▽ 君からのボールが欲しい / かげやち
高校生 / 合宿中の夜の自主練の話
ぽーん、とボールが山なりを描いて自分のもとへくる。
ただ、(いつもと違う、…なんだ?)と影山は感じていた。
言わずもがな影山はセッターとしては天才であり、バレーに関しては感覚も人一倍鋭敏だ。
でも、試合中もどんなボールが返球されてくるかは分からない。
だから最善を尽くして自分の指にボールをかけ、トスをあげる。
違和感はあっても、手を抜かずトスを上げればコン、ココン…とペットボトルが倒れ「…っし!」と我知らずガッツポーズと声が漏れる。
…が、影山はここでまた違和感を感じる。
(…あ?)
ここで成功すればいつも自分よりもはしゃいで「やったあ!すごいっす!」と言ってくれる声が無いのだ。
「谷地さん…?」
ここでようやっと影山は違和感を発しているだろう球出しの主に声をかけた。
影山はバレーに関しては感覚も人一倍鋭敏だが、それが対人となると…ぐんと感度が落ちる。
その低感度のそれにやっと引っかかり、意識を向ければ彼女は顔を真っ青にして立っていた。
常の挙動不審とも取れるくらいの活発さはなりを潜めて、立っているのも精一杯のような―――そんな顔だったのだ。
*
まずい、と谷地は思った。
影山がこっちを見て目を見開いている、ということはこちらの異常さに何かしら気づいたということで、ありがたいような困った事態になったと彼女は考える。
何せこれから対処するにしても今ここには影山と谷地の2人だ。
谷地としては影山に知られるのは非常に気まずく―――要は、女子の月の物が原因なのだ。
鎮痛剤も持ってきてたのに普段より症状が重くて足りなくなるという体たらくで、かつ他の女子マネに彼女らの分を奪うようにありませんかと尋ねることも気が重い。
(彼女らは気にしないだろうが谷地はそこまで考えて遠慮する質だ)
多分今日一日を乗り越えれば明日からはそんなに酷くないはずだ、といつもの経験から算出して今日を過ごしていたのに最後の最後で…と谷地は思う。
「どうした、谷地さん」
「え、えっと、なんでも、ないデス!」
「…いや。顔真っ青じゃねえか」
「う、うぅ…」
どうやって説明したものか。
多分影山は自分を普通の風邪とかそういった類の体調不良だと心配しているのだ。
谷地はお腹の底から響いてくる鈍痛と戦いながら頭をフル回転させる。
なにより折角自主練での成功率も上がってきているところなのに、自分のことで中断させてしまうのが谷地は嫌だった。
「ちょ、ちょっと立ちくらみが!もうすぐ収まるし、練習!続けましょう!」
「…嘘だ。そんな顔色の悪さじゃねえよ」
「ふぐ、」
「…解った、やめる」
「えええええ」
まだ自主練始めて10分くらいしか経っていないのにあの、影山が、やめると言いだした。
そこに谷地は衝撃と申し訳なさがいっぺんに押し寄せてきて同時に涙腺をがっつりと刺激されてぼろ、と涙を落としてしまった。
「?!谷地さん?!」
「そ、そんな、もうしわけ、ない、…!」
「いいす、気にしなくて」
「で、でも…!」
「……また、元気になった谷地さんにボール上げてもらう方が、いい」
「へ、え…!」
そう言い放ってがちゃがちゃと片づけを始める影山の後ろ姿は少し照れているように見えるのは気のせいだろうかと谷地は目をこする。
原因はともあれ、影山に気遣ってもらえた上に嬉しい言葉をもらえると思ってなかった谷地はその言葉をかみしめてふにゃ、と笑う。
「影山くん、」
「あ?」
「あ、明日は、がっつりお手伝いするっす!」
「…ウス」
君からのボールが欲しい
(君からのボールを受けて、強くなる)
*せーり要素途中でどっかいっちゃった…;;;;
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