ももさまリクエスト;柏餅×めえ
ももさまにリクエストいただきました「重陽のお見合い疑惑に慌てふためく攻め達、からの理一の公開プロポーズ」です。
ifかつ未来設定で、重陽高3理一大学1年の冬っていうことになっています。
なんだか全然公開プロポーズじゃなくてすみません……会長がへたれ脱却できる日はいつ来るのか……
リクエストどうもありがとうございました!
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その騒動は、とある一つのツイートを発端に起こった。
ヤギ@meemee-yagisan
お見合いいてくる!
「……は……?」
大学の講義の合間、ふと何の気なしにツイッターのTLを覗いた俺は、一年前よりは多少扱いに慣れてきた携帯電話の液晶に映し出されたそのツイートにぽかんと口を開けた。きっとかなりの間抜け面をしていたことだろう。けれど、そんなのどうでもいい。それどころじゃない、というのが俺の本音だった。
そのツイートをしたのは、俺と同い年だが学年は一つ下という、若干変わった境遇をもつ俺の恋人。だが俺は、彼が見合いをするだなんていう話は聞いていなかった。恋人が自分に内緒で見合いをするということに、少なからず動揺する。
一体どういうことなのかと慌てて彼――ハルのツイッターのホーム画面へと飛び、ツイート一覧を見る。前後のツイートからなにかが解るんじゃないかと思ったのだ。例えば、彼の友人であり同室者である男と悪ふざけをしていたとか。俺をからかう遊びをしていた、とか。
けれど、俺のそんな甘い期待はあっさりと裏切られることとなる。ツイート一覧のトップに来ているのが件の「お見合い」ツイートで、それより前には昨晩俺にくれた「おやすみ」のリプライしかなかったのだ。
(……これは、一体どういうことだ?)
ますます理解不能な状況に脳が理解を拒み始める。それでも俺は、やっぱり扱いづらい携帯電話をなんとか駆使してハルに電話を掛けた。が、かからない。聞こえてきたアナウンスによると、ハルは携帯の電源を入れていないか、電波の届かない場所にいるらしい。
そんな馬鹿な、と咄嗟に思う。
あの携帯依存症とも言えようハルが、携帯の電源を切っているだなんて信じられない。それに、地下鉄内でだってネットが使えるこのご時世だ。電波の入らない場所なんて今時そうそう無いだろう。
「……一体、何やってんだ。あいつ」
最初はまだ「冗談だろう」と心の片隅で思えていたというのに、徐々に俺の心は不安に支配されていった。
柏餅@kasiwa-mochimochi
@meemee-yagisan おい、お見合いってどういうことだ
震える指先を操ってハルのツイートにリプライする。こうしておけば、きっとそのうち連絡が来るだろう。今すぐハルを探しに行きたいという衝動を理性で抑えつけて俺は携帯電話をしまった。と同時に、チャイムが鳴って次の講義を行う教授が講堂内に入ってくる。
やがて、眠気を誘うような口調で講義は始められた。経営に関係するいつもなら熱心に聴いている話も、今はただ右から左へと流れて行ってしまう。
――早く、講義よ終われ
そんなことを思ったのも、九十分の講義時間が永遠のように感じられたのも、これが初めてのことだった。
そうしてようやく訪れた講義終了の合図。教授が話を終えたのとほぼ同時に、俺は全く使わなかった筆記用具類をザッと鞄に押し込んだ。
「なぁ柏木、お前このあと、」
「悪い、用事がある」
「えっ? ちょ――」
途中、よく講義が一緒になる友人に声をかけられたが、俺はみなまで聞く前に断りを入れる。そうして振り返ることもせずに「それじゃ」と別れを告げて、大講堂から一目散に飛び出した。
もうこの後には講義は無い。大学の最寄駅へと早足に向かう途中、赤信号に足止めを食らいながら携帯電話をチェックする。ハルからの連絡はない。メールも電話も。更に言うなら、TLにもなんの変化も無かった。
講義中一度も携帯が震えなかったから、そうだろうとは思っていたけれど。実際何の連絡も来ていないのを目の当たりにしてみるとひどい気分だった。
(……こうなったら、)
ハルの身近な人物に連絡して、そいつ経由でハルに連絡を取るしかない。ようやく青に変わった信号機を視界の隅に、ゼブラゾーンへと足を踏み出しながら、俺は電話帳から「鈴木忍」の名前を呼び出す。
ハルの友人である彼と連絡先を交換したのは、俺が黄銅学園を卒業する時のことだった。
「会長、先に卒業なんてかわいそうですね。学園内でのめーちゃんの様子とか、気になって気になって仕方ないんじゃないですか?」
「自分はずっと一緒なんだぞ」というアピールと共に彼にそう言われて、ならばお前が教えろと迫ったのである。それがこんなところで役に立つなんて、思ってもみなかった。
発信ボタンを押し込めば、プルルルル、と無機質な音が聞こえてくる。数回それが繰り返されたのち、今度はあっけなく相手が出た。
『はいはーい、もっしもーし。こちらめーちゃんの同室者であり友人というめーちゃんに物理的に最も近いポジションにいる鈴木忍の携帯ですが』
意味の解らない応答に、イラッとしてしまったのは仕方ないことだろう。
「柏木だが」
『あはは、知ってますよー。画面に表示出ますし』
「そうか。なら本題に入るが」
