小説 | ナノ


▽ ある飲み会の話 / かげやちと烏野1年たち







お題:『二人とも26才の設定で付き合っていないけど甘々な雰囲気のかげやち』


(…これは、つっこんだ方が良いだろうか。)
そう、月島蛍はくいとビールを傾けながら考える。
彼は昔から聡くて賢くて人の機微を読むのに長けている。
まあ、それをいいように使って嫌味を言ったり煽ったりするのが常なのだが。
そんな質でもあるし、神経質でもある。人の色んなものが見えやすく、気にする。
が、大抵はシャットアウトが彼の信条でつつき甲斐のある彼にとっての面白味のあるものが気になる対象となる。
が。
今思案する内容は、結論としてはつついたりつっこんだりしたら多分非常に目に見えて面白くないというか、こちらが火傷するというか。
対象人物は、影山飛雄と谷地仁花。…彼のかつてのチームメイトである。


今日は烏野高校バレー部の同期での同窓会…という名の飲み会だ。
日向、山口、月島、影山、谷地。全員揃うのは稀なことで話題に欠くことはない。
取り分け日向と影山に至ってはプロの道を歩んでいるとあって山口が熱心に聞き出し盛り上がっている。月島も最初は(解りづらいが)彼らの話を純粋に楽しんでいた。
が、影山と谷地のある所作を境に話よりそちらの方が気になり始めた。
…大体初めから何かがおかしかった。



「じゃあ皆最初はビールでいい?」
「あ、ごめんね山口くん、私はカシオレでいいかなあ…あと影山くんはウーロン茶で」
「そうなの?」
「うん、影山くん下戸だから…いいよね?」
「おう」
「ヘェ。王様ったらお酒弱いんだ」
「うっせえ!」


その時はからかいに転じてしまっていたが谷地が影山が下戸であることを把握しているという時点で違和感としてとらえるべきだった。
その後も、


「はい、サラダ」
「ん」
「あ、レタスも食べないとダメだよ」
「…分かってる。谷地さんはこれ、唐揚げ」
「あっありがとう!」
「レモンかかる前だから谷地さんも食えると思う」
「わあ、助かります!」


などなど。
最初親子かと思ったが、雰囲気の出し方がどちらかと言えば夫婦のそれだ。
そして冒頭の様に(つっこんだ方が良いだろうか)と月島が思うようになるのである。


「…日向」
「なんだあ?」
「王様と、谷地さんて」
「おお」
「…付き合ってんの?」

状、一番二人に詳しいと思しき日向に問い合わせてみる。
が、答えはある意味期待通りというか「分かんね」である。
(…使えない)と声に出さず嘆いたのだが日向には伝わってしまったらしく「直接聞いたらいいだろ!」と悪態をつかれた。
その直接聞いたらいいだろ!が聞こえてしまったらしく、谷地がどうしたのと会話に割り込んできた。



「えっとさー谷地さん」
「なあに?」
「月島がな、影山と谷地さんって付き合ってるのかって」
「へ、え」
「ド直球過ぎデショ…」
「え?だって他にどうやって聞くんだよ」
「付き合ってねえ」



意外にもその問いに答えたのは影山の方だ。
…サラダを口いっぱいに頬張りながらの答えなのでいささかくぐもってはいたが。
山口も付き合った上でのあの息の合いようだと思ったのか「え?そうなの?」と言葉を漏らしている。
サラダを咀嚼し飲み込んだ影山はでも、と今度ははっきりと分かる発音で続けた。


「付き合ってはねえけど俺の嫁さんにはなる、谷地さん」
「…は?」
「え」
「うえ」

(いや、意味不明だろ)とは多分影山を除く男子全員の総意だろう。
付き合ってはない、が嫁さんにはなる。やっぱり意味不明だ。


「か、か、かげやまくん!」
「何で。そうだろ」
「そう、そうだけど!」
「婚約期間は付き合うにはいんのか」
「いやあのえっと」



いや入るだろ、なんで婚約期間≠付き合っているなんだ、とやっぱり影山と谷地を除く全員の考えは一致した。
そして言うべきことは1つである。


「…ていうかそういうことは最初に言いなよね」


(まったくバカップルめが!)



*着地点がずれすぎだろうというお叱りは受けます。すみませんでした。




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