小説4 | ナノ

5 1秒もなくなった一人の時間(かげやち)




※大学生くらい。お付き合い済。





「お疲れ様、谷地さん」


始めた最初の頃に比べれば、ミスをすることもだいぶ少なくなったバイト。
今日もつつがなくとは言えないまでもなんとか大きなミスをすることなくシフトの終了時間を迎えている。
そして店長がお疲れ様と前述の言葉を言った後に「いつもの人が待ってるよ」と言い添えた。
いつもの人ーーそれはつまり私のバイト終了を待っている影山くんである。
バイト先の先輩、後輩、店長にいたるまで彼との関係性を説明するまでその目つきの鋭さが災いして『谷地仁花についているストーカー』扱いだった。
あんな畏れ大いストーカーとか…慌てて説明したらしたで彼の評価は『谷地仁花についているSP』へと変な昇格を果たしていた。
(彼氏さん、なんだけどなー…)
それもこれも彼がバレーの練習の合間で私がシフトに入っている時なんかはお店に御客としてやってきてくれるのが大いに付加されてるんだろう。



「影山くん!お待たせしました!」
「いや、気にしなくてもいい」


従業員口から出ればガードレールから腰を上げてチワス、と体育会系なご挨拶。
それにチワス!と敬礼つきで答えれば静かに「お疲れさん、す」とちょっと照れた様に労ってくれるから嬉しくなる。
特に人を褒めたり労ったりというのが彼の少し苦手分野だと知っているから。


「あ、うちに食材あんまりないんだー」
「じゃあ、買いに行こう」
「いいの?練習合ったのに疲れてるのでは…」
「谷地さんを一人で買い物行かす方が俺は嫌だ」


こうやって気遣って一緒に居てくれる。
それだけで高校の頃とは違う、大事にされてるというのを感じて恥ずかしくて嬉しくなる。
じゃあ、何食べたい?と付き合ってくれることに返そうと私は会話を続けるのだった。







…谷地さんは、でっかい勘違いをしているのだと思う。
でも俺は敢えてそれを指摘しない。コウツゴウというものだ。
さっきの食材の買い出しだって「一人で行かすのがいやだ」と言った。
言葉としては間違っていないけど谷地さんが捉えた優しいだなんて生易しい意味じゃねえ。
ただ、俺の知らない谷地さんがいるという事実がすんげえ嫌なだけ、それだけ。
そりゃ、谷地さんの母さんとかには適わないのは知っているけどそれ以外で谷地さんを一番知ってるのは俺でいたい。
そんな我儘だ。
だから谷地さんが一人で行動したという事実は極力なくしてえし許せない。
勿論危ない目に合わせたくないのもある。
ただ、その裏っ側にある、俺のなんつうの、ドロドロしたのを見透かされては困る。
だから言葉少なに彼女の日常に寄り添って、1秒でも奪っていく。

ああ、彼女全部、俺のモン。



(二人の認識の差の話な筈だった)




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