ブースターと。 | ナノ

ちゅんちゅん。遠くで雀の鳴く声が聞こえてくる。いつもなら目覚まし時計の代わりとしてその声で起きるのだけど、今日は休日。もう少し寝れる。そう思って、音を遮断しようと布団に潜った私の耳に届いたのは、雀のそれとは違ってとても大きい鳴き声。

「きゅぅるりびぃん!」

「…っ!?」

思わず飛び上がった私が何事かと周りを見渡すと、楽しそうに鳴く声が下から響いてきて。まさかと視線を下げれば、予想通りと言おうか。体を揺らして笑うブースターがそこにいた。

「…ちょっと、なに笑ってらっしゃるんですか。あなたのせいで散々な寝起きなんですけど」

ひょい、と抱き上げて不満を隠さずに言葉にするが、目の前の安眠妨害犯は愛らしい瞳を薄めてくふくふと笑うだけ。
こいつめ、全く動じてないなぁ? 育て方をまちがえたかしら…。
彼がイーブイの頃からずっと一緒だったから、この悪戯っ子な性格は私のせいだろう。別に意地悪く接したつもりもないし、そうなるような育て方をした覚えもない。
こっそりと溜息を吐いて柔らかい毛並みへ頭を押し付けた。毛並みを堪能するため、頭をグリグリと動かす。ブースターは悪い気はしなかったらしく、さっきと同様に楽しそうに鳴いて私の匂いをかいでいる。

私のブースターは匂いをかぐのが好きなようで、何かと鼻を近づけて来るから困りものだ。一回、ニンニクの匂いが染み付いた姿で彼をボールから出した時は大変だった。まさか匂いで気を失うとは。

「きゅう、」

思い出にふけっていることがバレたらしい。不思議そうに声をかけてきたブースターに、「何でもない」と笑いかける。

「今日は休みだから、いっぱい遊ぼうか」

途端に綻ぶ表情。こくこくと小さな頭を揺らすのがとても愛らしい。

「あんたに見せたい子がたくさんいるの。みんなで遊びましょ」

しかし、続いた私の言葉を聞いた途端、表情は不機嫌なものへと変わって千切れんばかりに左右に揺れていた尻尾も元気をなくしてしまった。
理解が追いつかずに目を丸くしていれば、ブースターが軽くたいあたりをかましてきた。悲鳴をあげて後ろに倒れる。すっかり目を覚ましたというのにベッドへ逆戻りしても嬉しくはなく。とつぜん態度を変えたブースターが抱きついてくる背中を撫でる。

「…どしたの、遊びたいんじゃなかったの?」

「…きゅりびぃん」

どうやらもう遊びたくはないらしい。ふるりと力なくふられた頭に、何が原因で落ち込んでしまったのか分からなくて途方に暮れる。取り敢えず慰めておこうと背中をゆっくりと撫でる。心なしが震えているように思えて、そこで漸く落ち込んでいる原因が分かってしまった。

そうだ。このところ家に帰らず、新たな街に新たなポケモンと一緒に旅をしていて。それで、前に一緒に旅したポケモンは家にお留守番ってことになっていたんだ。ブースターは1番懐いてくれていたから、随分とさみしい思いをさせてしまったのだろう。

「そうね、じゃあ皆で遊ぶのは後にして…今は2人で遊びましょうか」

私の提案に勢い良くあがる顔。伺うように、だけど頬に朱をのせて見上げる姿にくすりと笑う。

「何して遊ぼうか、ブースター。なんだって相手してあげるわよ」

他のポケモンたちが起こしに来るのが少しでも遅くなれば良い。なんて申し訳ないことを思いながら、私は大事な王子様の鼻の頭に唇を寄せた。
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