優希さまリクエスト;柏餅×ヤギ


優希さまにリクエスト頂きました「重陽と理一がTwitterで会話していて、二人にとっては普通なのに周りからみたらいちゃついてる様に見える場面」です。
これ、いちゃついてる様に見えるっていうかふつうにいちゃついてるんじゃないかというのはそっと……そっとスルーの方向でお願い致します……;;
リクエストどうもありがとうございました!













 夕飯のあと、寮の外へ散歩に出たのは、本当に「なんとなく」だった。とくにやることもないし、こういう時によく一緒にゲームをする忍はサッカー部のミーティングとやらでどこかに行ってしまったしで、時間を持て余してたっていうのもある。
 とにかく俺は、なんとなくで散歩に出て、思いの外つめたかった外の空気に、上着を持ってこなかったことを後悔して、そして、遠くの校舎に明かりがついているのを見つけたのだ。

(たしか、あそこって……)

 生徒会室じゃなかったっけ?

 ひいふうみい、と指さしながら回数を数えていく。そして階数と位置が正しいことが判明して、俺は自分の推測が正しかったことを知った。
 まさか、理一はまだあそこで仕事をしているのだろうか。もうすぐ九時になろうとしているのに、薄暗い夜の校舎で、ひとりで?
 無意識のうちに携帯を取り出す。折りたたみ式のそれを開いて、電話帳から理一の番号を呼び出したところで、俺ははたと我に返った。

(電話じゃ、邪魔になるかな)

 集中して仕事を片付けていたら、電話の呼び出し音でその集中を途切れさせてしまうことになるかもしれない。一人で一生懸命戦っている理一の足を引っ張るようなことはしたくなかった。
 ふるふると緩く首を振って、電話帳を閉じる。代わりに、ウェブページを立ち上げてブックマークからツイッターの画面を開いた。気付かなかったら、まあ、そのときはそれでいいか。あきらめ半分に、夜空に向かってリプライを飛ばす。



ヤギ@meemee-yagisan
 @kasiwa-mochimochi 夕飯食ったか?



 あきらめ半分、とか言いながらも、やっぱり少しだけ期待してしまう自分が居て。俺は、寒空の下でひゅうひゅう吹き付ける風に身をさらしながら、そのまましばらく待った。何度も何度も携帯の画面を更新しながら。それはもう、ツイッターのサーバーに鬱陶しがられてもおかしくないくらい、何度も。
 TLのトップに新しいリプライが現れたのは、時計の長針がてっぺんをさした頃のことだった。



柏餅@kasiwa-mochimochi
 @meemee-yagisan まだだ

ヤギ@meemee-yagisan
 @kasiwa-mochimochi 食えよ、もう九時だぞ

柏餅@kasiwa-mochimochi
 @meemee-yagisan いまからたべる

ヤギ@meemee-yagisan
 @kasiwa-mochimochi ついでにしばらく休憩しとけ。どうせぶっ通しで仕事してんだろ



 理一のことだから、放課後からずっとあそこに缶詰状態なのだろうなと思い送れば、やや間をあけてから返事がきた。



柏餅@kasiwa-mochimochi
 @meemee-yagisan どうしてわかった



 どこか気まずそうで、いたずらが見つかった子どもみたいなその文面に、思わず吹き出しそうになる。笑いを押し殺しながら俺は携帯を構えた。ぴろりーん、と間抜けな電子音が響く。真っ暗闇のなかにぼんやりと浮かび上がる、一つだけ電気の着いた校舎が長方形の画面の中に切り取られる。

「もし、一回でもトイレとか休憩とか外でたら、廊下の電気もついてるハズだろーが」

 それくらいすぐにわかるに決まってんだろ、と写真付きでツイートする。



ヤギ@meemee-yagisan
 @kasiwa-mochimochi お前のことで俺にわからないことがあるわけないだろ( ・´ー・`)ドヤァ (画像へのリンク)

