「誰がいい?」(和希受けCP無し)


「なぁ和希。王様と中嶋さんと成瀬さんと篠宮さん、誰がいい?」
「は?」
寮の夕食後。
今日は珍しく仕事も入っていなかった為、のんびり啓太と一緒に今日の宿題を片付けようと和希の部屋で参考書を拡げていた時の事だった。
啓太が躓いている箇所のヒントを出しながら問題集をあらかた埋め終わり、一息つこうと立ち上がった和希に啓太が突然そんな事を聞いてきた。
「えっと、話がよく見えないんだけど…?」
あまりに唐突な質問に、和希は首を傾げる。
それはそうだろう。
いきなり四人の先輩たちの名をつらつらと並べられて誰がいいかと聞かれた所で、どう返答をすればよいのか分からない。
だいたい、何を基準にして誰をどう選ぶと言うのか、それさえも聞いていないのだ。
なので和希は、
「そうだな、強いて言うなから、啓太がいいかな」
敢えて無難な回答を選んでみた。
啓太なら、一番大事で一番親友で一番好きな相手なのだから、どの問いだったとしても外れはない。
「わあい、ありがとう和希!」
和希の回答に啓太も一瞬喜びの声をあげる。が、
「ってそうじゃないよ。俺の事はどうでもいいんだよ」
すぐに思い出したように却下された。
「いや、どうでもよくないぞ?」
啓太が一番だぞ?
真っ直ぐな視線でそう訴えてみるが、
「うん、嬉しいけど、ひとまず俺の事は置いといて」
スパッと話題を切られた。
和希的には本気の言葉だったので痛い。その潔さが痛い。
そんな和希の気持ちなど全く気づかない様子で、啓太はさらに話を進める。
「もしも付き合う事になったとしたら、誰がいいかって話だよ」
「全員却下でお願いします」
啓太が言い終わると同時に和希はそれはそれは丁寧な土下座をして許しを乞うた。
冗談ではない。どうして自分が上記四名と付き合うとか、そんな話になっているのだ。
「て言うか、勉強しながらそんな事考えてたのかよ…」
「う〜ん、だって考え出したら気になって仕方なくてさぁ」
「だから、どうしてそんな事思い付いたんだよ…」
ガクリと肩を落とす。
啓太がMVP戦後から先輩である七条といわゆる恋人としてのお付き合いをするようになってから、どうにも悪影響を与えられているような気がしてならない。
幼い時、そして転校をしてきたばかりの頃のあの純粋無垢な啓太はいったい何処に行ってしまったんだろう…
何だか切なくなってジワリと目に涙を浮かべていれば、そんな和希を尻目に啓太はますます暴走していく。
「王様は和希の事をどんな事からでも守ってくれると思うんだ。中嶋さんはちょっと鬼畜っぽいふりをしてるけど、基本的にはピンチに駆けつけてくれる優しい人だし、成瀬さんは全力で和希の事を愛してくれると思う。篠宮さんはちょっと心配性な所があるけど、きっと最強の癒し系カプになれると思うんだけど…どう?和希?」
「ええと…ごめん、何言ってんの?」
だんだん啓太の言っている事の意味が分からなくなってきて、半泣きのまま和希は頭を抱えた。
なんだいったい。しかも最後の方に言ってるカプとか意味がわからない。俺でいったい何がしたいわけ?
「ほら、俺七条さんと付き合ってるだろ?それで和希が時々ひとりになっちゃうから、誰かと付き合ったら萌え…寂しくないんじゃないかと思って」
今、絶対に途中で萌えって言った…
和希の目が若干据わる。
「嘘だな啓太。俺に何か隠してるだろ?」
ギロリと睨めば、啓太はあからさまに目を泳がせた。
「どうせ七条さんに何か吹き込まれたんだろ?」
「いや、だって、だってさ!和希って目立たないようでいて実はよく見ると西園寺さんとはまた違った意味で美人さんだし、その上俺以外の相手には意外とツンデレ属性だし、実は理事長で歳上って言う秘密まである美味しい存在ですよね?って七条さんに言われてハッと気づいてさ。そしたらもう、俺に対しては攻めぶってる和希だけど、どうにも受けにしか見えなくなって、そう思ったら誰かとカプにしたくてウズウズが止まらなくて、色んな妄想してたらこれが近年稀に見る萌え!!これはもう本物を見るしかないよね!と思った訳だよ。あ、でも七条さんはごめんね、俺のだから。てな訳で和希!誰がいい!?」
啓太の目がキラッキラと輝いた。
それはもう楽しそうに一息で告げられたとんでもない妄想に、和希はただただ呆然とする。
どうしよう、俺の啓太が壊れていく…
て言うか、どうして俺が理事長だってバレてるの?
あの日仏人ハーフ、なにペラペラ喋っちゃってるの?
和希の心はもう大荒れだ。
だがとりあえず、これだけは突っ込みを入れておこうと和希はノロノロとその重い口を開いた。
「啓太はいつから腐男子になったの?」
啓太のキラッキラした目とは対照的に精気を失いかけた真っ黒な瞳で和希が尋ねれば、啓太は彼の恋人がよく浮かべるような静かな笑みを浮かべ、やはり彼のように人差し指をそっと唇の前に立てると、
「それはナイショです」
彼を彷彿させる口調でそう言って、真相をそのまま有耶無耶にした…

後日、七条の元に怨みつらみを綴った差出人不明の手紙が届いたが、オカルトマニアである彼には逆に喜ばれて終わったと言う…

「う〜ん、俺的には最近は成和がフィーバーかなぁ?」
「だからお願い啓太!俺で変な妄想しないで!(泣)」


(終)

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