父の日1(宮木さん×重陽)
2013/06/30



・父の日番外編になるはずだったものが出てきたのでサルベージ
・みやめえなのに全く絡んでない
・父がすごくうざい













「あのさあ、スーザン」
「なんだいめーちゃん」
「ちょっと聞きたいことがあんだけど」

 いつもは忍になにかを聞くことなんて滅多に無いけれど、こればっかりは自分ではベストな答えが見つけられない。腹をくくって、ソファに寝っ転がり携帯をいじっている忍に声をかけた。

「お前さ、父の日ってさ、いつもなにあげてる?」
「……父の日ィ?」
「そう」

 俺の問いが予想外だったのか、素っ頓狂な声を上げる忍。うなずく俺に、しばらく思案してから「あー」と、なにやら納得したらしい。

「そうか、今週末だったっけな。父の日」
「そうなんだよ、今週末なんだよ」

 つまり、時間はもうあまりない。
 実をいうと結構前からずっとどうしようかと迷っていたのだが、いっこうにいいアイデアが思い浮かばなかったのだ。

「え、ていうか、めーちゃん去年まではどうしてたんだ?」
「特になにも」
「えっ?」
「いや、だから」

 養育費を出してもらってることには感謝してるけども、母親と違って目に見えてわかりやすく家事とか何かをしてくれているって感じはしないし。更にいえば向こうも別に望んでいなさそうだし。
 まあ、そんな感じで今までは父の日などしたことがなかった。だからこそ、今こんなに悩んでいるわけである。

「去年まではやってなかったのに、今年はやるわけなのな……?」
「あー……それは、うん、まあ」

 なんというか、ええっと。

「いや、ちがくてさ」
「??? なにが?」
「いや、ちがくはないんだけど! ちがくて!!!」

 ああもう、自分でもいったいなにを言っているのやら。頭が混乱してわけがわからない。言われた忍のほうも困ったような顔をしていた。

「……あの、な」

 いったん言葉を切って、深呼吸を数回。改めて口に出すとなるとやけに恥ずかしくなって、俺はぐっと拳を握りしめた。伸びた爪の先がてのひらにちくりと突き刺さるのを感じながら、覚悟を決めて口を開く。

「みやっ、ぎ……さん、に」
「? めーちゃんのお父さんの、秘書の人だったか?」
「そう。その、秘書さんに……父さんがお世話になってる、から、ええっと」

 つまり、なにがいいたいかと言うと。
 父の日なのに全然関係ないんだけど、父親の方じゃなくて、宮木さんに何か贈り物をしたかったりするわけである。俺は。

「ああー、なるほどな! それで」
「そう、それで、困ってるわけです」

 この贈り物の相手が父親なら、好きなものも嫌いなものもそれなりに知っているからここまで困ったりはしない。
 けれど、相手が宮木さんだから。俺は、どうしたらいいのか皆目検討もつかなくて、こうして忍に相談するに至っているわけである。

「って言われてもなぁ……俺も、その秘書さんと会ったことすらないしな」
「いや、うん……無茶振りだってのは自覚してる」

 俺ですらわからないものを忍が知っているはずもないのは重々承知の上だ。けれどその上で、なにか一般的に無難そうなものがあれば、と思ったのだけれど。

「ちなみに、宮木さんとやらはどんな人なんだ?」
「えーっと、いつもスーツで、サングラスしてて、真面目そうで、しっかりしてそう……?」

 なんだか、言葉にしてみると随分曖昧なイメージだ。これに当てはまる人は、なんていうか、町中を探せば結構居そうな気がする。サングラスをしてるっていう点を除けば、いつもスーツで真面目そうな人なんてこの学園内にもわんさかいるわけだし。
 なんだか、こんなんで大丈夫なんだろうかという漠然とした不安が俺を襲った。そもそも、いくら何かとお世話になっているからとはいえ、父の日に宮木さんに贈り物をすること自体間違っているんじゃないかとすら思えてくる。

「あっ、ほら、めーちゃん! アレ! アレなんてどうだ?!」

 急に落ち込んだ俺に気付いたのか、忍は慌てて明るい声をあげた。

「どれだよ、アレって」
「ええと、ほら、……お酒とか!」
「未成年は買えねえだろ」
「じゃあ、なんか、食べ物とか」
「モノによっては送れねぇだろ」
「えっと……シガレットケースとか……?」
「宮木さん煙草吸わねぇし」

 たぶん、だけれど。少なくとも、俺は今まで吸っているところを見たことがない。

「じゃあ……えっと……」

 忍もここらでネタ切れらしい。徐々に声のトーンが下がっていった。
 だよなあ、と思う。俺もこのあたりまでは一応思いついたけど、忍に言ったのと同じ理由で却下していた。
 あとは身につけるもの、ということで腕時計とかが上がったけれど、宮木さんの趣味に合うものを選べる自信がないし、それになにより、予算的に無理だ。いつだったか、短期のアルバイトをしたときの貯金で買えそうなものじゃあ、宮木さんにはきっと釣り合わない。
 びっしりと上質なスーツを着ている中、手首だけがやけに安っぽくなる様が簡単に想像できた。

「あと……あと、なんかねぇかなあ」

 忍がむくりと体を起こしたことで空いたソファの半分に腰を下ろす。制服のままの自分を見下ろして、手持ち無沙汰にネクタイを引っ張った。
 そのとき、

「それだっっ!!!」

 唐突に、俺と同じように考え込んでいた忍が声を上げる。

「それっ、それだよめーちゃん!!!」
「いや、どれだよ」

 勢い余って立ち上がり、俺を指さし熱く訴えかけてくる忍。テンションの高さにちょっと引きながらも聞き返すと、だから、それ! と忍はズビシと人差し指の先を動かした。

「ネクタイ!!!」
「――あっ」

 ネクタイ。
 その手があったか。ぽつりとこぼした俺に、忍は嬉しそうに破顔した。











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