たにんのこもかわいいのです
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「おやおや、これが巷で流行りの育児放棄というやつかねえ。まったく荒れた世の中になったものだ。人の世も、あやかしの世もおんなじようなものさね」

さあ、はやく生まれておいでな。わたしもいい加減独り身というのもつまらんと感じていたところ。ここで死んでしまうのは、お前たちも拙いだろうよ。


冷たい殻の外からやんわり伝わってくる温もりが心地よい。何か聴こえたような気もするがまだまだ形成途中の耳は自分の心の臓が脈打つ音しか拾えなかった。どくんどくん、と先程までとはうってかわって強く刻み始めた鼓動にまだ生きられる、生まれることができるのだとからだが熱くなる。殻を叩く嘴に力がこもる。


はやく、この温もりをもつあなたに会いたい。




「泰麒たんまじかわゆす」

「第一声がそれとは如何なものか」

傲濫と名をよばれた饕餮が黒髪の男の児を後ろに庇いながらぐうと喉を鳴らす。先日わたしがきれいにしてやった毛皮にさらに艶があるように見える。元気でやっているらしい。

「お前のことだから女怪にでも虐められてるんじゃないかと」

「そんなわけ」

「汕子はそんなことしないっ…です」

饕餮の後ろで銀糸の髪の美情夫に腕に抱かれていた薄墨色の布を体に巻いた男の児、泰麒がひょいと弾みをつけて地に足をつける。白い裸の足でこちらに寄ってくるのを静かに見ていると、女怪が彼の前を阻むように躍り出た。あらあらまぁまぁ。

「わたしってばそんなに凶暴そうな顔をしていたかい?」

「はあ、まあ初対面の方には怖く見えてしまうかもしれませんね」

「そうねそうね、ぼくは鵺様のお顔凛々しくて好きだけどね」

「鷸、愛い愛いの」

「ぼ、ぼくだって鵺様の尻尾の蛇の頭の先まで大好きっすもん」

「鷺、愛いのう」

私のとなりに立つ鷸と鷺に愛い愛いとぐりぐり鼻先を擦り付けていればあのう、とどこか腰の引けた泰麒がわたしの正面、三足程前で眉を垂れさせている。少しだけ吊った大きい子供特有の黒目にわたしがうつった。彼の少し後ろに諌められたのであろう女怪がなにかあればすぐにでも飛び出せるような姿勢を保ったままこちらを睨む。おお、こわい。

「さて、話をするにしてもここは泰麒には寒かろ」

「え…」

泰麒たちがなにか言う前に泰麒の首根っこの布を噛んで背中に放る。麒麟とはこんなに軽い生き物なのか。存在はあれほどまでに重いと言うに。しっかり掴まっておいでよと泰麒に言って凄まじい表情でこちらに向かってくる女怪と美情夫に急いで背を向けた。久方ぶりの走りでも一介のものどもが追い付くには無理がある。ひょいと宙に跳んで頭だけを後ろに廻らせ口を大きく開いた。


「小さい子はすべからく正義。なあに喰いはしない、ゆるりと追っておいでな」

「泰麒っ」

「驍宗様、大丈夫ですっ」


だってこの方の目は、汕子がぼくを見る目と同じですもの





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