※遊郭パラレル
俗世から切り離され法は意味を成さない、様々な欲望を糧にして生きている街――池袋。
「静雄さん、こんにちは…」
「おう」
『静雄、調子はどうだ?』
「ぼちぼちだな」
――羽島屋。池袋にて遊女屋を営んでいる店の一つ。そこの遊女が話しかけている青年は平和島静雄、この店の用心棒を務めている。その細身の体のどこから出るのか怪力は、池袋の者なら知らない者はおらず、彼が暴れる姿はまるで鬼神のようだと囁かれていた。
「兄さん今日もよろしくお願いします」
「ああ、お互いにな」
店主であり実の弟でもある平和島幽と挨拶を交わし、静雄は今宵も用心棒業に勤しむ。
「しっずおさーん!!!」
「うっお…!」
「…晩…(こんばんは)」
「九瑠璃。…ってめ、舞流!」
鬼神とも恐れられている静雄に勢いよく抱きついた少女・舞流、と同じ顔をして静かに佇む少女・九瑠璃。
「お前ら今の時間は仕事のはずだろ?」
「幽さんに会いに来た!」
「…会…(会いたい)」
「ったく…幽は仕事中だ。大人しく帰れ」
静雄が二人に帰るよう指差したのはとなりの店。そこも言わずもがな遊女屋であり、この二人はそこの遊女だ。
「えーやだー!」
「…嫌…」
「お前らなあ…いくら俺でも腹立ってくるぞ!」
「静ちゃんはいつも腸が煮えくり返ってるじゃない」
「ああ゛?」
いきなり会話に入ってきた声の正体は、年恰好は静雄と同じくらい、顔の創りが少女達とどこか似ている青年だった。
「なんで静ちゃんみたいな奴に羽島屋の用心棒が務まるんだろうねえ?鬼神だなんだの言われてる様だけど、実際はただの暴力馬鹿だってのに」
「臨也!手前この蚤虫野郎その面見せるなって言ってんだろうがっ!!!」
「本当に静ちゃんって馬鹿だよね。君の所と隣同士だってのに顔合わせないなんて難しいじゃないか」
――羽島屋の隣の店・奈倉屋。遊女屋でありながら店主の趣味で情報屋も営んでいる店。そこの風変わりな店の主は、先程から静雄のことを渾名で呼びつけては彼と言い争う命知らずな青年・折原臨也であった。
「うるせえうるせえうるせえっ!!!とっととくたばりやがれ!」
静雄は傍にあった街灯をその場から引っこ抜くやいなや臨也目掛けて振りかぶる。
「静ちゃんって理不尽だよねえ」
静雄に投げられた街灯を軽やかな身のこなしで避けると同時に、懐に忍ばせている小刀を取り出しそのまま静雄に斬りかかる。
「本当に静ちゃんは理不尽だ。その力といい刀が刺さらない体といい思い通りにならなくて嫌いだよ」
「奇遇だな、俺も手前が嫌いだ」
「その細くて綺麗な体のどこから怪力が出てるんだよ。しかも顔立ち凛々しくて男前だし何か腹立つ!胸が苦しい!」
「お前だって綺麗な体と面しといて何でそんなに性格歪んでんだ。腹も立つけど変な気分にもなるだろうが!」
「恥ずかしいこと言うなよ!接吻したくて我慢できなくなるだろ!」
「あ?我慢なんてするんじゃねえよ!後で部屋にも行くから待ってろよ!」
もはや恒例の見世物と化している二人の喧嘩、もとい痴話喧嘩に口を出すものは人っ子一人いやしない。もし止めに入ったりでもすれば、馬より凶暴な二人に蹴られて確実にあの世逝きだ。
『なんだ、またあの二人か』
「あ、首無太夫!」
「…毎…(いつものこと)」
『まったく…。あいつらのせいで今日も店が暇だ…』
「うちの店もですよー…ってことは幽さんに会える!」
『ついでに菓子でも食べていきな』
「…嬉!…(わあい!)」
店仕舞い恋開き(近所迷惑はいつものこと)
静臨企画『となりの〇〇』様に提出
2011.0130
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