※シンにょたちゃんの名前は伸花(シンカ)ちゃんとさせて頂きました。




アスファルトをスニーカーで踏みつけながら歩く。あっつい、と呟いてみても誰も言葉を返す人間はいない。携帯は丸ごと置いてきたからいつも騒がしいエネすら傍にいない。

真夏の太陽光がじりじりとしかし確実に体温を奪う中自宅警備員を自称するオレが何故外出しているかと言うと、理由はエネ、いやエネミーの一言にあった。

「ご主人、最近太りました?」

と。女子に向かって禁句な一言をあっさりと言いおったのである。

それに激しく動揺したままエネに食ってかかったのが悪かった。
売り言葉に買い言葉(のように話を運ばれた)、気がつけば上手く調子に乗せられて、自他共に認める引きこもりのはずが外に出かけて運動することになっていた。運動というより散歩だけども。

それにしても暑い、と考えた瞬間に目眩が襲いかかる。思わず道の端に寄ってふらふらとしゃがみこんだ。汗で濡れた首の裏に張り付く髪の毛が鬱陶しい。

こんなことになるならエネを連れてくれば良かった。後悔していると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「シンカちゃん?」
「え…」

怠い頭を持ち上げると心配そうに駆け寄ってくる恋人の姿が。カノは手にしていたペットボトルをオレに押し付けて眉をひそめる。

「どうしたの、熱中症?だから日頃運動した方が良いって言ったのに…」
「ん…、分かってる」

今更になって痛いほど。

苦笑気味のカノから視線を外して、どう見ても飲みかけのペットボトルを見つめる。
これって間接キスって奴だよな、と浮かぶ思考には気付かない振りをして中身をあおる。

喉を潤し、ほっと息をついていると、突然。
膝の裏にカノの手が差し込まれた。背中にも手が当たる感触がして、次にはふわりと浮遊感。

「行き先、アジトでいい?」
「わ、ばか!やめろ、下ろせ!」
「うわっ、ちょっと暴れないでよ!」

いわゆるお姫様抱っこで抱え上げられ、大慌てでじたばたと暴れる。なんせ、今朝方「太った?」なぞと言われたばかりだ。
カノがよろめいているのは重いせいじゃなくてオレが暴れているせいだよな。ねえ神様、そうだと言って下さいお願いします。

「下ろせ、下ろせってば…」
「どうしたのさ。いつもは照れつつもすぐに諦めるくせに」
「………。べ、別に何でも」
「いやいや。何かあるね、その顔は。そもそも君が一人で出かけてる時点で妙だよね。エネちゃんいないみたいだし」

その通りではあるが、失礼な。

しかしながら、じとお、と眺められれば答えずにはいられない。見た目で何となく分かる通り、結構ねちっこい性格をしているのだ、こいつは。「何か失礼なこと考えてない?」という声は幻聴だろう。

「…あのさ」
「うん」
「エネに言われたんだよ…。その、ふ、太ったって」

目を伏せ気味にして見上げると、カノはぱちぱちと目を瞬いた。それから数度オレを抱えたまま腕を数センチほど上下させる。重さを量るような行動に顔を覆ってやめてくれ、と言いたくなった。

「んー、そんなこと無いと思うけど。見た目も特に変わってないし。なんなら直接確かめてみよっか?今日の夜に」
「死ね」
「わあ辛辣」

ぎろ、と睨みつけるとカノは少しも堪えていない様子で笑い声を上げた。

「でもさ、ちょっと外に出ただけで倒れられちゃ僕が心配なんだよね。もっと体力付けなきゃ。ね、これからは運動頑張ろう?」

体重よりそっちの方がよっぽど重要だよ。いつもより僅かに真剣な声音で呟くカノの胸に顔を寄せる。
何だよ、そのイケメンぽい台詞は。かっこいいとか思っちゃうじゃんか。逸る鼓動が伝わりませんようにと祈りながら頷いた。

「あれ、珍しく素直」
「うるさい。………それに、お前に嫌われるのは嫌だし」

ぼそりと後半部分を付け足す。赤くなった顔を見られないよう、ペットボトルを握った手の甲で顔を隠して。と、カノがぴたりと足を止めた。

「…?」
「ねえ、シンカちゃん。やっぱり今日泊まってかない?」
「死ね」
「わあやっぱり辛辣」

たまにデレたと思ったらこれだもんな、と肩を落として嘆息し、カノは落ち込んだ素振りでとぼとぼと歩き始めた。実にわざとらしい。

正直言って体力はどうでもいいけど、これ以上太ったらちょっと困る。ちゃんと運動はしないとな。よし、明日から本気出す。「それ絶対やらない人の台詞だよね」と聞こえたのは幻聴だ、きっと。




---------------------

一番の敵は自分です


朔さまリクエスト、カノシン♀で甘めの話でした。あ、甘いのかな、これ…。
ちなみにエネの「太った?」ていうのは伸花ちゃんを外に連れ出すための嘘です。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -