小説 | ナノ


▽ 学校帰りに、ひとかけの / かげやち





緩やかな下り道を降りていく。
隣には王様と称される部活仲間の影山くん。
けど王様だなんて言われているけど、彼は少し優しさというものを表現するのが苦手なだけなんじゃないかなと私は思ってたり。
この間も「悪い、速過ぎた」と歩みを遅くしてくれた。
(私と彼のコンパスの差はどうしても埋めがたいものなので…申し訳ない)
大体において自主練にお付き合いした後は毎回ちゃんと送って下さる。
それが先輩方に言われたことであってもその気になれば私なんぞほっぽりだして帰ってもいいのに。
歩み寄ってくれるというのはこんなに尊くて嬉しいものなんだ。



「影山くんのなんていうんですか、トスを上げる音?すごいよね!」
「…?そうか?」
「シュッ、って鋭い時もあるし、ふわっと優しい時もあるし…その時々の使い分けっていうのか…」
「ああ…でもまだ一定に使いこなせてねえ」



まだまだだ、と悔しそうに言う彼にはストイックという言葉がとってもよく似合う。
そして私もできる限りお手伝いせねば!と気持ちを新たにするのです。









「あの、谷地さん」
「はい?」
「腹減って…坂ノ下、寄っていいすか」
「!はい!全然どうぞ!」



すんません、と短く謝ってからお店の中に消えていく影山くん。
そりゃああれだけハードな練習をこなした後だからお腹すくよね…でも夕飯もあるのに男の子ってすごいなあ。
暫くするとガラ、と肉まん片手に彼が出てきた。
もぐ、と口に含んでから行こうとくぐもった声が聞こえてくるので食べ歩きのようです。




「ふわあ…美味しそうな匂い…私も食べたくなってきた…」
「…え、あー…」
「!!!や、ちが、スミマセン!決してその影山くんの頂いてるやつをもらおうだなんて思っていません!」
「…そうか?」
「はい!ちが、違います!だってそんなの、」





だってそんなの、間接キスとやらになってしまう。
その言葉はすんでのところで飲み込んだ。何処で影山くんファンが聞いているか分からない。
そして聞かれてしまったら暗殺され臓器を取り出されて売買に出されてしまう…!




「そんなの?」
「いや、あのその」
「…谷地さん」
「ふぁい?!スミマセンごめんなさい大体において私が隣に並んで歩くだなんて畏れ多いことでしたあああ!」
「?何言ってんだ」
「…へえ?」



目をつぶりながら絶叫しつつ謝れば何をと彼から返って来た。
その言葉におそるおそる目をあければ、そこには肉まんの、…かけら。



「…そこは、口つけてねえ筈だ」
「で、でも」
「練習、付き合ってもらったから、谷地さんも腹減ってるハズだ…俺、そこまで頭回んなくて」



あと今月金もあんまねえからおごってもやれねーんだけどと言いながらずいと肉まんが私の目の前に更に押し出される。




「いつも、あざっす」
「!!い、いいえっ」
「それと、」
「?」
「これらも宜しくっす」
「!!…こ、こちらこそっ、お願いシャス…!」



肉まん片手に私はこれからをまた、決意するのだ。
何より、こちらこそお願いしますと言った時、影山くんが少しだけ、ほんの少しだけかもだし私の妄想かもだけど嬉しそうにしてくれたから。
私の表情筋も緩んで喜びを形作るのだった。




(不器用な優しさを肉まんひとかけに入れときました)





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