ダウトの真相


同人誌に収録されている「嘘でもいいから、」の攻めキャラ・加賀視点のアナザーストーリー。
本編のネタバレ的な要素を含みますのでご注意ください。





▽ダウトの真相 1



「それじゃあ、また明日」

 そう言って、加賀は改札をくぐることなく駅の目の前でUターンした。そこまで一緒にやってきた今井は、どこか呆気に取られたような顔をしているが、その横顔は「やっぱり」と言っているようにも見えた。ここまで来ておいて電車に乗らないのかとは聞いてこないあたり、加賀が電車通学ではなく徒歩通学だということを今井は知っていたのかもしれない。
 そうだといいなと、加賀は思う。たとえただの通学手段のことだったとしても、今井が自分のことを知っていてくれたのだとしたら、加賀はそれだけで嬉しかった。
 ほんのすこし足取りが軽くなるのを感じながら、加賀は、駅前通りから一本外れた横道に入る。

「おれもそっちなんだ」

 先ほど加賀は、今井にそう言った。今井と一緒に帰るための方便と思われるかもしれないが、そうじゃない。下心があってそう言ったというのも多少はあったが、本当に加賀は駅前に用事があったのだ。
 店頭に置かれた大きなひよこのマスコットを目印にして、加賀はドラッグストアのドアを開く。明日は今井となんの話をしよう。そんな期待と不安で加賀の脳内は埋め尽くされていく。今朝、母親から頼まれた買い物リストの内容さえ、今井とのことを考えると忘れてしまいそうだった。



▽ダウトの真相 2



「いらっしゃいませー」

 気だるげな店員の声を聞きながら、加賀は自動ドアを潜る。夕方のコンビニ店内は、加賀と同じく学校帰りらしい学生で溢れかえっていた。新作お菓子のコーナーで、あれにしよう、これが食べたいと話し合うセーラー服の女子高生たちを横目に、加賀はいつも通りずらりとペットボトルが並ぶ店内奥へと足を向け――ようとして、ぴたり、と入ってすぐのところで立ち止まった。

 視線の先にあるのはマガジンラック。そのなかで「毎週月曜発売!」のPOPがつけられた週刊少年誌だ。ついこの間今井とショッピングモールの本屋に行った際、今井が手に取っていたものである。
 確か今井は、毎週欠かさず購入していると言っていたのだったか。思い返しているうち、気がつけば加賀の足はマガジンラックのほうへと向かっていた。
 雑誌を一冊手に取り、パラパラとページをめくる。そういかないうちにカラー扉のページに行き当たった。オレンジと黒を基調としたユニフォームの少年たちが描かれているその絵に、加賀は見覚えがある。今井が好きだと言っていたバレーボール漫画だ。俺、これすげー好きなんだよね、と言っていた今井の無邪気な笑顔を思い出して、加賀は、じっとページを見つめた。加賀はこの漫画を読んだことがない。

 どんなものなのだろう、とふと思った。今井の好きな漫画はどんなものなのだろう。どんなキャラクターが出てきて、どんなストーリーがあって……今井は、これのどこが好きなのだろう? 考え出したら止まらなかった。
 加賀は、今井の好きなものが知りたかった。どんな些細なものでもいいから今井のことが知りたかった。だって加賀はまだ、今井の好きなものなんて焼きそばパンくらいしか知らない。

(……これを読んだら、ちょっとは今井に近づけるのかな……)

 そう考えた、数秒後。そのコンビニのレジには、狐のような笑みの、にやついた顔を隠せないままに漫画雑誌を買っている加賀の姿があった。

「――あ、飲み物買い忘れた」

 そのことに加賀が気がつくのは、帰宅して、あのバレーボール漫画を熟読し、試合最中の熱い展開と熱い仲間同士の絆に不覚にも涙したあとのことだった。



▽ダウトの真相 3



「加賀ってさ、笑い方独特だよな」

 不意に今井がそう言いだしたのは、無事に夏休みに突入したある日のことだった。
 その日は、夏休みの宿題がわからない、できないと泣きついてきた今井を、なら一緒にやろうかと加賀が自宅に誘っていたのである。いつものようにローテーブルを挟んで向かい合い、問題集とにらめっこしていたさなか、ふと思い出したように今井が言ったのがきっかけだった。

「独特?」
「そう。なんかたまに、にこっていうか、にんまりって感じの笑い方するじゃん」
「……するかな」
「するする」

 絶対してる、と今井は強気に言うが、そうは言われても自分の笑い方などふつうは意識しないものだ。加賀には心当たりがない。

「それ、おれどんなときにしてるワケ?」
「どんなとき、かあ。そうだなぁ……」

 今井は視線を宙に泳がせて「うーん」としばらく考え込んだのちに、あっと声を上げる。ちょいちょいと加賀に手招きしたかと思うと、テーブルから身を乗り出してぐっと顔を近づけてきた。そのまま唇を加賀の耳元に寄せて、ささやく。

「……加賀、好きだよ」

 ぶわわわわっと、一気に顔に血が集中する。どうしようもなく顔が緩んで仕方なかった。ついついカーブを描いてしまいそうになる唇を、口元に力を入れることできゅっと引き締める。

「それ」

 びしり、と今井の人差し指の先が向けられる。

「どれ?」

 思わず聞き返すと、それ、ともう一度今井は繰り返した。

「その笑い方。狐っぽい、にんまりって感じの笑い方。よく、俺が好きだって言ったりしたときにしてる」

 きちんと言葉を補って説明されて初めて、加賀は今井の言っている意味を理解した。つまり、今井が言っている「狐のような笑い方」というのは。



「……ただの照れ隠し、なんだケド」



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