もちめえが柏餅食べていちゃこくだけのお話
(スパコミの無配でした)













柏餅@kasiwa-mochimochi
じっかからかしわもちとどいた

ヤギ@meemee-yagisan
は?wwwwwwwwwww

ヤギ@meemee-yagisan
@kasiwa-mochimochiなにそれまじでwwwwwwwww

ヤギ@meemee-yagisan
柏餅のところに実家の柏餅家から柏餅届いたとか何wwwwwwwやばい文章だけで超笑えるwwwwwww

柏餅@kasiwa-mochimochi
まじだ

柏餅@kasiwa-mochimochi
@meemee-yagisan まじだ いっぱいあるぞ(`・ω・´)キリッ

ヤギ@meemee-yagisan
@kasiwa-mochimochi なにそれかわいい

柏餅@kasiwa-mochimochi
@meemee-yagisan 柏餅がいっぱいあるとかわいいのか

柏餅@kasiwa-mochimochi
あ いや かおか

ヤギ@meemee-yagisan
@kasiwa-mochimochi 顔文字もだけど、お前自身もかわいい





「――で、まじで実家から柏餅届いたの?」
『ああ。なんでもこどもの日だかららしい』
「ああ……こどもの日……」

 なるほど、と頷けば、もう高校生にもなって「こどもの日」というのが複雑なのか、受話器の向こうで理一がなんとも言い難い呻き声をあげた。

「まあ、いいじゃん。親御さん的にはアレなんだろ、大事な息子だから息災を願ってんだろ」
『ただ単に家系が途絶えないようにって思ってるだけかもしれないけどな』
「またまたぁ、そんなこと言っちゃってさぁ、理一はもー!」

 口ではそんなことを言いながらも、実際はちょっと喜んでるってことは知ってるんだぞ、ゴラ。お前の声聞いてたらそれくらいすぐにわかるんだぞ。なめんなよ。

「てかまじでウケるんだけど。柏餅のところに柏餅とか」
『ハル、さっきから笑いすぎだ』
「いやだってさ、お前の親御さんツイッター見てんじゃねえのかなって思うくらいなんかピンポイントっつうか、なんつうかさ」

 これが笑わずに居られるかとまたこみ上げてきた笑いを噛み殺すのに必死になる。
 が、俺が理一のことならお見通しなように、理一も俺のことなら電話越しでもお見通しらしい。俺が笑っているのが気配から伝わったのか、笑ってんじゃねえよ、と拗ねた声がかえってきた。

『せっかく、柏餅一緒に食べるかってハルのこと誘おうと思ってたのに。そんな笑うならうちの親衛隊員の誰かでも誘って楽しく柏餅パーティーしちまうぞ』
「恋人の俺の前で堂々と浮気宣言ですかー? やだー!」

 ぷんすか! という擬態語がしっくりくる様子の理一に、俺の表情筋はとどまることを知らずどんどんにやけていく。にやにやにやにや、とだらしない表情になっていく。
 いやだって、かわいいんだもん。柏餅パーティーって言葉も、しちまうぞ、って言い方も。
 俺の恋人がこんなに可愛いわけがある。一人ウンウン頷いていると、じれったそうに理一が言った。

『で、どっちなんだ。俺と一緒に柏餅食べるのか、食べないのか』
「食べる」

 はっきりしろと迫る可愛い恋人には、即答するに決まっていました。



 電話を切ってから数分後、忍不在の俺一人の部屋の中に聞こえてきたのは、「ガチャガチャガチャ!」とひどく慌てたようにドアを開ける音だった。いつもそーっと入ってきて、時々俺が気づかないと「わっ!」と後ろから驚かせてくるような理一が、こんな風に騒々しいのは珍しい。
 いったいなにごとかと玄関の方へ様子を見に行けば、なぜかそこには、ドアにへばりつくようにしてのぞき穴から外の様子を伺っている理一の姿があった。

