※死モチーフ


その知らせを折原臨也が受け取ったのは事が起きた翌日、旧友である岸谷新羅からであった。

「新羅!!!」
「臨也、思ったよりも早かったね」
「それより、」
「うん。別室にセルティといるよ」

新羅からそう聞いた臨也はすぐさま部屋に行こうとするが、それを新羅が臨也の腕を掴み遮った。

「…何すんの?」
「いや、それはこっちの台詞。さっきも言っただろう?静雄は、」
「俺にしたらシズちゃんにトドメをさす絶好のチャンスだよ、新羅」

それを聞いて複雑そうな顔をした新羅の制止を振り切り、臨也は静雄のいる部屋へと向かう。部屋に入ると気配に気づいたのか、セルティがこちらを向いた。

『静雄は今眠っている』
「知ってる。新羅から連絡貰ったからここに来てるんだし」
『そうか。じゃあ私は新羅のとこへ戻る』
「いいの?俺とシズちゃんを二人きりにしちゃって。俺らの関係性を君は少なからず知っているはずだ。俺がこの機会に何もしないとでも?」
『ああ。お前の顔を見たら大丈夫だと思ったから』
「…?」

そう言い残しセルティは部屋を出ていった。残されたのは臨也と静雄の二人だけ。静雄は眠っているため、二人には似付かわしくない静かな空間が出来ていた。

(シズちゃん)

臨也はナイフを手に持ち、静雄の眠るベッドへと近づく。そしてそのまま一気に静雄目掛けてナイフを振り下ろした。

――ザシュッ、ドスッ

「なん、で…刺さる、んだよ」

臨也のナイフは静雄の腕を切り裂き、ベッドには静雄の血が滲み出していた。

「君は、化け物で、ナイフなんか、全く刺さらなく、なってたじゃないか」

普段の平和島静雄ならば傷一つ付かないはずだった。しかし、今の平和島静雄は違う。自動販売機もゴミ箱も持ち上げられない、ケガをしても回復しない。そう、平和島静雄は"ヒト"になってしまったのだ。そして今は目を開けることもない。

「ねえ…シズちゃん、目覚ましなよ」

折原臨也は泣いていた。ずっと、ずっと――。

「標識でもゴミ箱でも、何でも良いから投げてよ」

「いつもみたいに俺を、見つけてよ」

「シズちゃん、俺を独りにしないで!!!」

臨也の叫び声だけが部屋の中に響き、誰もそれに答えてはくれなかった。






白い場所に平和島静雄はいた。誰もいない、本当に静かな所だった。

(俺はどうしちまったんだ?)

(確かセルティに会って、また変なヤツらに絡まれて…)

(ああ…!それで体動かなくなって新羅んとこに運んでもらったんだっけか)

平和島静雄はゆっくりと思い出していた。

(何か夢、見てるみてえだな。やけに昔のことが頭ん中巡ってるしよ)

初めて冷蔵庫を持ち上げた事、力のせいで好きな人を傷付けた事、自分の周りに誰もいなくなった事、そして――

(アイツに、臨也に遭った)

それからは折原臨也と喧嘩の毎日。在学中も、卒業してからも、折原臨也が新宿に移ってからも、それは変わることはなかった。

(なんでアイツのことばっかり思い出すんだろうな)

でも、と臨也との日々を思い出していた静雄は思った。

(俺は独りじゃなくなったんだよな)

何度殴ろうが骨を折ろうが、折原臨也は平和島静雄に立ち向かってきた。憎く思いながらも、自分の領域に遠慮なしに入り込んでくる臨也に、静雄は何かしらを感じていた節もあった。

(早く言ってれば良かった、なんて今更になって想うもんだな)

それを最後に平和島静雄が回想することはなかった。





「つまるところ、臨也と静雄はお互いになくてはならない存在なのさ」
『だから臨也は』
「………新羅」
「あ、臨也………静雄!!!」

この日、街から平和島静雄だけが去なくなった。


永遠に片想いで終わる
(君が去ない)
(お前が居ない)



静臨死企画『心臓に訣別』様に提出

2010.1228


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