『アナタの声は愛しいアノ人に届いていますか?』
「い〜ざ〜や〜!!!」
「ははっ、シズちゃん死んで!」
今日も池袋はいつも通り二人の喧嘩が絶えることはない。神出鬼没な新宿の情報屋・折原臨也と池袋最強の自動喧嘩人形・平和島静雄が、右へ左へ上へ下へと街を破壊しまくっていた。
――「あの二人が…」
――「なるほど、確かに」
そんな戦争現場をどこからか覗く影が4つ。
――「しかし本当にそうなのか?」
――「本当だよ!デリック、スピーカー!」
音楽でもかけるのかと思われるスピーカーから流れてきたのは声だ。
『あ゛ー!なんで俺は普通に話しかけられねえんだよ!これじゃあ、臨也の奴が逃げるじゃねえか』
『なんで普通に会話できないかな…。本当はシズちゃんに言いたいことあるのに』
そこから聴こえる声は喧嘩中の二人のものではあるが全く様子の違うものであった。
――「ね!」
――「そうだね。これはどうにかしないと」
――「じゃあ、いっちょやりますか!」
その瞬間世界は音に包まれた。
「それじゃあ…レッスンスタート!」
折原臨也がハッと気付くと、そこは池袋ではないドコかのようだった。
(あれ?さっきまでシズちゃんといたのに…)
「「こんにちは!」」
「え!?」
「おれはサイケ!」
「僕は日々也です」
「俺が二人…変な恰好で…」
臨也によく似た白いコートを纏うサイケと王子様衣装の日々也は、どこから取り出したかマイクを臨也に渡す。
「イザヤくん、歌って!」
「…いきなり何だよ」
「自分の気持ちをです、いざや」
自分の気持ちを歌えと言われたところで何が何だかわからない。臨也が人ラブとでも歌えばいいのか、と思った矢先。
「"シズちゃん"」
「!!!」
「イザヤくんのシズちゃんさんへの気持ちだよ」
「………」
「素直な気持ちを歌えばいいのです」
何故知っているのか、いやそれよりも臨也は受け入れようとしてる自分が不思議だった。この二人は素直にさせてくれる、そんな雰囲気があるからかもしれない。
「「大丈夫。きっと届く!」」
「…うん」
臨也は思い切り息を吸い込んだ。
平和島静雄はじっと待つ。目を閉じ、耳を済ませ、見守られながら。
(本当に…こんなんで…)
「静雄、大丈夫だ」
「んなに固くなってちゃダメじゃん。リラックス、リラックス」
何故このようなことになったのか。静雄が気付いたときにはこの二人、己によく似た青い着物を羽織るは津軽、白いスーツを纏うはデリックだと紹介された。
「お前ら何だ?臨也はどこいった!?」
「まあ、そう急くな。それがお前の悪いところだな」
「あ゛あ?」
「だから、そうすぐにカッカッすんなって言ってんだよ」
今にも沸騰しそうな静雄を津軽とデリックが腕をとって宥め、二人の何とも言い難い雰囲気に圧されたのか静雄は静かになる。
「よしよし!」
「…ガキ扱いすんな」
「するなと言う方が難しい」
「そうそう。…"イザヤ"」
静雄が再び沸き立とうとするが、それと同時にデリックは自分の付けているヘッドホンを付けさせる。
「「それだ」」
「………は?」
「静雄。お前は臨也さんのこととなるとその態度だな?」
「………だったらなんだよ」
「ったく!本当は普通に話しかけたいのに雄叫びをあげて追いかけ回すなんて…照れ隠しか?」
図星を指摘された静雄は気まずくなって二人から顔を背ける。
「これじゃあガキ扱いされてもしょうがねーよな?」
「………うるせえ」
「だから静雄。お前は待つんだ」
「そう、イザヤさんの声が聞こえるまでな」
そして話は冒頭へ戻る。
――『シズちゃん』
静雄の付けているヘッドホンから声が聞こえた。そして声は音となり歌となり静雄の耳を、心を奮わせた。
「…っ臨也!!!」
臨也が何処にいるかなんてわからない、ただ自分の想うままに臨也を求めて静雄は走り出していた。
「シズオー!がんばれよー!」
「さてと、俺らは帰るとしようか」
「そーだな。サイケ!あとよろしく!」
――音が消える。
「はっ…はあっ…っ」
「イザヤくん、よくできました!」
「すばしかったです」
「そう、っかな?」
「うんうん。これならきっと…」
「おや、来たようですね」
サイケと日々也は互いに顔を見合わせると笑顔で臨也の手を取り向き合った。
「イザヤくん、もうこれで大丈夫だね」
「サイケ…」
「貴方の想いはきっと届きます」
「日々也…」
「レッスンはこれでおしまい」
「ここからが本番です」
どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。いつも聞いている声、けれど少し違う声。すでに臨也は声の方へ走り出していた。
「「がんばれー!」」
「………では、帰りましょうか」
「うん!」
――音が消え、世界は喧噪に包まれた。
君に届け!(臨也!)
(シズちゃん!)
((あのね・な…))
5000記念"ごせん"シリーズ
2011.0423
≪
back