平和島静雄は考えていた。どうしたらこの男・折原臨也は黙るのかと。


(何買うかなあ…)

「シズちゃんは甘いもの好きだからこのココア買えば?俺はあんまし甘いもの好きじゃないからこっちのコーヒーにするし。あ、あそこのベンチ空いてるじゃん。行こ行こ!」

平和島静雄は常々思っていたことがある。それは己の天敵兼友人であると思っている男、折原臨也はいつ黙るのかということだ。二人は高校の時からの付き合いであり、街で遭えば戦争ともいえる喧嘩をするが別に仲が悪いわけではない。一種のストレス発散のための手合わせとでもいえばいいのか、上手い具合にいつもお互いに虫の居所の悪さが一緒なのだ。

(こいつホントによく喋るよなあ)

「でね、シズちゃん!この間の仕事っていっても別に難しいわけでも何でもなかったんだけど取引相手が嫌な感じでさあ」

そしてお互いに機嫌の良い日はこうして話相手になっているわけだ。ほぼ毎回平和島静雄が聞き役に徹しており、折原臨也はその間忙しなく喋っているだけなので会話とは言い難いが。これを含めて高校から長い付き合いになる二人だが、平和島静雄はそういえば折原臨也が黙ったとこを見た事がないなと思っていた。

(こんだけ喋って口の中渇かねえのか?)

「その取引相手ってのが何かもう最悪な奴で会った時から何でか俺のことジッと見てきて目がギラギラしてて」

(さっき買ったホットココアも冷めちまった)

「書類を渡す時なんかわざわざ手を握るようにして受け取るからキモチ悪くてさあ。まあその後時間かけてキレイに手洗ったんだけどアレはマジでないよ」

平和島静雄は気付けば喋っている折原臨也の口元ばかりを見ていた。寒い中だというのに、休む事無く動く彼の唇は少し紫がかってきている。それを見た平和島静雄は暖めてやろうと思ったのと同時に行動していた。

「事務所に入る前なんか波江さんに塩をんむっ!?……っふ」
「‥‥‥っん、はっ……」

黙ったな、と思ったのと平和島静雄が折原臨也から唇を離したのは同時だった。そして平和島静雄は自分の胸に折原臨也を押し込める事で口を塞いだままにした。それが苦しいのか折原臨也はもがいて平和島静雄の顔を見上げる。

「‥‥‥」
「‥‥‥」

今の二人の状況を例えるのならば、公園のベンチでイチャつくカップルのように見えることだろう。二人とも言葉を発していないものの、雰囲気にどこか甘いものが漂っている。

「お前…」
「シズちゃん…?」
「こうしてやりゃあ黙るのか」
「は、い?」
「…なんか可愛いな」

平和島静雄はそう言うや否や、またしても折原臨也に口付けて抱きしめた。彼の顔は喜びに溢れている一方で、折原臨也はどうしてこうなったと困惑するばかり。しかし彼はそれに抗議することはなくされるがままだ。口だけでは飽き足らないのか折原臨也の顔の至る所に口付けしていた平和島静雄の手はきゅっと折原臨也を抱きしめたままである。

「臨也」
「な、何?」
「家いくぞ」
「………うん」

その答えに満足したのか満面の笑みを見せた平和島静雄に、赤く色づきながらまんざらでもなさそうな顔をする折原臨也がこの後どうなったか聞くのは野暮ってものであろう。


見つけた切れ目
(トークの後は甘い一時を)



5000記念"ごせん"シリーズ

2011.0423


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