※モブと臨也の日常


「それでね!その時のシズちゃんが――」

(今日はイイ天気だなあ)

「でも、いきなり自販機――」

(ここの紅茶美味しいなあ)

「ちょっと!聞いてんの!?」
「ううん、聞いてない。だっていつもと同じ内容だろうし、変わったこともないだろうし」
「…君ねえ。わざわざこの俺が池袋まで来て趣味の人間観察もせずに、仕事の取引でもなく時間を作ってるのだから君は俺の話を聞くべきだよ」
「じゃあせめて普通のカッコで来なよ」
「何言ってんの!それだとすぐにシズちゃんに見つかっちゃうじゃない」

(だからって…)

女装はないと思うんだ、折原臨也よ。


今日は休日ということで池袋をブラブラ。滞在中は特にトラブル、というより戦争現場に遭遇せずに平和に過ごせていたはずだった。

(なのにどうしてこうなった…)

だがしかし私はカフェにて折原の愚痴もといノロケ話を現在進行系で語られており、しかも女装している奴にという二重苦。

「けどさ、確か彼は臭いで見つけるんじゃなかったっけ?」
「それはそうだけど、このカッコしてるときは大丈夫だもん。今まで見つかったことないし」
「…そうなんだ」

折原が言うように、女装はこれが初めてではない。学校を卒業してからというもの、折原が私の元へ現れるときは何故か女装をしている。

(でもねえ………あ、)

(――平和島静雄)

折原はバレてない!と得意気になっていたが、それはとんだ勘違いだということにコイツは気づいていない。

(今日も君の話ですよー)

私たちから2・3個離れた席にいる彼に手を振ってみせる。少し慌てた様子だったが律義にも手を振り替えしてくれた。

「――おーい!俺そろそろ新宿に帰るよ。君も話聴いてないみたいだしさ」
「あー、はいはい」
「そのかわり次はちゃんと聞いてもらうから。それにしてもさ、たまにはアドバイスくらいくれたっていいのに、君は最初の時以来してくれなくなったよね」
「話は聴いてあげてる」
「でも本当に聴いてるだけ、だろう?」
「まあねー」

まさか私がここで変に口出しするまいと決めている…いや、約束したからとは言えない。折原には悪いが私は約束を破るつもりはさらさら無い。

(でも…そろそろ動いてもらうか)

「折原」
「何?」
「気をつけて」
「君が俺の心配とか、明日は雨でも降るのかな?」

(そういう意味ではないけど)

「じゃあまたね」
「うん、バイバイ」

折原と別れた私はすぐさま携帯を取り出し彼に電話する。

「あ、もしもし――」


気づいてない
(恋する乙女は盲目なんだっけ?)



2010.1116


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