誕生日というもの、一般には喜び喜ばれる日であるとされている。しかし、この日を喜ぶことなく過ごす、池袋最強・平和島静雄にとっては如何様なものであろうか。





「本当にありがとう」
「俺はただ通りすがっただけっすから」

現在平和島静雄はケーキ屋におり、尚且つ女性と一緒に同席している。事の始まりは静雄が女性を助けたことで、この場所へはお礼だとして連れてこられていた。

「ううん、私はあなたに2回も助けてもらったから」
「え…?」

誰かを助けたことは実はこれが初めてであるのに、自分に2回助けられたと言った女性は、何故だか初めて会った気がしなかった。

「『牛乳飲んで強くならないとね』」
「!!!」

静雄はその言葉に驚きを隠せないでいる。それは、自分がまだ幼くて力の制御も出来なかった頃、守りたかったのに傷付けてしまったお姉さんに言われた言葉だった。

「あの時俺のせいで…ケガ、してた」
「そうね。でも、体の怪我だけで大事には至らなかった」
「でも、」
「貴方が一生懸命になって助けてくれたから、今私はこうして貴方とまた逢うことができたの」
「……っ…」
「だから貴方は私を助けてくれた恩人さんなのよ」

それを聴いた静雄は我慢が出来なくなった。あの時の事を許してもらえたからなのか、でも今はそれ以上に嬉しくてたまらなかった。

「……ふっ…うっ…」
「あらあら………あ、出来たみたい」

その時二人がいる席へ運ばれてきたケーキ。しかもホールケーキの上には可愛らしいプレートとロウソクが立てられていた。

「お誕生日おめでとう!今日なんでしょう?」
「は、はい…でもなんで、」
「それはね、黒い魔法使いさんのおかげなの」
「ま…魔法使い、っすか?」

彼女から発せられた魔法使いという単語は静雄を泣きやますには充分なものだった。妖精の次は魔法使い、と平和島静雄の頭の中は混乱していた。

「ええ、親切にも私が探してた貴方のことを教えてくれたのよ。オマケに甘党だってこともね」
「は、はあ」
「だから私、貴方が生まれた日を感謝するわ」
「………ありがとう、ございます」

家を出てから誰か、人に自分の誕生日を祝ってもらうのは初めてだが、どこか懐かしい感じに、平和島静雄は照れながらも笑ってお礼を言っていた。

「貴方は笑顔の方がステキだわ」
「…っす」





「今日はありがとう」
「いや、俺の方こそ」
「貴方が強い人に成長してくれてて嬉しかった」
「力だけ、っすけど」
「そんなことないわ。貴方は心も強くなってるもの」

彼女の方が自分より心の強い人と思いつつ、この人のようにいつかそうなりたいと平和島静雄は思った。

「…頑張ります」
「ええ………あら、もうこんな時間。それじゃあ」
「それじゃあ」

彼女と別れた直後、いつもは追いかけ回す臭いを感じ取った静雄であったが、今日という日は彼女のために平和に過ごそうと、静かにその場から立ち去った。そこでふと、彼女の言葉を思い出す。

――『黒い魔法使いさん』

(あれは"アイツ"なのかもな)

平和島静雄の心は満たされる。


過去と未来から受け取った
(明日も頑張るか!)



平和島静雄誕生日企画『心臓』様に提出

2011.0128


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