視線の先には赤色。いつものように感情の読めない瞳がこちらを見下ろしている。
「ダメ、シンタロー」
「うっ」
起き上がろうとしたらすかさず額を押さえられた。後頭部がコノハの膝の上に戻る。
コノハの目の前で、多分睡眠不足からくる目眩に襲われてよろめいてしまった、その結果がこれだ。まさか男に膝枕をされることになるなんて。三十分ほど前の迂闊な自分を悔いる。
最近は提出期限の差し迫った妹(アホ)の宿題に昼夜付き合わされていて、おかげで寝る時間がほとんど無かった。
そんな修羅場を乗り越えて早々、パソコンの中のエネミー、もといエネが暇だと喚き立てたため、疲れた体を引きずってアジトに来た、そこまでは良かった。
主にエネにとって誤算だったのは、アジトにコノハしかいなかったということ。それを知るや否や、あいつはここまでやって来たオレの苦労を全部無駄にして逃げ出した。
それで今、オレはコノハと二人きり。そして、コノハに膝枕をされている。
「寝ないの…?」
「いや…お前さ、男に膝枕して楽しいか?」
「うん」
ことりと首を傾げたコノハに呆れ顔で問えば、間髪入れずに頷かれた。
「嬉しい…よ。シンタローのこと独り占め出来る、から」
「…。あ、そ」
そりゃどうも。なんだか妙に気恥ずかしくなって、適当な返事と共に目を伏せる。やはり相当疲れていたようで、すぐに睡魔が襲いかかってくる。
おやすみ、と声が聞こえた。それに続けてもう一つ。好きだよ。思わず目を開けると大きな手が視界を遮った。
「………ばか」
起きた時にどんな顔すればいいんだろうか。真っ暗な中、もやりと考える。とろとろと混濁した意識で考えても何も浮かばない。
まあ、起きた時の自分に任せるか。睡眠に身を委ねることにして、幾分か強ばっていた体の力を完全に抜く。
珍しくコノハが笑う気配がした。ふと手を伸ばすと、指先にその指が触れて絡んで。
そこから先は、もう覚えていない。
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棘を脱ぐおやすみ三秒前
蜜柑畑さまリクエスト、寝不足シンタローにコノハが膝枕をしてあげるほのぼの話でした。