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――ピンポンパンポーン

『○○学園よりお越しの、平岡昭輔(ひらおかしょうすけ)さまー。平岡昭輔さまー。お連れさまがお待ちです。至急、一階迷子センターまでお越し下さい』

 突如デパート内に響き渡った迷子呼び出しのアナウンス。そして呼ばれた書記の名前に、思いっきり噴き出す会長。何もないところでずっこける副会長。その場で硬直する会計。信じられないって顔であたりを見渡す庶務に、「あれ、昭輔は? いねーの?」と今更書記の不在に気付く転校生くん。

 それを俺は、店内の防犯カメラと迷子センター内のディスプレイを通して眺めてた。
 そして待つこと数分。ようやく迷子センターにやってきた書記は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「あら、お連れさんですか?」
「はい。見つかりました」
「よかったですね〜。もうはぐれないようにしてくださいね」
「はい〜」

 待ってる間にちょっとおしゃべりしてたらすっかり仲良くなった迷子センターのお姉さんに手を振って、俺は疲弊しきった様子の書記に近付いてく。

「書記先輩」
「……森?」
「はい、森です。転校生くんの同室者の」

 森秋晴(しゅうせい)です、思いっきり冬生まれですけども。
 ていうか、この人俺の名前覚えてくれてたのか。一応最初に寮の部屋にやってきたときに自己紹介した記憶はあるけど、一回も呼ばれたことないから覚えられてないものだとばかり。

「大丈夫ですか? 先輩、どこにいたんですか」
「……気になるものが、」

 あったんだ、と消え入りそうな声で書記は言う。その体はプルプル震えていた。
 つまり、ちょーっと気になるものがあってちょーっと夢中になってたら、気付いたらだーれもいなくなってたと。そういうことらしい。そういえば、書記は片手に小さな紙袋をさげてた。きっとそれを買ったんだろう。

 たぶん、この人はまっとうに転校生くんへの誕生日プレゼントを探してたんだろう。あの生徒会集団のなかじゃ、書記さんが一番まともな人っぽいし。
 俺がお茶だしたらお礼言ってくれるし、帰るときはゴミとか片付けてってくれるし。まあ、そもそも部屋に押し掛けないでくれると一番嬉しいんだけど。

「探したけど、どこに行ったのか解らなくなってしまって……見つからなくて……」
「先輩、携帯持ってないんですか?」

 生徒会の仲間なら連絡先交換してるもんじゃねえの? と思って聞いてみれば、書記は一瞬きょとんとしてから自分の体をあちこちぺしぺしと叩いて、首を傾げた。

「寮に忘れてきてしまったようだ」

 携帯電話の意味ねぇ! 携帯しろよ! と内心で全力で突っ込む俺の前で、書記はしょんぼりとしていた。なんとなく、垂れた犬耳としっぽが見えるような気がする。俺より10センチ以上デカいのになんかかわいく見えるのはなんでだろう。

(迷子になったゴールデンレトリバーっぽいな)

 思わず手を伸ばして頭を撫でそうになって、ちょっと固そうな黒髪に触れる直前に、慌てて引っ込めた。

(いやいやいや、ないだろ)

 こんなでっかい人相手に犬っぽいとか、かわいいとか、ないだろ。ぶんぶんと頭を振る。

「……お前が」
「? はい?」

 しっかりしろ、俺。自分に言い聞かせてたところで急に書記が何かをつぶやく。なんですか? と聞き返しながら顔を上げると、書記のまっすぐな目と視線が交わった。

「お前がしてくれたのか」
「……さっきのアナウンスですか?」
「ああ」
「はい、そうです」

 まあ、正確に言うと迷子センターのお姉さんが、だけど。

「なら……」

 そこで、書記は一瞬ためらったように口を閉ざした。それからゆっくり唇を開いて、続ける。

「お前は、探してくれたのか?」

 俺を、という意味なんだろう。たぶん。でもなんでそんなことを聞くのかが解らなくて、俺はちょっと戸惑った。ええまあ、ととりあえずで曖昧な返事をする。と、次の瞬間。

「……ありがとう」

 まるで花がほころぶように、書記は笑顔を浮かべた。

(――ああ、もう)

 何だこの人。やっぱりかわいいじゃねぇか、クソ! 大声で叫びたくなるのをこらえて、ぐっと拳を握り込む。
 ゲイかバイばっかのあの学園に、中学からもう五年近く在籍してきた。それでも、男を好きになったり男を可愛いと思ったりしたことなんてなかったってのに。

(いや、でも。これは)

 そんなんじゃない。ただの勘違いだ。きっとそうだ、そうに違いない。何度も心のなかで繰り返す。

「先輩、戻りましょう。会長さんたち、待ってますよ」

 早く書記と二人っきりというこの状況から抜け出したほうがいいだろう。そう思って、何も持ってないほうの書記の腕を引っ張る。と、書記を追い抜かして数歩行ったところで「待ってくれ」と引き止められた。

「森」
「はい?」
「ちょっと、手を出してくれないか」
「……はい?」

 手? なんで?
 疑問に思いながらもおとなしく両手を差し出す。

「こうですか?」

 書記に問いかけるのとほぼ同時に、出した手の上にそっと、何かが置かれた。

「え、」

 これって、俺の見間違えとか記憶違いとかじゃなければ、さっき書記が持ってた紙袋だと思うんだけど……?

「なんですか、これ?」
「プレゼントだ」
「え?」

 転校生くんへの、だよな? なんで俺に渡してんの?

「俺が代わりに渡せ、ってことですか?」
「……代わりに?」
「ですから、転校生くんへ。俺が、代わりに」
「なんのことだ?」
「え、だから」

 転校生くんへの誕生日プレゼントですよね、とすごく今更なことを口にする俺。それに対し、なんとも言えない珍妙な表情を浮かべる書記。
 ……あれ。

「違いました?」
「違う」
「そうですか。失礼しました」

 え、じゃあ、これは一体?

「森」
「はい?」
「お前へ、だ」
「…………へっ?」

 俺の聞き間違いかと焦るけど、書記がいやに真剣な顔をしてたからそういうわけではないと知る。いやいや、どういうことだよ。意味が分からなすぎてこっちまで真顔になった。

「お前も今日、誕生日なんだろう? 昨日、そう言っていた」

 付け足された言葉に、ようやく「ああ」と思い当たる。どうやら昨日のアレが書記にはばっちり聞こえてしまったらしい。てっきり聞こえてないかとばかり思ってた。

 ちゃんと俺のことを気にかけてくれたんだって、そう思ったらよくわかんないけど嬉しくてたまらなくなる。転校生が来てから、クラスメイトにも避けられるし他の生徒会の人たちにも疎まれるしで寂しかったから。だから、ついつい飛び上がっちゃいそうなくらい喜んでたりすんのかな、俺。
 そう考えたら超単純だ。でも、やっぱ嬉しいもんは嬉しいんだからしょうがない。

「森には、いつも世話になっているからな」

 お茶を淹れてもらったり、と付け足された言葉にぐっと眉間に力を入れる。今にもだらしなく緩んじゃいそうな顔をひきしめるために。

「あ、りがとう……ござい、マス」

 途切れ途切れにお礼を言えば、書記さんは「ああ」と小さく頷いて、そっと微笑みを返してくれた。その優しい笑顔がまた、どうしようもなくかわいく見えてしまう。相手は学園の抱かれたいランキング三位なのに。俺なんかと違ってすごい美形のイケメンなのに。

――ああ、なんてこった。

 うっかりというかなんていうか、惚れそう、だ。





迷子のお呼び出しです?
(ついでにうっかり恋の芽生えです?)





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