ちょっとした出来心だった、と言い訳したい。

最近何かとあいつは忙しいらしくて。そりゃ幾つものバイトを掛け持ちしているセトほどじゃ無いにせよ、ヒキニートのオレに比べればあいつの方が忙しいに決まっている。

あいつになかなか会えない日々が続いていて―その、正直なところを言うと寂しかったのだ。
だからアジトに誰もいないのを良いことにこっそりカノの部屋に忍び込んでみたり、ベッドに寝転んでみたりしたとしても仕方がないと思って欲しい。

いつの間に寝入ってしまったのか、ゆさゆさと体を揺さぶられて目を開ければ窓の外はすっかり真っ暗になっていた。で、目の前にはカノの顔があった。

そんなとんでもない状況に慌てて起き上がったのが、つい今しがたのことである。

「あ、あの…勝手に部屋に入って悪かったな」
「いや、別にそれはいいんだけど。シンタロー君、それは…」
「へ?………げっ」

カノが指さしたのはオレの胸の辺りだった。何だろうかと目線を下に遣ってオレは硬直する。

腕の中に、枕元に畳まれていたはずのカノのパーカーが抱きしめられていた。枕元には代わりにオレがいつも着ている赤ジャージが畳まれて置いてある。

「ここここれはだな!だ、抱き枕がわりに!思わず!意図せず!」
「ふうん?」

赤面しながら大慌てで言い訳する。カノの匂いがして落ち着くからとか寂しさを紛らわせるためとか、間違っても言えるか。

こちらを覗き込むように見てくる視線にいたたまれなくて目を逸した。と、カノが何やら納得したように一つ頷く。

「彼シャツならぬ彼パーカーか。…ふむ」
「お、おい、カノ?いきなり何言って…」
「シンタロー君。それ、着てみてよ」
「はあ…」

よく分からないが勧められるままにパーカーを羽織る。ちょっとサイズが小さいと思ったのは内緒だ。

「あー…、中の半袖は脱いでくれた方が良かったな」
「ちょっと言っている意味が分からないんだが」

それはつまり裸ワイシャツ的なアレか。男のオレにそんなことさせて何が楽しい。

提案をぺいっと切り捨てて睨みつけると、カノが何やら思いついたようにぽんと手を打った。

「あっ、どうせならこのまま彼パーカープレイとかどう?」
「ばっ…!誰がやるか!」
「えー。…駄目?」
「…っ!」

―あざとおおお!

わざとらしく小首を傾げてみせるカノを見ながら心の中で叫ぶ。間違いなく確信犯なのは分かっている。
けれどオレはカノのこういう仕草にとことん弱いのだ。例えわざとだと知っていようとも。

深々と溜息をついてみせれば憎らしいことにそれが了承だと伝わったようで、カノが嬉しそうに笑って手を伸ばす。しかし早速押し倒そうとするかと思った腕は、まずオレの体を抱き寄せた。

「…寂しい思いさせて、ごめんね」

「ん、…いいよ」

囁いたカノの首に腕を巻きつけて、敵わないなとオレは小さく笑った。



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香りと温もり


匿名さまリクエスト、彼パーカーの話でした。


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