いったん段ボールを部屋に置いて、また寮監室まで戻って、言いそびれたお礼を三和さんに言って。無駄に一階と八階を行き来したせいで、ようやく宮木さんからの荷物に手を掛けた時には俺はぐったりしていた。
 いや、もちろんエレベーター使ったけどさ。なんというか、こう、感覚的に。

 段ボールとクッキーの箱と、お礼を言うなり「は? お前そのためにわざわざ戻ってきたのかよ?」と三和さんに言われてしまった居たたまれなさと。
 なんだかたくさんのものと一緒に自室に引きこもる。クッキーの箱は一旦置いておいて、俺は段ボールを前にデスクの上のペン立てからカッターを手に取った。

「これで全然関係ない荷物だったら、俺、超はっず……」

 あらかじめ羞恥に襲われることの予防線も貼ったうえで、宮木さんからの荷物の封を開ける。ガムテープを切り終え、ゆっくりと二層構造のフタを開き、そうして箱の中から現れたのは――

「……おお?」

――段ボールよりも一回りほど小さい箱、だった。

「ボックス・インザ・ボックスってか……」

 数秒前の無駄に緊張していた自分がばからしくなって笑みを零す。わけの解らないことを呟きながら、俺は包装紙に包まれたその箱を取り上げた。三和さんのクッキーの箱とは対照的に、手のひらサイズの大きさの割に随分重たい。

「何だろ」

 セロハンテープをそっと剥がして包みを開くと、立方体の黒い箱の上に何やら高級そうな赤い封筒。まずは用件を確認しようと、俺は自分に宛てられたにしては随分と仰々しい手紙を開く。
 そして俺は、簡素に一行だけで綴られたその内容に、にやけそうになる唇をぐっと噛みしめた。



『お誕生日おめでとうございます。 宮木』



 恐らくは万年筆だろう青いインクで書かれたその文字は、宅急便の伝票と同じくひどく綺麗な形をつくっている。
 たった一行、されど一行。何度も視線でなぞっては、その度にじわじわとこみ上げると喜びに唇を噛む力を強める。薄々感づいてはいたものの、まさか本当に宮木さんが俺の誕生日を祝ってくれるとは思っていなかったのだ。
 ……ああ、どうしよう。嬉しすぎる。

「あー! あー、うん! こっちはなんだろうな〜」

 照れ隠しがてら無駄に大きな声で独り言を発す。喜びを隠しきれずそわそわする指先で黒の立方体の中身を確認した俺は、次の瞬間、再び撃沈した。

「えええー……」

 ベルベット調とでもいうのだろうか。光沢のある布のクッション材の中に鎮座していたのは、見るからに高級そうな腕時計だった。さっき、封筒のときも思ったけれど、宮木さんあげる相手間違ってんじゃないかな、なんてちょっぴり不安になる。
 でも、そうっと手に取ってみれば文字盤の裏には「Shigeharu.Y」と丁寧にも筆記体で刻印がしてあった。本当に俺に贈ってくれたものなのだと、嬉しい半分申し訳なくなる。

「でも俺、こんな良いもん貰ってもつけれないんだけど」

 ヘタに日常生活でつけようものなら壊してしまいそうだ。せっかく貰ったものなのに、そんな風にはしたくない。
 父親の経営する会社関連のパーティーとか、なにかそういう特別なときにだけつけよう。そう決めると、俺は「とりあえず」と携帯を取り出した。

「今度、なんかお礼しなきゃなー……」

 ひとまずは、父親宛てに宮木さんへのお礼メールを作成することにする。宮木さんの連絡先、聞いときゃ良かったな。





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