・重陽にリフォローされて喜ぶ宮木さん
・02.初登校なうの13のあとくらい













「〜〜〜よっ、しゃあああああ!!!!」

 突如届いたフォロー通知のメール。それを開き内容を確認するなり、宮木は思わず雄たけびを上げた。
 すると、すぐ傍のデスクで一緒に残業をしていた男がびくりと肩を跳ねさせる。あ、しまった。思うも、もう遅い。

「え、は? な、なんだ。どうした宮木、なんかあったのか」
「――失礼しました。なんでもありません」

 重陽様からフォローされたので喜んでいるんです――なんて、その父親に言えるわけがないだろう。
 思いながら、宮木はすぐさま緩む口元を取り繕って仕事モードの口調で返した。けれど、主人である八木は宮木の態度になにか思うものがあるらしい。へえ? と意味深に聞き返すと、言った。

「って言うワリには嬉しそうなカオしてんな? 侑介」
「……今は仕事中ですよ、八木社長」
「いーだろぉ? どうせ二人っきりなんだから」

 「なっ!」なんて八木は笑って言うが、正直全く可愛くもない。宮木は内心で毒を吐く。重陽様は確実に母親似だな、とも同時に思った。

「まあ、言われなくても大体わかるけどな。お前がそんな風に感情丸出しにして喜ぶなんて、大体うちのヒキコモリンがらみだろ?」
「――だったら、はじめっから聞くなっつうの」

 口調を取り繕うのも馬鹿らしくなって、宮木は荒っぽく言う。
 どうせ、わざわざ本人の口から言わせて、その反応を楽しみたいだけなんだろう。その魂胆が見え見えすぎて、本当に、どうしてこんな男の下で働いてるんだか、と宮木は頭を抱えた。

「で、なんだ? どうした? 重陽に告られでもしたか?」
「んなわけあるか」
「じゃあ、アイツからメールでも来たか?」
「……ちげぇ」

 そうだったらいいなとは思うが、そうではない。そんな贅沢なことではなかった。

「じゃあ、なんなんだよ?!」

 否定するばかりで一向に口を割ろうとしない宮木に、八木はしびれを切らしたようだった。手にしていたペンをだんとデスクに叩きつけ、宮木のことを睨み付けてくる。

「さっさと吐け。じゃねーと気になって仕事もできねぇだろうが」
「んなモン気にすんなよ。こっちは早く帰りてぇんだから、さっさと書類あげて――」
「答えねぇと、ハルにお前のストーカーっぷりについてバラすぞ」
「――おい、八木ィ。それはナシだろうが」

 ちくしょう、自分は重陽様の父親だからって人の足元見やがって。ひくっと右頬が引きつるのを感じながら、究極の選択を迫られた宮木は、沈黙ののちに深く溜息をついた。諦めの溜息である。

「……ツイッター、あんだろ」
「おお、重陽もやってんな」
「それでリフォローしてもらえたんだよ。重陽様に」

 言えばいいんだろ言えば! と半ばヤケクソになりながら告げる宮木。それに八木は、一瞬きょとんとしたのち「ハア?!」と目を見開いた。

「はっ、おまっ、そんだけで!?」
「そんだけだよ」
「あんなに喜んでたのかよ?! ガッツポーズまで決めて!?」
「うぜぇ」

 悪いかよ、と盛大に顔をしかめてみせれば、八木は「悪くはねぇけど、」と言葉を濁した。

「それって、重陽はお前だって知らねぇんだろ?」
「まあ、そうだろうな」
「…………それでリフォローされた、って。そんなに喜ぶことか?」

 心底不憫なものを見るような目を向けてきた八木に、宮木は、ついにブチリとこめかみ辺りの血管が切れる音を聞いた。

「うっせぇほっとけ!!! 人の幸せに水差すんじゃねぇッ!!!!!」

 だから言いたくなかったんだと、息を荒げながら、宮木は拗ねたように呟いた。





(おしまい)
20130219



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