『嘘つきな少年は「狼が来たぞ!」と嘘をついて村人を驚かしていました。ところがある日、本当に狼が村にやってきて少年は村人に知らせようと叫びましたが少年の言葉を信じる村人は誰もいませんでした。そして村は狼に…』


(なんで今更思い出したんだかな…)

――たぶんアイツのあんな顔を見たからだ。





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その日は仕事が休みで、特にすることもなく池袋の街を歩いていた。途中門田達やサイモン、名前は忘れちまったが来良の高校生3人組にも遭遇したんだったかな。何事もなく平和に一日が終わるようだった。

(こんなにじっくり歩くことも久々だな。………あ゛?)

――くせえ。匂いやがる。

「い〜〜ざ〜〜や〜〜!!!」

俺は走り出していた。あのクソノミ虫をブッ殺すために。

「臨也!!テメェまた池袋に来てやがったのか!!」
「やあシズちゃん。君は相変わらず俺を見つけるのが早いね。俺に発信機付けてストーキングでもしてるのかな?」
「俺がんなことするわけないだろうがっ!!」
「だよねえ。そんなことされてたら気持ち悪いし。まあシズちゃんの場合は人間じゃないから、君の嗅覚も化け物並なんだろうね」
「ウゼエウゼエウゼエ。やっぱテメェはここで死んどけ」

俺は近くにあった看板を臨也目掛けて投げるが、いともたやすく避けられてしまった。

「ははっ。シズちゃんの暴力って理不尽でデタラメだよね」
「殺す殺す殺す殺す」
「ほーんとに、だからシズちゃんなんて"ダイキライ"」
「あ゛あ゛!?」

避けられた後はやはりいつもの台詞の応酬。けれどいつもと違ったのは臨也のヤロウの表情だ。

「…おい」
「なに?」
「なんでテメェんな面してやがる」
「は?俺の顔はいつも通りで君からしたら殺したくなる素敵で無敵な情報屋さん折原臨也の眉目秀麗な顔だろ」
「ちげえ」
「何が違うっていうんだい?今日のシズちゃんはおかしなことを言う」
「おかしいのはテメェの方だろ。んな泣きそうな面しやがって」
「!!!」

俺がそう言った途端臨也は俯き顔を上げたと思ったら、逃げた。まあ逃げるのは毎度のことだ。でも俺はその時何でか追いかけなかった。いや、追いかけられなかったんだ。





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臨也のあの顔が妙に忘れられず、ついにアイツのマンションまで来ちまった。あ゛ースッキリしねえ!

「いーざーやーくーん。いるんだろ?開けやがれ」
「…何かなシズちゃん。君が俺のとこまで来るなんて。俺今日は何もしてないはずなんだけど。というよりチャイムがあるんだから鳴らすべきじゃない?君の無駄にデカい声のせいで御近所迷惑もいいところだ」
「お前ちょっと黙れ。んで俺の質問に答えろ」
「黙れと言っておきながら答えろなんておかしくない?大体、ここは俺の家の前なんだか、ら゛」
「とりあえず黙れ」

俺は中々口を閉じない臨也の口を自分の手で塞ぐ。やっぱこいつウゼエな。

「臨也よお、何でお前あの時あんな顔してたんだ?」
「何で泣きそうだったんだよ」
「………」

すでに手は退けてやってるのにコイツはうんともすんとも喋らねえ。一方の俺は非常に珍しくキレずに臨也相手に喋っていた。

「…い……よ」
「ん?」
「シズちゃんが、」
「おう」
「"ダイキライ"だからだよ」
「………」
「シズちゃんが"ダイキライ"すぎるからだよ」

――あ。

「ほら、もう用事は済んだだろ?早く帰ってくれないかな。俺は暇な君と違ってこれから仕事するんだから」

まただ。また俺のことを"ダイキライ"だと言った臨也の顔が歪んでいる。

「本当か?」
「え?」
「本当にお前は俺が"キライ"なのか?」
「そ、そうだよ!だからいつも言ってるし、今更取り上げる必要もないだろ!」

確かに臨也の"ダイキライ"は今に始まったことじゃない。それこそ学生時代からずっと…

(でも顔を見たのは初めて、か?)

(そうだ。コイツが言う時は決まって俺から逃げてる最中で)

(それで更にキレて自販機投げて…)

(ああ、そうか)

「だから俺はお前が"ダイキライ"なのか」
「っなんでそんな笑顔で言ってんのさ」
「お前のことが"ダイキライ"すぎるからだよ」
「…シズちゃんのくせに嫌がらせか、っん」

また何か臨也が言っているみたいだったがかまわず塞いでやった、今度は口で。

「シズちゃん、いま」
「なんだよ?」
「今日のシズちゃんおかしいだろ。だいたいキ、キスするとか"ダイキライ"でする嫌がらせではないよ」
「俺はお前と同じことを言ってるんだぜ?嫌がらせでも何でもないだろうが」
「へ?」

コイツは自分が狼少年のくせして自分の嘘が分からないとか世話ねえな。

「ま、じゃあ俺帰るわ。一応用事は済んだしな」
「ちょ、ちょっと!シズちゃんのくせにわけわかんない!!……っ帰るな!!」


狼は知っている
(お前の嘘は"ダイキライ"、俺の本当は"ダイスキ")



2010.0704


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