柏餅@kasiwa-mochimochi
 @meemee-yagisan さらっとうそをつくんじゃない

ヤギ@meemee-yagisan
 @kasiwa-mochimochi ごめん、つい。てへぺろ

柏餅@kasiwa-mochimochi
 @meemee-yagisan しかたない、ゆるす



「しかたない、ゆるす、って」

 そんなひらがなばっかのツイートで偉そうに言われても。今度はこらえきれずにぶくくと吹き出した。



ヤギ@meemee-yagisan
 @kasiwa-mochimochi まあでも、まじめにそろそろ休めよ。お前ががんばってんのも一生懸命やってんのもわかってるけど、体ぶっこわしたら元も子もないだろ



 理一の健康と引き換えに手に入る「学園の平和」も「滞りない学園運営」もくそくらえだ。そんな一心でツイートボタンを押し込む。ついつい携帯を握り締める手に力が入りすぎてしまうのはご愛嬌、だ。

 遠くの校舎のあかりを睨みつけたまま、その場に立ち尽くす。すると、不意にふっと生徒会室の明かりが消えた。え、と瞬きするのもつかの間、人一人の足下を照らすぐらいの小さな光がパッとともって、真っ暗な廊下をふらふらと動き出した。窓ガラスに、ぼろげな人影が映し出される。
 ハッとして手元に目を落とせば、新たに「わかった」という一言だけのリプライが理一から届いていた。わかった、今日はもうおわりにする。そういうことなのだろうか。なんにしても、俺の心配が理一に届いたようで、少しだけ、嬉しい。

 先に帰るのも妙に思えてそのままその場で待ち続けているとそう経たないうちに懐中電灯を手にした理一がやってきた。片手をあげて「おつかれ」と声をかければ、おどろいた顔をされる。

「ハル……お前、こんなところにいたのか」
「ん、まあね」
「寒くないのか」
「それなりに寒い」

 触ってみるか? と、俺とは対照的にしっかりとブレザーを羽織ってマフラーまでしている理一の頬へ、自分の手を押し付けてみた。そのつめたさに、びくりと理一の方が跳ねる。

「冷たいな」

 そっと、理一の手が俺の手に重ねられる。ずっと室内に居たからか、理一の手は温かかった。思わず表情をゆるめたら、ほっとしたのが伝わったのか、理一が両手で俺の手をつつむようにして持ってくれる。俺の手を抱えて祈るようなポーズをしたまま、理一は一向に動こうとしない。

「……帰らないのか?」

 言ってから、よく考えたらこのままじゃ帰れないことに気付いた。俺と理一が一緒に寮の玄関をくぐったりしたら、親衛隊が騒ぐどころの話じゃない。帰るなら、繋いだこの手を放して、ここで別れなくてはいけない。そして俺たちは、時間をあけて別々に帰らなくちゃいけない。
 そう考えたら、少しだけさみしくなった。知らぬうちにきゅっと理一の指先を握り締める。そのとき、静かな夜の空気に寄り添うようにして、そっと理一が囁いた。

「あと、」
「……うん?」
「あと、もうすこしだけ、」

 このままで、と指先を握り返される。

 あまい空気なんてない。抱きしめ合うわけでもない。ただ、手と手をとりあって二人で寄り添うだけ。向かい合って立ち尽くす俺と理一を取り囲むように、相変わらず、冷たい風がびゅうびゅうと吹き付けている。
 だというのに、理一の手を握っているだけで、こんなにもあたたかい。ぎゅうっと胸が締め付けられる感覚に、俺は、ふるえるまぶたをそっと下ろした。





(そのころのTLのみなさん)

スーザン@susan-11
 TLでいちゃついてる人たちがいるなう^▽^

うー@pyon-rab
 そういうのはメールが電話でやれと言いたいなうなう^▽^

スーザン@susan-11
 リア充ばくはつしろ!!!!

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