▽ドライアイ(刻神) 「神峰が部活を辞める?」 なんでもしばらく入院する、と両親から連絡があったらしい。谺先生がお見舞いに行くから病院を教えてくれ、と頼んでも本人が面会を拒絶しているから…の一点張りとのこと。 面会拒絶?もそもに入院って?何か大きな病気か? 「あたしこの前、神峰さんにそっくりな人見たんだけど…」 「え?」 突然こぼれた『神峰』という名前。モコのお見舞いでまさかその名前を聞くことになるなんて… 「ど、どこで見たんですか?」 やばい、正常でいられない。らしくもない敬語を使ってしまった。 「そのまんまの意味なんだけどさ…中庭で車椅子に乗ってたよ。もしかしたらそっくりさんかもしれないけど…」 面会拒絶、連絡も両親からのみだったのに思わぬヒントを得ることになった。 あとは… 「音羽先輩。」 「…なんだ。神峰の病室なら俺は知らないぞ。」 そうか…いくら音羽先輩といえども知らないか…思わずがっくりと肩を落とす。 「地道に病院に通えば会えるかもな。俺も神峰らしき人は見かけた。」 「ほんとですか!?」 それから僕はモコが見かけたという中庭に毎日通い込んだ。毎日毎日、面会の時間が終わるまで中庭に通った。それまでに神峰が退院した、という話を聞かないあたりまだ入院しているのだろう。 今日は試験期間でいつもより早く病院に訪れることができた。 いつものように神峰は、神峰らしき人はいないかと視線を配る。 病棟から車椅子に乗った、車椅子を後ろから押された神峰らしき人があらわれた。 面会拒絶、とは言っていたがもう抑えられない。あれは神峰だ。神峰らしき、じゃなくて神峰だ。 「神峰!!!」 びくっ、と神峰が揺れる。車椅子を押している看護師さんも驚いている。 「神峰、どうしたんだ?部活辞めるなんて。それに…「あの、お友達ですか?神峰君は…」 矢継ぎ早に話ていると看護師さんに遮られる。一方的にしゃべりすぎてか、神峰は怯えているように見えた。 「あの、こいつと俺を俺の病室に…つれてってください。」 神峰がそう頼むと看護師さんは『本当にいいのか』と神峰に尋ねる。神峰が頷き、車椅子の後をつけていくことになった。 「えっと…刻阪、だよな?」 「そうだよ。突然ごめんね、驚かせて。」 「いや、いいんだ…」 神峰はベッドに腰かけたまま俯いている。神峰、神峰。聞きたいことがありすぎるよ。 「あのな、刻阪。」 神峰がおもむろに切り出す。 「俺、目が見えないんだ…」 突然の告白に何も言うことができなかった。 神峰が部活を辞めると聞いたとき以上の衝撃だ。目が見えない?なんで?見えないというのは?心が見えないだけ? 「突然驚かせてごめんな…俺、もう目見えないんだ。だから相手の心も見れない。」 淡々と神峰は語る。 色々な人の心を見すぎて神峰自身の心が折れてしまったらしい。そして心を見ないために、神峰は視界を閉ざしたもちろんりリハビリをすれば目が見えるようになる可能性は高いらしい。 「俺さ…目見えなくなってから色々な音が聞こえるんだ。人の話し声とかよく聞こえるし動物の鳴き声もよく聞こえる。だから中庭によくいたんだよ。色々聞こえるからな。皮肉なもんだよな…目が見えないから音が鮮明に感じる。少しだけ伊調の言ってたことがわかるような気がしたんだ。」 ぽろぽろと神峰の瞳から涙がこぼれる。神峰は涙を流していることに気づいていない、いやもしかしたら涙を流しているのもわからないのかもしれない。 「ごめんな、刻阪。だから俺、部活辞めるわ。」 本人の口から溢れた言葉にもう何も言えなかった。 ---- 伊調くん可愛いです! 心見えるのってつらいことの方が多いよなぁ 2013.7.27 |