小説 | ナノ


▽ 疑心暗鬼 / かげやち







ぱらり、と辞書をめくる。
か行の前の方、き。濁点だから少し後ろ。
探す項目を見つけたので読んでみる。


ぎしん-あんき【疑心暗鬼】

疑いの心があると、なんでもないことでも怖いと思ったり、疑わしく感じることのたとえ。疑いの深さからあらぬ妄想にとらわれるたとえ。疑いの心をもっていると、いもしない暗闇くらやみの亡霊が目に浮かんでくる意から。▽「疑心」は疑う心。「暗鬼」は暗闇の中の亡霊の意。「疑心暗鬼を生ず」の略。


(…やっぱりぴったり当てはまってしまった…)
ため息とともにぱたんと両手で挟み込むように辞書を閉じる。
そこに今当てはまってしまった気持ちも挟んで潰して無くなってしまえばいいのに、なんて思う。
あらぬ妄想、そう、きっとあらぬ妄想なのだ、彼が、その。
世間でいうところの浮気なるものをしてるんじゃないかという。
私、谷地仁花が彼ーー影山くんの彼女という烏滸がましい地位にいるのがきっとちょっとおかしいのはこの際脇に置いておく。
なんだか、最近おかしい。


連絡も、そりゃあ彼はそんなにまめな方じゃないでしょうが返信はしてくれるんです、必ず。
ああとかうん、とかとても簡潔であっても。それが最近あんまりないし、会う回数も減っている。
私も彼も大学入学を機に上京したから遠距離というわけでもない。
まあバレーが忙しいのは前からだし、それでも時間を作ってくれていたというのに。
(…飽きられてしまったのか…思ったより早かった…)
東京の洗練された女子たちを見たら致し方ないのかもしれない。
それなら最後は未練たらしい女でないようにしなければ…とっても、とっても悲しいけど。


うだうだ考えていたらぴんぽん、とチャイムが鳴る。
?と来客予定がなかったので?マークを頭上に飛ばすともう一回なる。
ぴんぽん、ぴんぽん、ぴんぽん。
連打、された。怖い。ついにアサシンが我が家に。
おそるおそるドアスコープを除けばそこは今まさに考えていた彼が立っていたので二重の意味で驚く。
慌ててあければなかば倒れるように入ってくる彼。
(…お酒?のにおい?)




「…よかった、ちゃんと、いた」
「うえ?」
「けーたい、いじると、いつも、だれだとか、しょーかいしろとか、いうから」
「だ、誰がですか?!」
「せんぱいとか、どーがくねんのとか、うるさい、…やちさんはおれのなのに」
「も、もしかしてそれで返信…」
「ちゃんといえに、いた、だれかんとこいってなかった」
「かげやまく、」
「おれから、はなれたら、いやだ、…」
「え、あれ、かげやまくん?」



ぐう、という声が肩口から聞こえる。
も、もしやこの不安定な体勢で寝てしまわれた…?!そして今までの言葉を総合すれば私の疑心暗鬼の元は(この上なく自信過剰ですが!!!)私が、取られないようにしての、行動…!
ひええ、と元から彼の体重の加重に不安定だったのに腰が抜けてしまい2人ともども玄関で座り込む。
どうしよう、酔って寝ていらしているとこ大変申し訳ないのですが、早く起きてこの私の傲慢な予想があっているかどうかの答え合わせをして下さい…!!!



―――いらぬ疑心暗鬼





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