▽ テーピングと巻き込まれた田中センパイ / かげやち
高校生 / かげやち未満と田中センパイ
扉の向こう側は我らが第二体育館。そう、即ちバレー部の神聖な練習場所である。
が、その向こう側から聞こえる声に俺は入れないでいる(俺こと田中センパイだ)
声の主は1人は影山でもう1人はやっちゃんなんだが、なんとも。
なんともアレだ。
(アレってなんだって問われればそれはもう察してくれの世界だ。いたいけな16歳の男子高校生に何言わせる気だ)
2人の息遣いと声が扉の隙間から聞こえる。
『…っ、谷地さん、そんなに締め付けんな、きちぃ…そう、緩めて』
『あ、ご、ごめんなさ、こ、こう…?』
『そう、…ああ、それくらい、の強さで、そのまま』
『うぅ、難しいよお…こお…?』
『!ちが、いて、また締めすぎだ…!』
『あっ、あ、ごめなさ…!』
『焦んな、俺の言う通り、して』
『うん…』
おいおいおいおい。いやいやいや。なにしてんだ。本当。
これは、いろいろとマズイんじゃなかろうか。
聞いてはいけないことを聞いてしまったというか。
ダメだ、止めなければと脳裏によぎる。…これは最早使命だ。
こんなところもし潔子さんが目撃でもしたら…!
やっちゃんを可愛がってる分、どんなにショックを受けるか…うし。男田中、行くぜ!
グッと扉に手をかけて、バン!と開け放ち中に突入する。けして苛ついたとかではない!断じて!
ていうか神聖な体育館で何してんだ!と中に飛び込めば影山とやっちゃん。
…が。居た。
俺の突然(であったろう)突入に吃驚した表情でこちらを見ている、が。
やっちゃんが影山の指とテーピングを持って固まっている。
(…って、テーピング?)
影山が「ちす、」と挨拶をしたところで我に返り、声を絞り出した。
「お前ら、何、やってんの」
…何とも情けない声だなおい俺。
「…ああ。谷地さんがテーピングの練習したいって」
「そ、そうなんです!中々清水先輩のようにいかなくて…」
あわあわしながらやっちゃんがややノビノビになっているテーピングを持って慌てている。
それを見ながら影山がのびるからと宥めていて実に平和な風景が広がっている。
ああ、そうか。体育館は神聖なままだったか。それならいい、いいんだが。
なんというか…あの背徳感と高揚と俺の使命感を、返してくれと、言いたい。
「…大丈夫すか、田中さん」と影山に気遣われる位には今俺は疲れた表情なのだろう。
やっとのことで「練習は、いいことだもんな…」と返した。
練習前からどっと疲れたんだが。くそ。
…神よ、バレーボールの神よ。俺にあるハズの純粋さをぜひとも今お戻し下さい。
もしくはここにいる天然カップルどもに進展もしくは意識するという力をお授け下さい。
「今度、宜しければ田中さんの指でも練習させて頂いてもいいですか!」とやっちゃんが言う。
「ああ…好きにしたまえよ…。」と言おうとすれば何故か影山が顔を顰めてから口を開いた。
「…ダメだ。谷地さん、まだ上手くないから田中さんの指傷つけるかも」
「ひぇ!そ、それはダメです…」
「だから当分は俺で練習した方が、いいっす」
「…そか。じゃあ宜しくお願いシャス!」
「うす。」
…いや気付けやっちゃん。
影山の方が格段に指傷つけちゃいけないポジションだし、それに嫌がるということを。
(あー本当。無意識の嫉妬ってやつですか…)
勘弁してくれと思いながら、他のメンバーが早く来てくれることを祈る俺であった。
…今日も本当に、練習日和だこと。
prev /
next