「理一? どうかしたか?」

 ビクッと大げさに肩をはねさせて、理一はこちらを振り返った。

「なんだ、ハルか……驚かせるな」
「え、なんかごめん?」
「いや、大丈夫だ」
「てかなんかあったの?」
「ああ……いま鍵を出そうとしていたらな、曲がり角のほうから誰かが来てな」

 姿は見られていないと思うが、と言いつつも、理一は不安げにもう一度のぞき穴の向こうへ目をこらす。まじかーと思いながら、俺はそんな理一に近寄って肩に手を置いた。ぐっと理一の体を引かせて場所を入れ替わり、ドアの背後に隠れる位置に立たせる。
 そして、鍵のかかっていなかったドアを薄く開け、隙間から外の様子を伺った。廊下には誰もいない。もう少し顔を出して遠くまで確認するも、各部屋から漏れた話し声こそ聞こえても、足音ひとつしなかった。

「どうだ、ハル」
「誰もいねぇや。大丈夫なんじゃね?」
「そうか……」

 ほっと安堵の息を吐く理一に笑みを返してドアを閉める。しっかりと鍵もかけておいた。

「こっち来いよ、理一。お茶淹れるからさ」



 俺がお湯を沸かして日本茶を入れているあいだに、理一が皿を出して持参した柏餅を出してくれた。俺でも名前を知ってるような超高級老舗和菓子店のそれは、白と薄桃色のころんとした餅がそれぞれ綺麗な緑色の柏の葉に包まれていて、一種の芸術品のようだった。
 餡は御膳餡と白味噌と二種類あるらしい。どっちも捨てがたいなと散々迷った末に、結局俺は王道の御膳餡から食べることにした。

 かぷりっとかぶりつけば、やわらかい餅がむにょーんと伸びた。口の中に広がる餡子は甘すぎず、やさしい。うまい。なんというか、すごくお上品な味がする。

「うまいな……」
「だな……」

 ふたりでもぐもぐごっくんして、お茶をすする。GW半ばということもあって、すごく穏やかな空気が流れた。
 そんななか、「しかしなぁ」と理一が憂鬱そうに呟いたのは、二種類の柏餅をそれぞれぺろりとたいらげた後のことだった。

「ただ一緒に柏餅食べるだけだってのに、なんでこんなにコソコソしなきゃなんねえんだろうな、俺たち」

 急に何を言うかと思いきや、そんなことか。まあ、たしかに言われてみればそうだけど。

「俺はたまに、お前と出会ったのがもっと別のところだったらなって思うぞ」
「別のところ」
「こんなとこじゃない普通の学校で、俺も会長なんて身分じゃなくて、ハルとも同じ学年で、ただのクラスメイトで、教室と堂々と話すことができて――」

 そんな「もしも」の世界を、おとぎ話のお姫様に憧れるちいさな少女のような口調で、理一は語る。もしもこうだったら、もしもいまのようじゃなければ。そう思う気持ちはわからなくもない、けど。

「でも俺は、理一の楽しいこととか辛いこととか、そういう全部を知ってるのが俺だけだっていうのも嬉しいけどな」

 だってただ一緒に柏餅を食べたっていうだけのことさえ、ふたりだけの大事な秘密で、大切な思い出になるんだぞ。

「そう考えたら、すこしだけ、秘密も悪くないなって思えないか?」

 な? とにやりと口角をあげてみせれば、理一は一瞬面食らったような顔になったのち、しょうがないなといわんばかりにふわりと表情を崩して見せた。

「お前は、本当に……」
「ん? なんだよ」
「いや、単に、やっぱり好きだなぁと思っただけだ」

 なんのてらいもないストレートなその言葉に、俺もにっかりと笑顔を返した。

「――俺も!」

 俺も、やっぱり理一が好きだなぁと。
 お互いの想いを再確認する、そんな柏餅記念日だった。





(おしまい)
2015.05.05



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