24 | ナノ

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※五年→六年



「晴れてんなあ、」

数え切れないほどの星が輝く空に呟くと、白い息が目の前の光景の邪魔をした。鬱陶しくて、でも手を動かす気になれずそのままにしておくも、呼吸を止める訳にもいかなくて、白い息は耐えずに俺の視界の邪魔をし続ける。

「あー、さみい!」

上体を床におろせば顔だけが室内に入り、寒さが少し和らぐ。
わいわいと声が聞こえる隣の部屋に顔を向けて文句でも言ってやろうかと思ったが、自分がさらに惨めになるからやめた。声を出すために吸った息を小さく吐き出す。

今年で学園最後の年明けとなるため、六年生の大半は学園で年を明かすつもりらしく、さっきからあちこちで楽しそうな声が聞こえる。毎年帰省していた俺も例に漏れず、今年だけはとここにいるのだが…何故、皆といないのかというと。

「まさか、三郎が帰るとは…」

いつも一緒にいる面子の内、三郎だけが帰省してしまったのだ。皆で年を明かすものだと勝手に思いこんでいた俺は、あっけからんと規制をする宣言をした三郎に頭を抱えたものだった。

そして今、事情を知っている三人からの同情した目に居たたまれ
ずに自室に帰ってきたのだ。それでも諦めれずに外にいる限り、俺も女々しいななんて笑みをこぼしてみる。常ならば、何一人で笑ってんだと声をかけてくれる相手はいない。もういっそ、三郎の部屋で年を明かしてやろうかと腰を上げかけた時。足元に矢が飛んできた。

「うおおっ…!?」

間抜けな声をあげて後ずされば、今度は足を払われる。咄嗟に受け身をとって転がり、立ち上がろうとしたところで何かが正面から勢い良くぶつかってきて、また床に転がった。

「な、なんっ…」

ぐるぐると頭の中がかき回されている感覚を味わいながら、ぶつかってきた誰かの正体を確かめようと上体を起こせば、目を手で覆われ、何も見えなくなる。その手を払おうとして触れた途端、だらしなく開いていた口を、塞がれた。しかしそれも一瞬のことで、その柔らかいものは直ぐに離れていった。だが、それはまた俺の口を塞いできた。先程とは違い、長く、何度も角度を変えて。目に触れていた手はいつの間にか首に回っていて、目を開けて確認することはできたが、もう必要ないことだと目を閉じたままそこにあるだろう腰に手を回す。暫くそうした後、それがゆっくりと離れていくのを感じて目を開ける。想像していた顔はなく、だけど想像していた彼の鬘が見えて。ぐりぐりと額を押し当ててくるのに笑ってしまいながら、その頭を撫で回した。

「明けましておめでとう、三郎。去年の最後に会えたのがお前で、今年の最初に会えたのがお前で、嬉しいよ。」

俺の腕の中の彼は、俺の言葉に応えることはなかったが、こくりと小さく頷いたのだった。



年の終わりと、年の始めに二人きり
それはとても幸せなこと。