喉が乾いた。

何時間経っただろう。あまり休めた気はしなかった。
何かあっただろうかと鞄を見るも、手に取った水筒は既に空。どこか水を飲める場所は無いだろうか。寝惚けた目を擦りふらふらと病室を出る。

僅かな常備灯に照らされた静かな冷たい廊下の突き当たりには、大きな金網の扉。向こう側から風の抜ける音がごうごうと響いている。自分だけが異質な存在であると諭されている心地がした。


「…いいの、勝手に抜け出して。」
不意に掛けられた声に振り返る。壁際の長椅子に目を移せば、穏やかそうな青年が困ったように微笑む。白い髪に白い服。薄暗い灯りの下でも、その姿ははっきりとしていた。

「これでしょう?」
サフィルが言葉を発するより早く、彼は冷えた水のボトルを手渡す。
「…いいんですか?」
「どうぞ。」
一々警戒する必要も感じられなかった。彼の隣に座り、半分ほど一気に飲み込む。
「お腹空いたでしょう、よかったらこれも。」
そう言って彼は懐から塊の入った銀色の袋を幾つか取り出した。そういえば、夕食をとっていなかった。
「レーション。口に合わないかも知れないけれど…。」
「れーしょん?」
「携帯用の食料。…もっとちゃんとした物持ってくればよかった。」
「いえ、ありがとうございます。でもどうして?」
疑問を口にしても、彼はただ曖昧に笑うだけであった。

「僕は源本ソル。ミツキに何か聞かれたら、僕が差し入れに来たと言っておいて。あの子は少し気難しくて話し辛いでしょうけど、悪い子ではないから…あまり嫌わないであげて欲しい。」
「…分かりました。私は、」
「サフィル、でしょう。…さてと。廊下は寒いでしょうから、貴女も早く部屋にお戻りなさい。」
ソルは静かに笑い、そう促す。サフィルは一つお辞儀をし、部屋に戻った。



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