじまって、会えないなら遺品だけでも受け取ればいいんだよ!確かに兄さんは死んだ、もう会うことは出来ない、けど物はずっと残っている一緒にいる事ができる!」

そう言いながらエレンは拳を強く握り締めた。エレンがこの状態になると周りの事はすべて見えなくなり誰が何を言っても聞く耳を持たない。
そんなエレンを見てアルミンははぁ、とため息をこぼした。
今この状態のエレンにこれ以上説得を続けても全く意味はないだろう、いっその事「エレンの兄さんはリヴァイ兵長だよ!!」と叫びたくなるがこれは今一番言ってはいけない言葉だ。言ったとしても信じてもらえない確率の方が遥かに高い。

「ありがとうなアルミン、話聞いてもらえてスッキリしたわ」
「あ、うん。それは良かったよ」
「俺、兄さんの遺品貰ってくる。それでハンジ分隊長やリヴァイ兵長はきっと兄さんと同期なはずだからいっぱい話を聞いて…いつか兄さんみたいな兵士になる。」
「エレン…」

エレンの顔は目元はまだ腫れたままだが清々しいものに変わっていた。
もはや何を言っても通じないだろうとアルミンは諦めた。

「本当にありがとう」

そう満面の笑みでアルミンに言うとエレンは遺品倉庫へと歩き出した。

「…そこに行っても君の兄さんの遺品なんてないんだけどなぁ…」

ため息を吐きながらアルミンは1人でそう呟いた。エレンは兄が死んだと完全に思い込んでいるしそう思わせた元凶が上司であり唯一エレンとリヴァイの事を知っているハンジである。
アルミンはハンジの意図がわからなかった。死んだなんて嘘を言うぐらいならいっその事リヴァイが兄だと打ち明けて欲しかった。
そう思いながら資料を持ちながら立ち上がる、思わずさっきの出来事で仕事中だという事を忘れかけていた。

「これ直しに行ったらもう一度ハンジ分隊長に話に行くか…」

こればかりはアルミン1人で考えていても仕方がない。直接本人に聞きに行くのが1番だ。
ハンジはハンジできっとなにか考えているはずだ、多分。そう考えながら資料室に向かう。

「あれ、そういえば遺品室の鍵って・・・持ってるの、兵長!?」

遺品室の鍵は週変わりで上官が保持する事になっている。もちろん中に入るにはその時鍵を持っている者に許可を貰いその趣旨を言わないと入ることは出来ない。そして今週遺品室の鍵を管理しているのはリヴァイだった。
今遺品室の中にエレンが入るにはリヴァイの許可が必要でありその趣旨をリヴァイに話さなくてはいけない。

「完全にアウト!!!!!」

柄にもなくそう叫んでしまった。
思わず周りに誰もいないか見渡したが誰もいなくてほっとした。

「って安心してる場合じゃない!!これって一大事じゃないか!」

もはや資料を運んでいる場合じゃない、ハンジ所に向かいこの事を知らせなくてはならない。
こんな急展開になるだなんて一体誰が予想しただろうか。多くの情報を聞き、そして思わぬ出来事に遭遇した。あまりにも突然すぎて頭が追いつかない。
だが今アルミンが取るべき行動、それはハンジへの報告だ。
これは緊急事態だろうと思いアルミンはハンジがいるであろう研究室に向かった。

「ハンジ分隊長大変です!エレンと兵長が兄弟だって2人にバレます!!」
「えっ!?なんで!どうして!!?」

思わず勢いでノックもせずに研究室に入ってしまったがハンジはその事を気にしてはいなかったようだ。
そしてアルミンは先程の話を全て話した。

「あぁ〜やっぱりそうなったか」
「やっぱりって・・・エレンに嘘の話をしたのは意味があっての事なんですね!」
「まぁね、これはあくまで私の勝手な考えだったのだけどここまで上手くいくとは思わなかったよ」

そう言うとハンジは苦笑いをした。

「エレンの場合兄が死んだと言われれば落ち込むか、もしくは違う考えを自分で出すかそのどちらかに分かれると思ったんだよ。そこにアルミンが介入するとは思わなかったけど、確かにエレンはかなり落ち込んでいたし泣いていた、あの姿を見たときは本当に胸が痛んだよ・・・けど君の発想によってリヴァイの遺品を受け取るという違う選択肢も出てきたわけだ」
「それが分隊長の狙いですか」
「そう、エレンの場合兄の話を誰にもしたくなかった筈だ、けど死んだと思い遺品を受け取ろうとした時点でエレンは兄の事を完全に兵団に明かす事になる、つまり自然にリヴァイにも話す事になる!」

ハンジはそうドヤ顔で話を終えた。
ここまでの計画をわずか数時間で考え実行に移す行動の速さは流石だとアルミンは思った。

「それじゃあ私達も遺品室に行こうか」
「えっ!?どうしてですか?」

今2人は遺品室に用事などない。それに鍵を持っているのは兵長であって分隊長ではない、向かう意味が分からなかった。

「どうしてって、そんなの・・・楽しいからに決まってるでしょ!!!!」

「生き別れた実の兄弟が運命の再会を果たすんだよ!!!それもあのリヴァイの!そんなのおもしろいに決まってるだろ!!見るしかないじゃん!」

そう言うハンジの顔はまるで巨人の研究をしている時のように興奮していて鼻息も荒くなっていた。
そんなハンジをみてアルミンは苦笑いしか出来なかった。
だがその顔はすぐに真剣な表情に変わった。

「・・・けど、その前に昔話を1つ聞いてもらってもいいかな?」

そこに拒否権はなかった。
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