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▽ 血ですら




※同棲か通い妻谷地さんで。


あ、と言う声を聞いて振り返れば谷地さんの細い人差し指から血が垂れている。
包丁の目測を誤ったのだろうか。
…料理が得意な筈な彼女にしては珍しい。
のそのそと動いて(絆創膏も持たず)何気なく背後に立つと、人差し指にはぷっくりと血が盛り上がっている様子が解る。
それは彼女が生きている証だ。
俺の影に気が付いて彼女が振り返る前にその手を取り指を口の中に迎え入れる。
じんわりと広がる鉄の味を感じながら、もっとという様にじゅ、と啜る。
下からはひ、という蛙が引き潰れたみてぇな声が上がっているけど構うものか。


(…だってよ、)


消毒のためだろうとなんだろうと、水にだって消毒液にだってと谷地さんの血を遣るのは惜しい。
…全部まるごと、俺のものだ。


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