そりゃあ出るだろうとはわかっていても、一応名乗るのが礼儀というものじゃないのか。いちいち癪に障る言い方にストレスがたまるのを感じつつ、俺はさっさと話を終わらせようとさっそく切り出した。
「お前、八木の居場所を知らないか」
『え、一緒じゃないんですか?』
「一緒じゃないから聞いてるに決まっているだろう」
それくらいも解らないのか、と今度はこちらが嫌味を返す番だった。けれど鈴木はそれを気にする様子はない。電話の向こうで「えー、まじでー?」などとただ驚きを露わにしていた。
『え、でも……あ、かいちょ、じゃなかった。柏木先輩、めーちゃんのツイート見ました?』
「見たからこうして電話している」
『あ、ですよねー。俺あれ、てっきり先輩とお見合いすんのかと思ってたんですけど』
違ったんですね、という何気ない言葉に俺はぐっと眉間に皺を寄せた。ああ、そうだよ。違ったんだよ。俺じゃないんだよ。苛立ちのままにそう返したくなる。
『……ていうか、めーちゃんなら昨日から実家帰ってるんですけど』
「――は?」
『なんでも、親に呼び出されたーとか言ってましたよ』
「その時、アイツどんな風だった」
『特になにも。いつも通りでしたけど……』
まさか、という俺の心の声と鈴木の呟きが重なる。ほんと、まさか、な……。
(くそっ、どういうことだよ! ハル……)
電話の最中にも関わらず悪態をつきそうになる。代わりに奥歯を噛みしめることで苛立ちを誤魔化す。
――まさか、本当に今、お見合いをしている、だなんて。
(そんなこと、あるわけないよな。なぁ、ハル)
心の中で問いかけるも、無論返事はない。不穏な空気は拭えそうになかった。
スーザン@susan-11
混乱なう!
うー@pyon-rab
@susan-11 どうしたのぉ? なんかあったの?
スーザン@susan-11
@pyon-rab めーたんお見合い疑惑なう! 柏餅混乱なう!
うー@pyon-rab
@susan-11 えっ あれマジだったの?
「宇佐木も何も知らないのか……」
電車に揺られながら更新したTLの流れを見てぼそりと呟く。冗談だと思ってた、という宇佐木のツイートが妙に真実味を帯びていて、余計に混乱してくる。
とりあえず、一度家に帰って、ハルの実家の住所を確認しよう。そう思いながら電車に飛び乗ったは良いものの、数分おきに停車するいつも通りの各駅停車は、やけにのろく感じられた。もどかしいことこの上ない。
と、手の中で携帯が震える。どうやらメールを受信したらしい。ハルからかと一瞬期待したものの、想像したのとは違った差出人名を見て俺は顔をしかめた。
差出人:鈴木忍
件名:めーちゃん!
本文:二木せんせーとかにも聞いてみたけど、誰もなんも知らないみたいっす。
会長、早くめーちゃんのとこ行ったほうがいいんじゃないですか? 行って、こいつは俺のもんだ! って奪ってこないと!
「……言われなくても」
そうするに決まっている。
間もなく電車は、一人暮らしをしているマンションの最寄駅へと到着しようとしていた。
駅からマンションまで走って、マンションに着いても、エレベーターなんか待っていられるかとまた走って。最上階角部屋のドアの前に立った時には、完全に息が上がっていた。
大きく肩で呼吸し荒い息を整えながら、ドア脇に付いている機会に指先を押し当てる。ピッと短い電子音が鳴るのと同時に、ガチャリと開錠音が響く。
こういうとき、部屋の鍵が指紋認証キーで良かったなと思う。だってこれがもし普通の鍵だったら、鍵を取り出すのにまずもたつき、鍵穴に差し込むにももたつきと、苛立ちがマックスにまで達していたに違いない。
ドアを開ければ、広く長い廊下が目の前に広がった。靴を投げ捨てるように脱いで真っ直ぐにリビングへと向かう。その途中には、俺の寝室とは別にもう一つ、今は使われていない部屋があった。
家具一つ置いていないその部屋は、ハルが高校を卒業したら一緒に暮らそうと思って空けている部屋である。ハルにはまだ話していないが、先週俺が通う大学に合格したとの報告も貰ったし、そろそろ打ち明けてみようかと思っていたところだった。
それも、無駄になってしまうのだろうか。
そんなことはできれば考えたくなかった。
リビングの棚を漁って、今年貰った年賀状の束を取り出す。
「あった……」
輪ゴムで束ねられたそれらの一番上に目的のものはあった。差出人は八木重陽。住所は、以前ハルが「地元だ」と話していた地域だった。これがハルの実家の住所なんだろう。
行って、もし本当にハルが「お見合い」をしていたとして。そしてハルに異論がなく、そのお見合いに前向きな姿勢だったとして。
なにを言ったらいいのかは解らない。どうしたらいいのかも解らない。けれど今は、ただ「行かなければいけない」という一種の使命感にも似た気持ちが、俺の体を支配していた。
マンションの部屋を飛び出し、オートロックが掛かる音を背後に聞きながらさっき上ってきたばかりの階段を駆け下りる。一階について、ホールを駆け抜けて、たくさんの車が通る大通りまで出て。タクシーを止めた俺の手には、しっかりとハルからの年賀状が握られていた。
「ここ、のっ……住所まで、行って、くれ」
ゼェゼェ言いながら途切れ途切れな声で年賀状を差し出した俺に、運転手は一瞬不思議そうな顔をしたのち、無表情な声で「かしこまりました」とだけ答えた。
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