隠し通していけるとは思っていなかった。いつかは、誰かにバレると思っていた。でも彼女は、仲良くしていた女友達にも身体の事は話してないと言う。だから、当たり前だけど、彼女の居ない所で知られてはいけない事だった。
「でねー……影山君?」
昼ごはんを食べ進めるのもそこそこに、昨晩のテレビの話をしていた苗字。その向かいでは、影山が卵焼きをくわえたまま固まっていた。
「!…わり、ボーッとしてた」
やけに塩っ辛いと思ったら、飲み込んでみると卵焼きの所為だった事が分かる。バテないようにと母親が気を効かせてくれたのだろうが、少しやり過ぎだった。
影山は、後悔していた。
「(言わねえと)」
日向と、他のチームメイトにまで知られてしまった事。何を言われてもしらを切るべきだった事。どれも今さらでご免、という事。
それを聞いた苗字は、どんな反応をするだろう。きっと哀しそうにすると思った影山は、なかなか言い出せなかった。その時、何も言えないだろう自分を見こしたからである。
「どうしたの?」
「……さっさと食わねーと、時間なくなるぞ。教えてくれるんだろ、勉強」
「あ!そうだった!!」
バレてしまってから数日が経ったが、日向達は何も言ってこない。たまに何か言いたそうにしているが、伝えてくる事はなかった。
「どこからだっけ?」
「端っこ折ってるページがある。そこから」
「どれどれ……」
教科書と睨めっこを始める苗字。ちょっとやってみるとシャーペンを取って垂れてくる髪を耳に掛ける仕草から、影山はとっさに目を逸らした。その理由は、赤く染まった頬が物語る。
「もう好きじゃないとか、ウソだろ」 ふと、日向の言葉がよみがえる。あの時は否定したけれど、ほんとは当たり前だと言ってやりたかった。でもそれを言ってしまったら色んな物が崩れそうで、怖かった。
どうにかなるくらいなら、いっそこのままーー
「けほ、…けほっ」
そこで、はっと我に返る。
「おい!!」
「ご免、唾が喉に……」
「詰まったのか!?」
「咽せただけ。大丈夫だから」
慌てて席を立とうとする影山を、苗字も慌てて制した。唾と言っても知識が足りない影山には、体調から来ているのではないかと思えてしまう。ここ分かったよと誘われるままテスト勉強に戻るが、改めて見る苗字の顔色は、悪く見えて仕方ない。
「で、ここを……影山君?」
「……」
「聞いてますかー、しておかないと後でたいへんですよー」
ーーどうにかなるくらいなら、いっそこのまま。