卒業式が近くなった。
受験も一応終わった。
昼間が暖かくなってきた。
皆が別れを惜しむようになってきた。
八芝はもてる。
一年の時とか、『8組の八芝君はかっこいい』と話題だった。
3年間で何度か、八芝に告白する女子を見た。
クラスには休み時間になる度に他のクラスの女子がのぞきにきた。
イケメン・・・がいる他のクラスもこんな感じらしい。
俺も知らない女子に何度か話かけられ、アドレスを教えたりしていた。
そんな風にして卒業式前の平日はすぎていった。
卒業式ってもっとだるい感じかと思いきや、意外にすぐ終わった。
教室に戻るとたくさんの女子が泣き出した。
気づけば最後のホームルームがはじまっていた。
俺は八芝をながめていた。
担任はいいやつだった。最後までいいやつだった。
ホームルームが終わった。
各々が別れを惜しむ。
デジカメ、ケータイ。なんらかの形で皆、自分たちを思い出の中に押し込んだ。
八芝は女子に写真を頼まれていた。
俺も頼まれた。最後の教室、学校、あまりゆっくりしている暇はなかった。
女子たちの喧騒も一段落。八芝をさがしたが、姿が見えない。
八芝が好きな別の校舎の裏に俺は向かった。
行かなければよかった。
久々に見た、八芝への告白シーン。
俺は思わず息をのむ。
女子の声が聞こえた。涙声だった。
甲高い声で俺の八芝に何かを言っていた。
八芝が女子をだきしめた。
息をするのがつらくなって、俺はその場からかけだした。
失恋ユートピア
(それは感じた、確かな心のいたみ。)