別に喧嘩をしていた訳じゃないし、試験が終わったからかもしれないけど。あれから、影山と苗字は元通りになっていた。
「お前、スペース・ウォーズって映画見た事あるか?」
「あー…、あるかもしれないけど忘れた。何で?」
「苗字が男なら見とけって、今度のオフに見せられる事になった。興味ねーし、バレーしててえのに…」
「ふーん」 その数日後。
「お前、スペース・ウォーズって映画見た事あるか!?」
「は?忘れたって、」
「何であんなおもしれーもん忘れんだよボケ!ビューンッてなってブォンブォンってやってドカーンだぞ!?」
「……」 という風な展開になるくらい、二人の仲は安定している。"友人"という良好な関係で、安定している。
そこで日向は、合宿の時の木兎と苗字のやりとりを思い出していた。
「(ヤキモチ、だったよな。あれ)」
遠慮する苗字に、あーんと肉をしてやろうとした木兎の間に割り込んだ影山。表情は至っていつも通りだったが、なんでもないならあんな風に割り込んだりしないだろう。そう考えると、珍しい所が見れて面白かった。
「(……苗字さんは、影山の事、どう思ってるんだろ?)」
影山は苗字の事が好きだというのは分かる。なんでもないように語ってくれたが、本当になんでもないならそれはそれで引く。フラれた事で、蓋をしただけだろう。
苗字の気持ちはグレーだった。影山をフッた事までの話は、本当に友人として慕っていたから、そういう話でこじれたくなかったと言っても説明は付く。だが苗字は影山と谷地の交友具合を気にした。それは友人を取られるという焦りからか、はてさてまた別のモノか。
「うーん……」
「……日向。お前、余計な事考えてないだろうな?」
「!す、すす菅原さん!」
どうして分かったんですか。鎌を掛けなくてもすぐ吐いた日向を見て、菅原は深く息を吐いた。
「何となく。……あのな、日向。前にも言ったけど、これは二人のデリケートな問題だ。気になる気持ちも分かるけど、俺達は部外者だよ」
「部外者……」
「そ、部外者。だから」
「だったら、友達の為、だったらいいんですよね!?」
「え?」
「おれ、苗字さんの友達です。影山の事は関係ありません!」
要は波を立ててやるなという事を言いたかった菅原だが、そう言われて少し考えてしまう。全くの他人だったら注意も出来るが、友人と言えるくらいまで日向と苗字の交流も進んでいる。
実際、このままでいいと思っている訳でもない菅原は、ガシガシと頭を掻いた。
「…………う、ん。じゃあまあ、いい、かもな」
「はい!!」
「って、ちょ、日向!」
でも、なんて迷いかけた菅原の言葉を無視して、日向は元気良くコートに戻っていった。影山を挑発して早速練習を再開している。本当に大丈夫だろうか、無責任な事を言ってしまっただろうか。
「どうしたの?菅原」
「…ああ、清水…。お前に任せた方が良かったかな。女の子同士」
「……何の話?」